ブルーノ・マーズの歌声の変遷|「もっと歌いたい」から、相棒の歌を支えるまで

2017年の24K Magicツアーでのブルーノ・マーズ シンガー
slgckgc / CC BY 2.0

2016年のアルバム『24K Magic』について、ブルーノ・マーズは以前の作品より「もっと歌いたかった」と振り返っています。
ところが2021年、アンダーソン・パークと組んだSilk Sonicでは、パークがドラムを叩きながら歌い、自分はその歌を支えて出番を待つことを、音楽家としての夢のように語りました。

自分の歌をもっと聴かせたかった人が、なぜ別の歌手を支えることを喜んだのでしょう。
二つの発言の間にあるのは、歌う力が弱まったという話ではありません。
一人の主役を演じる曲、バンドが踊れる曲、二人がやり取りする曲を作る中で、自分の声が担う仕事を選び直してきたのです。

2006~2013年|一人で歌う曲も、仲間と作っていた

デビュー当初のブルーノにも、共同制作者はいました。
作曲家フィリップ・ローレンスによれば、二人は2006年に出会い、曲作りを続けています。
2010年の「Just the Way You Are」も、ブルーノが誰にも頼らず作った歌ではありません。
ただ、リードを担う歌手は彼一人です。

2010年、ヒューストンで演奏するブルーノ・マーズ
2010年、ヒューストンで演奏するブルーノ・マーズ。
写真:Brothers Le / CC BY 2.0

次のアルバム『Unorthodox Jukebox』(2012年)には、違う場面で歌うブルーノが並んでいます。
ローレンスは、ピアノの前で感情をあらわにする歌を二人で作りたかったと話し、その願いから「When I Was Your Man」が生まれました。
ピアノと一人の声で、後悔する人物の言葉を進める曲です。

一方、同じアルバムの「Treasure」は、最初のツアーを経て、バンド全体で踊り、演奏を楽しめる曲が欲しくなったことから作られました。
バラードを歌う時代が終わってダンス曲に移ったのではなく、親密な歌と舞台を動かす歌が同じ時期に共存していたのです。

最初のアルバムを携えて世界を回ったことで、自分たちは舞台でどんな気分になりたいのか、観客は何を喜ぶのかが見えてきたと、ローレンスは振り返っています。
踊り、バンドで楽しみたいのに、初作にはそのための曲がまだ十分ではなかった。
次作の曲選びには、録音を完成させたあとで初めて分かった舞台上の欲求が反映されていました。

「When I Was Your Man」のピアノと高音が、後悔する人物をどう描くかは、ブルーノ・マーズの歌い方で詳しく扱っています。

2016年|「もっと歌う」を、一枚のアルバムに収める

『24K Magic』を作るとき、ブルーノは曲をばらばらに並べるのではなく、一本の映画のような作品を思い描いていました。
本人によれば、表題曲はその幕開けです。
共同制作者たちと踊れる音楽の世界を絞り込みながら、以前のアルバムより自分の歌声をもっと聴かせたかったと話しています。

その「もっと歌いたい」は、すべてを一種類の派手な歌にするという意味ではありませんでした。
ブルーノが例に挙げたのは、バラードの「Versace on the Floor」と「Too Good to Say Goodbye」です。
客席を動かす表題曲と、旋律を長く歌う曲の両方を、同じ作品の中へ置いたのです。

そのために、完成間近の曲を一度ほどくこともありました。
「Versace on the Floor」の初期案には、本人も周囲も笑顔になる、気に入った歌詞がありました。
ところが伴奏はくつろいだ雰囲気で、ブルーノがアルバムの大きなバラードに求める感覚とは合いませんでした。
まず伴奏を壮大なものへ変えてみても、まだ納得できなかったのです。

そこで彼が問題にしたのは、自分が十分に歌えていないことでした。
ゆっくりした曲で聴き手を引き留めるなら、言葉で情景を説明するだけでなく、歌そのものを届けたい。
旋律を新しく作り、それに合わせて歌詞も書き直しました。
気に入っていた言葉を残すことより、その曲で歌手が何をするかを優先したのです。

