内田真礼の歌唱変遷|「一番いい声」の正解を離れ、等身大の歌へ

『TOKYO-BYAKUYA』の歌声を語る2024年の取材に掲載された内田真礼 シンガー
『TOKYO-BYAKUYA』の歌声を語る2024年の取材に掲載された内田真礼

自分の一番いい声が分かれば、歌うときの迷いは減りそうです。
ところが内田真礼は、その正解にこだわりすぎたことで、かえって表現に行き詰まったと振り返っています。

2014年の歌手デビュー当初は、自分らしい歌い方が何なのかを探していました。
そこから明るい歌声を自分の色として育て、やがて、以前なら内田真礼らしくないと思っていた声も使うようになります。
2024年の「永遠なんかありえない」では、高いキーで歌えるとしても、伝えたい内容のためにキーを下げることを選びました。

内田真礼の歌唱の変化は、得意な声を見つけたところで終わりません。
その声を大切にしながら、そこに収まらない自分をどう歌にするかという歩みでもあります。

デビュー当初は、自分の歌い方が分からなかった

声優としてキャラクターの歌を歌っていても、自分の名前で歌うときに何を表現するのかが、最初から決まっていたわけではありません。
内田は初期の活動を振り返り、キャラクターソングと自分の歌の違いもよく分からず、自分らしい歌い方を考え続けていたと話しています。

その時期に出会ったのが、田淵智也の楽曲でした。
2014年の2ndシングル「ギミー!レボリューション」の録音では、田淵が合いの手や掛け声の指示を担当しています。
本人が覚えていたのは、田淵が自分から場を明るくしてくれたことでした。

田淵にも理由がありました。
デビューして間もない内田が緊張しているかもしれないと考え、自分が元気に盛り立てる役を引き受けたのです。
歌い直しを頼むにしても、暗い調子で声を掛けて、さらに緊張させたくなかったと説明しています。

内田は、その後の1stアルバム『PENKI』に収録された田淵の2曲を含め、自分の色を引き出してもらったと感じていました。
自分らしさを一人で考え込んでいた時期から、作り手とのやり取りの中で、それを形にしていったわけです。
後年の本人が語る、普通に歌うと明るく楽しげになる声にも、ここで見つけた歌手としての姿が重なります。

自分らしい歌い方を振り返る2018年の取材に掲載された内田真礼
自分らしい歌い方を振り返る2018年の取材に掲載された内田真礼。
画像出典:写真掲載元

録音した歌を、ライブでも歌えるようになるまで

歌手としての自分が見えてきても、その曲をステージで歌い切るには、また別の時間が必要でした。
田淵は「ギミー!レボリューション」について、2015年のアニサマでは歌うのがきつそうだったのに、翌年の中野サンプラザ公演ではしっかり歌えていたと振り返っています。
この2015年のステージは『Animelo Summer Live 2015 -THE GATE- 8.30』、2016年の公演は『Hello, 1st contact!』として映像化されています。
録音で作った声を、ライブを重ねながら自分のものにしていく変化を、作り手も見ていました。

Hello, 1st contact!――2016年公演・ダイジェスト

2017年の「Shiny drive, Moony dive」では、本人がライブで歌えないかもしれないと思うほどの難しさがありました。
言葉が一気に詰まる箇所があり、息継ぎの場所に苦労したといいます。
録音を終えたことが、そのままステージで歌える自信につながっていたわけではありません。

それでもリハーサルで歌い込み、実際にライブで披露できるところまで持っていきました。
車をテーマにした明るい曲の裏側には、言葉を運びながら次の息を入れるための試行があったのです。
後年、高いキーでも落ち着いて歌えるようになったという本人の話には、こうした初期の苦労も重なります。

2018年以降、らしくないと思った声も表現にする

ライブで使える歌を育てる一方で、内田は、自分の声の見せ方も広げていきました。
2018年の「youthful beautiful」は、次に何ができるのかを考えていた時期に出会った、RIRIKOの曲です。
本人は、これまでにない感じの楽曲だったため、歌い方を変えたと振り返っています。

録音では、もっと自分を出してよいと思えたそうです。
いつもの内田真礼らしい声かどうかを基準にするだけでなく、みんなが思う自分とは違うかもしれない声も、あえて出す。
新しい自分を探す中で、その選択を許せるようになりました。

2019年の「共鳴レゾンデートル」では、自分の明るさを抑えることに取り組みます。
普通に歌うと楽しげな声になるため、それを控え、心に芯を持つような感覚で歌ったといいます。
普段は使わない、叫ぶような表情も、曲に引き出されました。

いつもは1日で終える歌入れが、この曲では1日で終わりませんでした。
内田は、ファンと向かい合って手を取るような関係から、横に並んで同じ方向へ進む歌として受け止めています。
田淵も後年、この曲では歌詞のテーマを理解してから歌いたいという内田の姿勢が印象に残ったと話しました。
声を強くするだけでなく、何を伝え、どんな距離で相手に向き合うかを確かめる録音だったのです。

