MONGOL800のキヨサクさんは、最初からボーカリストを目指していたわけではありません。
ベースだけを弾いていた高校生が、歌っていたメンバーの脱退と、すでに決まっていたライブのためにマイクの前へ出ました。
ところが、その成り行きで始まった声が「小さな恋のうた」や「あなたに」を二十年以上支えています。
太く聞こえる秘密を特殊な発声名だけで探すより、無理に格好をつけず、言葉と旋律を同じ方向へ押し出す作り方を見る方が、キヨサクさんらしさへ近づけます。
ボーカル不在を埋めた声だから、飾る前に届くことが残った
バンド結成当初、キヨサクさんの担当はベースだけでした。
急に歌う役が空き、ライブを成立させるためにボーカルを引き受けたという出発点には、理想の歌手像へ自分を合わせる準備期間がありません。
この偶然は、現在の歌い方を考える手掛かりになります。
誰かのように美しく響かせることより、演奏の中心でメロディーと言葉を見失わないことが先に必要だったからです。
音楽媒体では、その声を素朴さや土の匂いを含む言葉で表す例があります。
発声解説では太い地声、はっきりした発音、裏声へ逃げないサビとして説明されることが多い一方、本人は声区の名前ではなく、曲がゆっくりでも生きるか、仲間へ伝わるかを制作の基準にしています。
専門用語より伝達を先に置く姿勢が、声の輪郭をまっすぐにしています。
キヨサクさんの歌は、上手さを見せるために旋律を飾るのではなく、旋律の向こうにいる相手へ言葉を渡す歌なのです。
「小さな恋のうた」のキーは声域よりベースの弾きやすさで決まった
代表曲の制作には、驚くほど実用的な理由がありました。
当時は自分の歌いやすいキーを把握しておらず、立ってベースを弾いた時に楽な場所を選んだ結果、Bの曲が多くなったと本人が振り返っています。

計算されていないから簡単、という意味ではありません。
「小さな恋のうた」は使う音域が極端に広くない一方、サビの高い音が何度も続くため、最高音を一度出せるだけでは最後まで保ちにくい曲です。
それでも多くの人が口ずさめるのは、細かな装飾より、短く覚えやすい言葉と大きな旋律の動きが前へ出ているからです。
キー設定の知識がなかったことは欠点でしたが、その無知さが、理屈より身体の位置と歌の勢いを優先する曲を生みました。
自分に合う高さを探す時も、有名歌手の原曲キーを正解にする必要はありません。
歌いやすいキーの見つけ方で整理している通り、最後のサビまで同じ声で運べる高さを選ぶ方が、キヨサクさんの「楽な場所から曲を作る」考えにも合っています。
太い声の正体は、大声より母音を途中で逃がさないこと
キヨサクさんの歌を扱う複数の解説では、低い部分でも声を曖昧にせず、サビでは地声感を残す点が共通して挙げられています。
一方で、すべてを胸声だけで押し上げていると断定する説明には注意が必要です。
同じ歌手でも、曲、音高、音量、母音によって声の混ざり方は変わります。
聞き手が「太い」と感じる要因には、声区だけでなく、母音を短く潰さないこと、子音の後へ十分な長さを残すこと、語尾まで息を抜き切らないことも含まれます。
「あなたに」では、低い語り口からサビへ移っても、日本語の形が急に細くなりません。
高音で母音を横へ広げすぎず、言葉の中心を保つため、音量以上に声が近く聞こえます。
これは高音に地声感を残す考え方とも重なります。
太さを増やそうと力を足すより、小さな音量でも言葉の輪郭が消えない状態を先に作る方が安全です。
ベースボーカルだから、音程より先にリズムが身体へ入っている
歌だけに集中するボーカリストと違い、キヨサクさんは低音を刻みながら旋律を歌います。
ベースの位置でキーを決めたという話は、楽器と歌が別々ではなく、同じ身体の動きから生まれていたことも示しています。
「小さな恋のうた」は速さが目立ちますが、本人は曲を作る時、まず遅いテンポでもメロディーが成立するかを確かめています。
現在は鼻歌からコードを探し、ギターやウクレレへ持ち替え、最後にバンドの速さへ変える方法を使います。
つまり、勢いの正体は最初から速く歌うことではありません。
遅くても倒れない旋律があり、その骨組みをベースとドラムで前へ運ぶから、速い曲でも言葉が置き去りになりにくいのです。
カラオケで表面の疾走感だけを追うと、サビに入る前から呼吸が浅くなります。
まず伴奏を小さくして言葉を一定の速さへ置き、そこから原曲のテンポへ戻すと、この歌の強さが声量ではなく拍の安定にあることが分かります。
ジャマイカで覚えたのは、正解を待たずに声を置く瞬発力
キヨサクさんの歌は、MONGOL800だけで閉じていません。
レゲエ作品のために初めてジャマイカで録音した時、空港からそのままスタジオへ入り、毎回違うカウントで進むセッションへ参加しました。
そこでは、説明を待って控えめにしていると、自分の入る隙間がなくなります。
本人は、周囲が自分の演奏を強く信じて前へ出る環境にもまれ、ボーカルとしての瞬発力が鍛えられたと語っています。

