以前の曲に近い歌を求められても、以前と同じ感覚で歌えるとは限りません。
2025年の「ホシノナ」で、ZAQは2019年の「ソラノネ」の歌い方を思い出すところから始めました。
今の声は太くなっていると本人が感じていたため、曲に欲しい軽やかさを改めて探したのです。
一方、その年の「ドラマチック・オーバーレイ」では、普段の力強い声を思わせない可愛さを求めています。
自分の声の持ち味を知り、過去の歌い方を呼び戻し、初めての表現も学ぶ。
曲を書くZAQと、実際に歌うZAQの間には、その都度、小さな試行錯誤があります。
「ordinary it」で、自分の声の持ち味を受け入れる
2012年に「Sparkling Daydream」でメジャーデビューしたZAQは、作詞・作曲と歌唱を担い、アニメ主題歌で多様な音楽に取り組んできました。
ただ、自分で書いた曲だから、思い描いたとおりの歌声にすぐ到達するわけではありません。
2017年のシングル「BRAVER」に収録された「ordinary it」には、作りたいジャンルと、自分が歌ったときの響きとの違いがありました。
2018年のアルバム『Z-ONE』をめぐる取材で、ZAQは、この曲でロカビリーに初めて取り組んだ経緯を話しています。
さまざまなジャンルを試したい時期に提案を受けたものの、自分が親しんできた音楽ではなく、どんな音楽なのかを考えながら作っていたそうです。
その戸惑いは、歌う段階にもありました。
ロカビリーらしく歌おうとしても、自分の声ではR&Bやソウルの感触が出てくると感じていたのです。
編曲やメロディ、歌い方を変えても、自分とわかる声は残る。
この曲では、その声に正直に歌うことを選びました。
どんなジャンルにも完全に溶け込めることより、自分が歌うとどうなるのかを引き受けた曲だったのでしょう。
同じ取材で、可愛い声を作ろうとしてもZAQだとわかる、とも話しています。
その後もZAQは、可愛さを前面に出す曲に挑んでいきます。
自分の声を知ったうえで、その声をどう使い、どう録るかという選択が増えていきます。
「ordinary it」収録:「BRAVER」(2017年)公式作品情報

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「ソラノネ」で、ビッグバンドに歌う表情を加える
2019年の「ソラノネ」は、『荒野のコトブキ飛行隊』のオープニング主題歌です。
西部劇を思わせる荒野と、女性パイロットたちが飛び交う空。
ZAQは、渋い音だけでは作品に合わないと考え、ビッグバンドの明るさで空戦の速さを描こうとしました。
この曲でやってみたかったのは、楽器の大きな音に、自分の声で表情をつけることでした。
ビッグバンドを取り入れたアニメ音楽には歌のない曲も多い、と当時の対談で話しています。
その音楽を自分が歌ったらどうなるのか。
「ordinary it」で自分の声の向き不向きを考えた歌手が、今度は、声を加えること自体に新しさを見いだしていたのです。
ビッグバンドへの挑戦は初めてでしたが、それまでのアシッドジャズやブラスロックの経験を組み合わせる手応えはありました。
曲の冒頭の口笛も本人によるものです。
楽器と歌、そして口笛までを含めて、ZAQ自身が作品の空気を作っています。
このときの歌唱は、6年後に軽やかな声を探すための具体的な記憶として、再び必要になります。
「Dance In The Game」で、高い声以外の表情を選ぶ
その間の2022年、「Dance In The Game」では、声の高さの選び方にも変化がありました。
『ようこそ実力至上主義の教室へ』第2期のオープニングとして作ったこの曲は、本人によると、自分の曲の中では比較的低い音域で書かれています。
それまで高い声で歌うことが多かったZAQが、低めの声にあるシリアスさを生かそうとした曲です。
歌詞では、主人公・綾小路清隆の内側にある怪しさを、ゲームを楽しむような感覚で描こうとしていました。
