coldrainのMasatoさんの歌唱変遷は、高音が年々出るようになったという単純な成長ではありません。
初期にはライブの叫びを録音へ持ち込めず、海外制作では逆にライブで通して歌うことを忘れ、一行ずつ最良の声を作りました。
やがてスタジオでしか出せなかった音色をライブへ持ち帰り、近年は完璧に整えることさえ手放しています。
声の変化を貫いているのは、ステージと録音のどちらを基準にするかを何度も入れ替えてきた歴史です。
2007年から2009年、ライブでは叫べても録音に感情が残らなかった
coldrainは2007年、名古屋で結成されました。
翌年に「Fiction」でデビューし、2009年には初のフルアルバム『Final Destination』を発表します。
この時期からMasatoさんには、英語の旋律、高いクリーン、激しい声という現在へ続く材料がありました。
ただし本人は、初期の音源に大きな隔たりを感じていました。
ライブではもっと叫び、感情を前へ出せるのに、録音すると意図した歌にならなかったのです。
初期の課題は、声が弱かったことではなく、ステージで起きていることをマイクの前で再現する方法を知らなかったことでした。
2010年、録音環境を変えてライブの緊張感を音源へ近づけた
ミニアルバム『Nothing lasts forever』では、スタジオと制作環境を変えました。
Masatoさんは、そこで初めて自分の思う感情や歌い方を録音へ出せたと振り返っています。
ライブの勢いをそのまま音量だけで持ち込んだわけではありません。
マイクの前で感情を再現しつつ、緊張感を自分で制御できるようになったことが変化でした。
音源とライブの差をなくそうとした最初の数年は、現在から見ると逆説的です。
後にはスタジオだけで作れる声を求めるようになりますが、その前に「普段の自分を録音に残す」という基礎を手に入れる必要がありました。
2012年から2013年、海外プロデューサーが声を世界仕様へ作り直した
2012年の『Through Clarity』で、coldrainは初めて海外録音へ踏み出しました。
David Bendethとの制作は、演奏の音を大きくするだけでなく、メロディーと激しさの対比を作品全体で見直す機会になります。
続く『The Revelation』では、その経験をフルアルバムへ広げました。
日本のライブハウスで鍛えた勢いを残しながら、海外の聴き手にも一度で届く歌の輪郭が必要になった時期です。
Masatoさんの役割も、激しいバンドのフロントマンから、重い演奏の中央に国境を越える旋律を置く歌手へ広がりました。
英語詞は海外風に見せる飾りではなく、バンドが日本の外へ出るための実際の声になっていきます。
2015年、広い会場へ届く声と廊下で録った叫びが同居した
『VENA』を作る頃、coldrainは小さなライブハウスだけでなく、大きな会場で音楽がどう届くかを考えるようになりました。
LINKIN PARKの公演を見た経験から、初期曲と後期曲では、スタジアムを満たす設計が違うことにも気づいています。

一方で、録音は整った方法だけに向かいませんでした。
タイトル曲「VENA」のシャウトは通常の場所に加え、廊下でも録り、その場の響きを持つテイクが採用されています。
大きな会場に届く分かりやすい旋律と、偶然性のある荒い録音が同じ作品へ入りました。
Masatoさんの声は、この頃から「きれいに拡大する」だけでなく、場所そのものを音色へ混ぜる方向にも進みます。
2017年、ライブで歌えるかを忘れて一行ずつ最高の声を選んだ
『FATELESS』では、Elvis Basketteとの制作が新しい転機になりました。
Masatoさんは、ライブで一曲を再現できる形に縛られず、一行ずつ重ねて録る方法を求められます。
一行ごとなら、息の残量や次のフレーズを気にせず、その瞬間に最も強い音色を選べます。
完成した音源では声が演奏に埋もれにくくなり、Masatoさん自身も録音の声に自信を得ました。
2009年にはライブの自分を録音へ入れられないことが問題でした。
八年後には、ライブの制限をあえて外すことで、録音の中にまだ存在しない自分を作っています。
声の基準が、ステージからスタジオへ反転した瞬間でした。
2019年、スタジオで作った声をライブへ持ち帰った