初期の直線的な歌に、この経験は別の強さを足しました。
決めた通りに大声を出す強さではなく、相手のリズムを受け取り、その場で自分の声を置く強さです。
SPECIAL OTHERS、東京スカパラダイスオーケストラ、WANIMAなど相手が変わっても、キヨサクさんの声は埋もれません。
音色を派手に変えるより、自分の言葉を置く位置を変えることで、異なる音楽へ入っていきます。
ウクレレの弾き語りで分かるのは、太さの下にある柔らかさ
大きなバンド音がないウクレレジプシーの活動では、声の別の面が見えます。
速いドラムや歪んだギターがなくても曲が成立するよう、語尾を急いで切らず、言葉の間へ余白を置きます。
この柔らかさは、MONGOL800の強い歌と反対ではありません。
本人が曲を遅くしても生きるか確かめるようになったことで、速い曲の内側にもゆっくりした旋律が残りました。
太い声を真似するなら、まず音量を上げるという発想から離れた方がよいでしょう。
ウクレレ一本でも届く言葉の長さとリズムを保ち、その上へ必要なだけバンドの勢いを足す順番が、キヨサクさんの歌を理解しやすくします。
真似するなら、沖縄らしい声色ではなく「照れくさいまま残す」姿勢
沖縄出身だからこの響きになる、と声質を地域だけで説明することはできません。
土地の言葉や音楽は表現へ影響しますが、声帯の使い方まで出身地で決まるわけではないからです。
参考にしたいのは、過去の曲を現在の上手さで塗り直しすぎない姿勢です。
キヨサクさんは昔の曲を聴くと照れくささを感じながらも、その時代の自分が残るものとして、あえてそのまま受け入れています。
歌い慣れた曲ほど、技巧を足して成長を見せたくなります。
しかし「小さな恋のうた」が求めるのは、ビブラートやフェイクの多さではなく、昔の言葉を今の聴き手へ同じ熱量で渡すことです。
喉を締めて荒さを作ったり、低音を不自然に暗くしたりする必要はありません。
痛みや強いかすれが出る場合は高い声で喉が痛くなる原因を確認し、声色より普段の話し声が保てることを優先してください。
まとめ
MONGOL800のキヨサクさんの歌い方が太くまっすぐ届く理由は、特殊な高音だけにありません。
歌う予定のなかったベーシストが、楽器を弾きやすい場所で曲を作り、遅くても生きる旋律と言葉を飾らず前へ出してきたことが土台です。
ジャマイカでの即興やウクレレの弾き語りを経て、歌には柔らかさと瞬発力が増えました。
それでも、昔の照れくささを上手さで消さず、その時の言葉をそのまま渡す姿勢は変わっていません。
キヨサクさんらしさを参考にするなら、大声や沖縄らしい声色を表面だけ真似するより、楽な高さで言葉と拍を保ち、曲の中心を迷わず相手へ届けることから始めるのが近道です。
こちらの記事もおすすめ






コメント