録音を何度も重ねれば解決する、という判断ではありません。
歌い手が力を発揮できる旋律かどうかまで戻って作り直したところに、2016年の「もっと歌う」の具体的な中身があります。

一方、表題曲の幕開けには、自分以外の声も求めています。
「24K Magic」のイントロは、トークボックスを使うMr. TalkBoxが担当しました。
ブルーノはその演奏を高く評価し、作品の始まりに必要だと考えたのです。
自分の歌を前へ出す作品でも、曲が求める場面は別の歌い手に任せていました。

この時点で、ブルーノはすでにローレンスらと作り、バンドと演奏していました。
あとでSilk Sonicを組んだから初めて共同制作を覚えたわけではありません。
変わるのは、作品を共に作る人だけでなく、歌の前面に立つ人がもう一人増えることです。

2021年|パークの歌を支え、自分の番で入る

コロナ禍で公演が止まった時期、ブルーノとパークは、ライブを観るように聴けるアルバムを目指しました。
『An Evening with Silk Sonic』では、歌手でドラマーのパークが、ブルーノと並んで曲の主役になります。
ブルーノは、パークがドラムの後ろで歌い、バンドが同じ方向へ進む中で、彼の歌を支えて自分の出番に加わる姿を語っています。

「Leave the Door Open」では、二人の声が交替しながら一曲を進めます。
ブルーノの歌が目立つ場面も、パークの歌を受けて現れるから、ソロ曲とは役割が違います。
「もっと歌いたい」という2016年の願いと、2021年に相棒を支える喜びは、歌う場所を自分で考えるという点でつながっていました。

もっとも、二人がそろえば最初からその形ができたわけではありません。
共同制作者のDマイルによると、「Leave the Door Open」はブルーノが持っていた題名と構想から始まり、音や歌詞を何度も組み替えて仕上げた曲でした。
三人は楽器を手に取り、気に入るものが生まれるまで演奏を重ねています。
完成した曲の滑らかなやり取りの前に、互いの案を試し、作り直す時間がありました。

2016年には一人の歌を十分に聴かせるために旋律を作り直し、2021年には二人で歌う一曲の形を探した。
細部まで手を入れる姿勢は続きながら、完成形に必要な歌い手の関係が変わっていったのです。

2018年のロスキレ・フェスティバルで歌うアンダーソン・パーク
2018年のロスキレ・フェスティバルで歌うアンダーソン・パーク。
写真:Henry W. Laurisch / CC BY-SA 4.0

別の曲「Smokin Out the Window」では、その共同作業が歌の表情にもなります。
ブルーノによれば、二人は歌詞をやり取りし、どちらが相手を笑わせられるかと試しながら曲を仕上げました。
一人で完璧に歌い上げるのとは違い、相手の言葉や演奏を受けて次の一節が決まっていく面白さがあります。

2026年|ソロ作でも、バンドを同じ部屋に集める

2026年の『The Romantic』は、2016年以来となるブルーノ名義のソロアルバムです。
Silk Sonicを共に制作したDマイルや、以前からの共同制作者たちが参加しています。
Dマイルは、今回はバンドの演奏者を同じ部屋に集めて録音できたことを喜んでいます。
三人で楽器を持ち寄って曲を試していたSilk Sonicから、演奏者を集めた録音へと、同じ場で音を作る機会が広がりました。

表に出る歌手の名義はブルーノ一人に戻っても、制作は以前よりさらに演奏者が同じ場を共有する形になりました。
Silk Sonicで得た経験を捨てて、2016年のソロ作品へそのまま戻ったわけではありません。

歌う量より、曲の中で何を担うか

「When I Was Your Man」では、後悔する一人の人物の声を担い、「Treasure」ではバンドが動く舞台を考えました。
『24K Magic』では自分の歌をもっと聴かせようとし、Silk Sonicではパークの歌を支えてから自分の番で入る。
2026年のソロ作でも、バンドとの制作は続きました。

「もっと歌いたい」と「相棒を支えたい」は、反対の願いではありませんでした。
2016年に自分の歌を前面に出そうとした人が、2021年にはパークの歌を支える出番を夢と呼びました。
独りで歌い上げる力を手放したからではなく、相棒の声を受けて歌うことにも、自分の役割を見つけたからです。

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