『THE SIDE EFFECTS』期には、もう一度大きな変化が起きます。
Crossfaithと「Faint」をカバーしたことからChester Benningtonの声を研究し、Masatoさんは「叫びながら歌う」音色を見つけました。
最初はライブで安定して使える声ではありませんでした。
録音で納得するまで繰り返し、その方法を続けた結果、ステージでも出せるようになっていきます。
ここで2017年の反転が次へ進みました。
ライブを忘れて録った声が、練習と本番を経て、今度はライブの選択肢として戻ってきたのです。
クリーンとシャウトの間に攻撃的な歌声が増えたことで、旋律から叫びへ移る坂道がなめらかになりました。
現在の発声の仕組みは、coldrain Masatoさんの歌い方・発声分析で詳しく整理しています。
2022年から2024年、原点を再録して現在の声を昔の曲へ戻した
2022年の『Nonnegative』は、Masatoさんたちにとって、もう一度ファーストアルバムを作るような作品でした。
ただし、デビュー時に持っていなかった技術を使い、初期の衝動へ戻るという意味です。
その考えを最も直接的に示したのが、2024年の『FINAL DESTINATION (XV RE:RECORDED)』でした。
2009年の全12曲を、15年後の演奏と歌で録り直しています。

普通のベスト盤なら、昔の録音と現在の録音は別々に並びます。
この再録では、初期曲の中へ、海外制作、一行ずつの録音、攻撃的なクリーンを経験した現在のMasatoさんが戻りました。
同年の「VENGEANCE」は、アニメの物語から先に「復讐」という核を受け取り、そこから曲と言葉を作った作品です。
初期には自分たちのライブを音源に残すことが課題でしたが、今度は別の物語へ自分の声を接続できるようになりました。
2025年から2026年、英語という境界と完璧さを自分で崩した
長く英語詞を守ってきたcoldrainは、2025年の「CHASING SHADOWS」で日本語を含む歌へ踏み込みました。
英語を捨てたのではなく、自然に書けない言葉を無理に使わないという姿勢を保ったまま、必要な曲で境界を越えた変化です。
同時期の『OPTIMIZE』では、「完璧であることをやめる」という考えが前へ出ました。
声のデジタル処理も隠す対象ではなく、曲に必要な表現として使われています。
2026年8月には、The UsedのBert McCrackenを迎えた「POISON」を発表しました。
Masatoさんの伸びる歌声と、Bertさんの切迫した声を対立させ、一人で全部の色を担うのではなく、他者の声によって曲を広げています。
9月25日発売予定のアルバム『OPTIMIZE = OPTDEMISE』を前に、Masatoさんの声は完成へ閉じていません。
録音を完璧にする技術を得たからこそ、不完全さ、日本語、加工、ゲストの声まで選べる段階へ進んでいます。
変わらなかったのは、激しさの中央にメロディーを残すこと
Masatoさんは、ライブを録音へ近づけ、次に録音をライブから切り離し、最後にそこで発見した声をライブへ戻しました。
方法は何度も反転しましたが、重い演奏の中央に聴き手がつかめる旋律を残す役割は変わっていません。
SiMのMAHさんの歌唱変遷が、叫ばない自由を増やしてメロディーを主役へ置いた歴史だとすれば、Masatoさんは録音で声の攻撃性を増やし、その強さを歌へ戻した歴史です。
二人ともクリーンとシャウトを使いますが、同じ道を歩いたわけではありません。
Masatoさんの場合は、スタジオとステージの往復そのものが、声の種類を増やす装置になりました。
まとめ
coldrainのMasatoさんの歌声は、初期のライブを音源へ残せない悩みから始まりました。
海外制作で一行ずつ最良の声を作り、録音でしか出せなかった音色をライブへ持ち帰り、現在は完璧さまで意図的に崩しています。
変化を一言で表すなら、ライブの叫びを録る歌手から、録音で新しい声を作り、それをライブの身体へ戻せる歌手になったということです。
高音やシャウトの強さは、その長い往復の結果として残ったものです。
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