ブルーノ・マーズは、アンダーソン・パークとのデュオ、Silk Sonicで、相棒の歌を支えることにも喜びを見いだしました。
アンダーソン・パークがドラムを叩きながら歌い、自分はその歌を支え、出番が来たら加わる。
本人が音楽家としての夢のようだと語ったのは、そんな二人とバンドの姿です。
すでにソロで成功していた歌手が、もう一人の歌を支えることを喜ぶ。
ここには、曲のジャンルが昔風のソウルになった、というだけでは説明しきれない変化があります。
ピアノと一人の声で成立した「When I Was Your Man」から、相棒の声やリズムが欠かせない「Leave the Door Open」へ。
ブルーノが歌の中で何を担うようになったのかをたどると、この共演が面白くなります。
2012年――一人の告白を、ピアノと声で聴かせる
『Unorthodox Jukebox』の「When I Was Your Man」は、ピアノと歌だけで作られた曲です。
一人の主人公が後悔を口にし、その告白が、ブルーノ自身の歌声を通じて進んでいきます。
ここでは、誰かが別の声で話に割り込んだり、主人公の言葉へ返事をしたりすることはありません。
曲の各部分には旋律の対比があり、声が高まる場面もあります。
しかし、それらをすべて一人の歌手が担うので、聴き手は一人の人物が気持ちを深めていくように受け取れます。
演奏者の人数が少ないこと以上に、歌の中心にいる人物が一人であることが、このバラードの特徴です。
もちろん、ブルーノはこの時期から共同制作者と曲を作っていました。
「一人の告白」とは、一人で録音も作曲もしたという意味ではありません。
作り手が何人いても、完成した曲では一人の主人公の声へ聴き手の注意を集められる、ということです。
あの高音と後悔の言葉の関係は、ブルーノ・マーズの歌い方で詳しく扱っています。
この一人で主人公を演じる歌い方が、後年の二人の歌を考える手がかりになります。

バンドと踊れる曲が、もっと欲しくなった
一方、ソロ活動を続けるブルーノが求めていたのは、バラードを増やすことだけではありませんでした。
最初のアルバムのツアーを経験したあと、ブルーノとフィリップ・ローレンスは、自分たちがステージでどう楽しみたいのかを考えます。
踊りたいし、バンド全体で盛り上がりたい。
ローレンスが語る「Treasure」の出発点には、その実感がありました。
これは、静かな歌をやめたという話ではありません。
「When I Was Your Man」と「Treasure」は、同じ『Unorthodox Jukebox』に入っています。
後悔を一人で歌うブルーノと、バンドとともに観客を楽しませるブルーノは、初期から同じアルバムの中にいたのです。
2016年の『24K Magic』では、体が動くリズムへのこだわりがさらに制作の中心になります。
本人は、ツアーでもテレビでも動いていたいと語り、曲を何度も練り直していました。
その一方で、バラードの「Versace on the Floor」も残しています。
活動の変化を「静かに歌う時代から、踊る時代へ」と一直線に分けると、この幅を見落としてしまいます。
変わっていったのは、歌える曲の種類だけではないのでしょう。
バンドがどう動き、観客がどう過ごすかまで想像する姿勢が、曲を作り直す判断にも表れています。
その延長に、次の相棒との制作があります。
2021年――主役の声が、二つになった
Silk Sonicの相手、アンダーソン・パークは、歌手でありラッパーであり、ドラマーでもあります。
ブルーノの歌に一節だけ参加するゲストではなく、曲を作り、演奏し、歌う相棒です。
二人と制作をともにしたDマイルも楽器を弾くため、スタジオでは三人がバンドのように音を出していたといいます。
『An Evening with Silk Sonic』を作る間には、コロナ禍で公演が中止される時期も重なりました。
そこで二人が目指したのは、コンサートを味わうように聴けるアルバムでした。
「歌の録音を完成させたら、あとでステージを考える」という順番ではなく、演奏する場面が最初から曲作りに入り込んでいたのです。
2021年の「Leave the Door Open」は、二人が恋人を誘う甘い曲です。
パークが話しかけるように歌い始め、ブルーノがサビの旋律を大きく歌い上げます。
声の掛け合いがあるため、ブルーノが高く歌う場面にも、直前まで別の人が歌っていたという違いが生まれます。
「When I Was Your Man」では、一人の声の変化が感情の変化を担っていました。
こちらでは歌う人が替わること自体が、曲を動かします。
そのため、ブルーノの出番だけを取り出して聴くのと、パークの歌から続けて聴くのとでは、盛り上がりの受け取り方も変わるでしょう。
短い言葉のやり取りと、長く伸ばす旋律との対比を、二人が交替しながら作っていく。
歌手が増えたことで、一人の歌声の強弱とは別の方法でも、曲に変化を付けられます。
この曲の制作でも、Dマイルたちは音や歌詞を何度も組み直し、二人の組み合わせが生きる完成形を探しました。

同じ失恋でも、相棒となら笑える歌になる
二人で歌う面白さは、「Smokin Out the Window」でさらに分かりやすくなります。
ブルーノとパークは2017年のツアー中に、この曲のもとになる案を作りました。
のちに仕上げるときには、どちらが相手を笑わせるかというように、歌詞をやり取りしていたそうです。
歌の主人公は、恋愛がうまくいかず、ひどく腹を立てています。
ただ、本人たちの説明では、怒りの奥にあるのは、傷ついた自尊心と戻ってきてほしい気持ちでした。
勢いよく悪態をついても、本当は恋人を諦め切れていない男なのです。
ここが「When I Was Your Man」と比べると面白いところです。
どちらにも恋愛で弱った人物がいますが、その弱さの見せ方が違います。
「When I Was Your Man」では一人が自分の非を認め、「Smokin Out the Window」では二人の歌と台詞が、腹を立てている人物の大げささまで描きます。
ブルーノのよく通る歌声も、その中では、ただ立派に歌い上げるためのものには聞こえなくなります。
相棒がふざけたり嘆いたりするすぐそばで真剣に歌うから、主人公の必死さが、気の毒でもあり、おかしくもなる。
二人で笑いながら作ったという背景を知ると、歌の上手さとユーモアを別々に考えずに楽しめます。
ソロに戻っても、共同制作は続く
2026年のソロ作『The Romantic』でも、Silk Sonicに参加したDマイルとの制作は続きました。
曲の雰囲気や編成を変えながら、いくつもの版を作る方法も引き継がれています。
歌手として誰と並ぶかは作品ごとに変わっても、仲間と音を出し、作り直しながら歌の形を探す仕事は続いているのです。
変わったのは、高音の高さよりも、その前後にいる声
ブルーノの歌唱をこの流れでたどると、「以前より声が高くなったか、低くなったか」とは別の変遷が見えてきます。
ピアノだけのバラードでは、一人の声で後悔の始まりから盛り上がりまでを担う。
Silk Sonicでは、パークの声を支え、自分の番で歌い上げ、ときには二人で一人の男の情けなさを描く。
よく歌える主役であることに、別の声と一緒に場面を作る役割が加わったのです。
Silk Sonicを聴くとき、ブルーノの高音を待つのと同じくらい、その直前にパークが何を歌っているかにも注意を向けてみる。
そうすると、昔から持っていた華やかな声が、相棒のいる曲でどう違う働きをするのかが見えてきます。
一人で成立する歌を歌える人が、二人で歌う理由は、そこにあるのでしょう。
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