そして2021年には、RIRIKOが手がけた「ストロボメモリー」を発表します。
プロデューサーの冨田明宏は、RIRIKOの曲には低い音で歌うAメロが多く、歌いにくいからこそ取り繕わない感情が現れると評価していました。
いつもの得意な声で整えることとは違う良さを、制作側も受け止めていたのです。

内田は「youthful beautiful」と「ストロボメモリー」の2曲を、以前なら自分らしくないと考えた声を使い、等身大のままでよいと思えた曲として挙げています。
ライブでもスタジオでも、思うままに歌ってよい。
その感覚を得たことが、自分らしい声の定義を広げていました。

2023年、高いキーの歌を余裕のある声で届ける

新しい声を試したからといって、掛け合いで盛り上がる歌を離れたわけではありません。
2023年の「ラブ・ユー・テンダー!」では、ファンと声を交わす楽しさを、改めて大切にしています。
本人も「ギミー!レボリューション」のような曲を作るというオーダーがあったことを明かしていました。

ただし、同じ楽しさへ戻っても、歌う本人の感覚は初期と違っていました。
内田は「ラブ・ユー・テンダー!」について、高いキーでありながら歌いやすいと話しています。

デビュー当時は、キーがきつくても、その高さが一番よいと思って録音に向かっていました。
それをライブでも再現することが大変だったといいます。
2023年には、自分のよい声で歌い、ライブにも映える艶を出せるという実感があり、その余裕が深みにもつながっていると捉えていました。

この曲の歌いやすさには、言葉の置かれ方も関わっていました。
それまで歌ってきた速くて言葉の多い曲に比べ、「ラブ・ユー・テンダー!」には間があります。
歌っていない時間にも感情や表情を込められると感じ、大変な曲を歌ってきた経験を生かせると思ったそうです。

以前の自分とは変わったからと、初期から聴いてきたファンを置いていきたくない。
内田は、求められている明るい掛け合いの歌にも、改めて向き合おうとしていました。
難しい曲を歌えるようにする時期を経て、余白をどう使うかまで楽しめるようになったことが、この曲での手応えにつながっています。

「ラブ・ユー・テンダー!」――2023年10月「Happy Research! -HIKARI-」公演

『ラブ・ユー・テンダー!』を語る2023年10月の取材に掲載された内田真礼
『ラブ・ユー・テンダー!』を語る2023年10月の取材に掲載された内田真礼。
画像出典:写真掲載元

2024年、「一番いい声」が表現を狭くしていた

歌いやすさや自信を得ても、迷いがなくなるわけではありません。
2024年のアルバム『TOKYO-BYAKUYA』を作る中で、内田は、これが自分の一番いい歌声だという正解にこだわりすぎていたことに気づきます。
そのこだわりが、表現の行き詰まりにもつながっていたと話しました。

背景には、活動をどう続けるかという迷いもありました。
コロナ禍でそれまでの楽しい活動が一度途切れ、何を作り直すかを考えた時期を経て、10周年を前にスタッフとの意識のずれも感じていたそうです。
毎週のように録音し、その都度話し合うことで、作品を作り進めていきました。

その問題と強く向き合った曲が、田淵の作詞・作曲による「永遠なんかありえない」です。
打ち合わせで田淵が受け取ったのは、ファンと一緒に年齢を重ね、これからも活動を続けたいという意思でした。
内田はデモを聴いて涙し、10年続けてきたからこそ、支えてくれた人たちとこの歌を歌えると感じています。

内田はこの曲で、普段の明るくかわいらしい感じとは違い、思いをぶつけるような歌い方を選びました。
特にAメロとBメロの歌入れにこだわり、複数回録った中でも、まだざらついた感触のある最初のテイクを使ったのではないかと振り返っています。

キーを決めるときにも意見が分かれました。
高いままで歌うこともでき、スタッフもその方向を望んでいましたが、内田は曲の内容を伝えるなら下げたほうが届くと考えます。
最終的には、キーを下げて録音することになりました。

録音に立ち会っていなかった田淵は、完成した音源を聴き、今の年齢や等身大の本人に近い歌になったと受け止めていました。
本人が気持ちよく歌える声と、聴く人が期待する内田真礼の声。
その両方を意識したうえで、今回はどんな温度で届けたいのかを、自分の意思で選んだ録音でした。

明るい歌声を育て、その外にある自分も歌う

初期の内田真礼は、自分らしい声を探し、録音した歌をライブでも歌えるようにしてきました。
その後は、明るさを抑えた声や、歌わない間の表情にも、自分の気持ちを込めています。
「永遠なんかありえない」でキーを下げた選択は、よい声を一つに決めるより、今の言葉をどう届けるかを優先したものでした。

好きだと言ってもらえる声を大切にしながら、その声だけでは収まらない思いも歌にする。
内田真礼の変化には、ファンと歩み続けるために、歌う自分も更新していこうとする意思があります。
高音の強さや低音、息をどう使い分けるかは、内田真礼の歌い方で詳しく扱っています。

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