エルトン・ジョンの歌い方|他人が書いた言葉を、自分の気持ちで歌うまで

2014年、ロサンゼルスで歌うエルトン・ジョン エルトン・ジョン(Elton John)
Tony Hisgett from Birmingham, UK / CC BY 2.0

「Your Song」を歌うエルトン・ジョンは、目の前の相手に自分の思いを伝えているように感じさせる歌手です。
けれど、その言葉を書いたのは、長年の相棒である作詞家バーニー・トーピンでした。
エルトンは歌詞を受け取り、そこから旋律を作り、自分の声で歌います。

この分担を知ると、彼の歌い方を考える楽しみが一つ増えます。
他人が書いた言葉が、どのようにして、これほど本人の気持ちを感じさせる歌になるのでしょうか。
鍵になるのは、言葉を旋律の中へ収める細かな工夫と、歌詞を読んだときに動く本人の感情です。
1970年に発表され、翌年のテレビ番組『Top of the Pops』でも歌われた「Your Song」には、その両方を考える手がかりがあります。

歌詞を読むところから、歌が始まる

1971年、ヨーテボリで演奏するエルトン・ジョン
1971年、ヨーテボリで演奏するエルトン・ジョン。写真:yabosid (Flickr) / CC BY-SA 2.0

エルトンとバーニーの代表的な作り方は、先に歌詞があり、あとから曲ができるというものです。
完成した旋律に合う言葉を探すのではなく、エルトンが歌詞の物語を読み、その内容に刺激を受けてピアノへ向かいます。
作詞と作曲を別々に進めてきた二人にとって、歌詞は相手から届く新しいアイデアでもありました。

「Your Song」の歌詞を渡されたときも、エルトンはピアノに座って読みました。
彼が覚えているのは、とてもよい歌詞なので、曲をつけて台無しにしたくないと思ったことです。
旋律はすぐにでき、バーニーを呼んで聴かせました。

速く作曲した話だけを聞くと、手慣れた仕事のようにも思えます。
しかし、本人が先に感じたのは、受け取った言葉のよさを生かしたいという気持ちでした。
歌詞を読んで心が動き、その気持ちに合う旋律を探す。
歌う前のこの順序が、エルトンと歌詞の距離を縮めています。

「Your Song」の言いよどみを、旋律の中へ

「Your Song」の主人公は、気持ちを格好よく言い切れる人ではありません。
相手に何を贈れるかを考えたり、伝えたいことを言い直したりする、その不器用さが歌の大切な部分です。
バーニー自身も、この曲の若々しい無邪気さが、新しい世代にも届く理由だと考えていました。

ここで歌手に必要なのは、長い音を美しく伸ばすことだけではありません。
少し回り道をするような言葉も、歌の一節として聞かせる必要があります。
言葉を等間隔に並べるだけでは、文章の流れと旋律の流れがぶつかってしまいます。

エルトンは、この曲の言葉数の多い一節について尋ねられた際、バーニーの歌詞を歌ってきたため、一行に多くの言葉を収めることに慣れていると説明しています。
本人が挙げたのは、フレージングの工夫でした。
フレージングとは、ひとまとまりの言葉を、どこで区切り、どこをつなげ、どのくらいの長さで歌うかということです。

言い直しのある歌詞なら、その言い直しも含めて一人の人の発言になります。
エルトンの説明を踏まえると、「Your Song」で注目したくなるのは、最高音よりも、言葉が立て続けに出てくるところです。
いくつもの言葉を歌の時間に収める工夫が、相手へ思いを伝えようとする人物を支えています。

本人が気に入らなかった歌声を、周りは残したかった

言葉の歌い方には、本人の思い通りにならないこともあります。
1974年の「Don’t Let the Sun Go Down on Me」では、エルトンは何度歌っても納得できず、アルバムから外して別の歌手に渡すことまで提案しました。

この曲で目指していたのは、ビーチ・ボーイズやフィル・スペクターの作品を思わせる、厚みのある華やかな音でした。
ところが、プロデューサーのガス・ダッジョンやドラマーのナイジェル・オルソンが曲に強い手応えを感じる一方で、主役のエルトンは自分の歌唱に満足できなかったのです。

ガスは曲を捨てず、コーラスや管楽器を加えて仕上げました。
そのコーラスに参加したトニ・テニールは、エルトンが「discard」という単語を「ディスコード」に近い母音で、アメリカ風に強調して歌うところを気に入っていました。
ガスも、その発音を直したり、伴奏の陰に隠したりせずに残します。

本人が納得できなかった録音の中に、共演者は残したい響きを見つけていたわけです。
歌の言葉は、辞書にある発音だけで魅力が決まるものではありません。
母音の聞こえ方や、一語にかける力も、その歌手の印象になります。
「Your Song」で言葉のつなげ方が大切だったように、この曲では一語の歌い方が、エルトンの声を記憶に残す要素になっていました。

気持ちが強すぎて、その日は歌えなかった

2024年、米国議会図書館でのエルトン・ジョン
2024年、米国議会図書館でのエルトン・ジョン。写真:Library of Congress Life / CC0

歌詞への思いが強ければ、その場ですぐによい歌を録音できるとも限りません。
2023年、ブランディ・カーライルとのアルバムを制作していたエルトンは、「When This Old World Is Done with Me」の作曲中に泣き出してしまいました。
この曲は、2025年の『Who Believes in Angels?』の最後に収められています。

バーニーが書いたのは、人生の終わりを見つめる歌詞でした。
エルトンはピアノで曲をつけながら読み進め、サビに来たところで、自分にも残された時間に限りがあるという思いに圧倒されます。
本人の話では、45分ほど涙が止まりませんでした。

そこでプロデューサーのアンドリュー・ワットは、その日のうちに歌を録り切ろうとはしませんでした。
翌日に改めて、ピアノを弾きながら歌うことを提案します。
実際の歌とピアノは、翌朝、同時に一度で録音されました。

この経緯を知ると、完成した歌の感情を、泣きながら歌った勢いだけで説明することはできません。
歌詞を読んで動いた気持ちを、翌日、改めて演奏と歌にして届けたのです。
強い感情と、最後まで曲を歌うための落ち着き。その両方を必要とした録音でした。

言葉を収める技術と、言葉に動かされる気持ち

エルトンの歌を支えているのは、歌詞を自分で書いたかどうかよりも、受け取った言葉をどう歌うかです。
「Your Song」では、言葉数の多い一節も旋律の中へ収める。
「Don’t Let the Sun Go Down on Me」では、本人にも見えなかった一語の魅力を、共演者が見つける。
「When This Old World Is Done with Me」では、歌えなくなるほど動いた気持ちを、翌日の演奏へ持っていく。

どの話にも、歌詞と声の間にある、歌手の仕事が見えます。
文字を正しく読むだけでも、感情を大きく表すだけでも、同じ歌にはなりません。
言葉の長さや響きを扱う技術があり、その言葉を自分のこととして受け止める瞬間があります。

長い活動の中では、歌詞を届ける声そのものも変わりました。
低い音域を学んだ時期と、後年の声についての本人の考えは、エルトン・ジョンの歌声の変遷でたどっています。

「Your Song」に戻るなら、言葉が少し込み入る一節まで耳を向けてみてください。
相手に何とか気持ちを伝えようとする人物と、その言葉を一つの歌にするエルトンの工夫を、重ねて楽しめるはずです。

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