声の低さは、その人物をどう歌にするかという作曲上の判断とも結びついています。
一方で、歌唱では軽やかさを意識したと話しています。
低いところで歌うから、動きまで重くするという考えではありませんでした。
苦戦したのは、ラテンジャズのリズムをどうつかむかという部分です。
声が届く高さに曲を書けば、それで歌が完成するわけではない。
自分で決めた音域の中で、曲の動きに合う歌を作る難しさが残っていました。
この経験を挟むと、後の「ホシノナ」で欲しかった軽やかさも、曲ごとに選び直す表現として捉えやすくなります。
2025年、可愛い声と軽やかな声を別々に探す
2025年10月の「ドラマチック・オーバーレイ」では、アニメ『アルマちゃんは家族になりたい』から、可愛さを求められました。
当初のピアノロックのデモは、大人っぽくシリアスに寄りすぎていたそうです。
今の声質と自分の音楽に合う場所を探しながら、最終的には詞もメロディも作り直しました。
歌では、力強さを前へ押し出さず、輪郭を柔らかくして空気を感じさせる声を選んでいます。
さらに声を3本ほど重ね、オートチューンによる処理を組み合わせ、ロボットであるアルマの印象へ近づけました。
歌う段階の工夫と、録った声の加工を組み合わせた可愛さです。
意外なのは、本人がこの声を出すこと自体に無理を感じていなかったことです。
声優への提供曲で、可愛く歌ってほしいと伝えるために、似た声の仮歌を入れることがありました。
人のために使っていた声を、自分の作品にも持ち込めたわけです。
ただ、ライブでは他の曲との声の違いが課題になります。
この曲を披露した際には、可愛い声の「エキストラレボリューション」を続けて歌っていました。
曲単位で声を作るだけでなく、異なる歌を一つのステージにつなぐことにも、工夫が必要になっていたのです。
同じ月の「ホシノナ」は、『L 荒野のコトブキ飛行隊』の遊技機オリジナル楽曲です。
こちらでは『コトブキ』に関わってきた曲の集大成として、再びビッグバンドの音を選びました。
以前のブラス奏者も参加していますが、歌う本人にとっては、慣れた歌い方をそのまま再現する録音ではありませんでした。
リスアニ!の取材でZAQは、声質が以前より太くなったと感じていることを説明しています。
そのため「ソラノネ」の頃の発声を思い出し、軽やかに歌う感覚を探しました。
付点のリズムや3連符も多く、リズムの難しさにも向き合っています。
自分の声の変化を感じながら、過去の経験を使って新曲に必要な動きを取り戻そうとしたのです。
曲作りでも、前と同じ伴奏を用意したわけではありません。
「ソラノネ」で荒野を感じさせたギターを今回は外し、声とブラスが渡り合う感覚を求めました。
以前の歌い方を思い出す作業と、以前とは違う音の中に声を置く作業が、一曲の中で同時に起きています。

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「ライアーヴェール」で、初めてのスキャットを学ぶ
2026年の「ライアーヴェール」では、過去の歌い方を呼び戻すだけでは足りない挑戦がありました。
『ようこそ実力至上主義の教室へ』の第4期で、ZAQが担当したのはエンディングテーマです。
これまでのオープニングに続き、今回はヒップホップとジャズを組み合わせた曲に向き合います。
終盤に入れたスキャットは初挑戦でした。
意味のある歌詞の代わりに音節で歌う表現を、動画やジャズの曲を通して約1週間学んだと話しています。
長くジャズの要素を取り入れてきたZAQにも、使いたいのに、まだ自分のものになっていない歌い方があったのです。
歌詞のある部分でも、輪郭をはっきりさせる普段のポップスとは違う歌を目指しました。
ディレクターの提案で子音を発音するタイミングを遅らせ、拍の少し後ろに寄るような感覚を作っています。
対して、楽器が細かくリズムを刻むラップの部分では、言葉を拍に合わせる。
曲を書き終えたあとにも、録音の現場で助言を受け、歌の緩急を組み立てていました。
演奏者には自由なプレイを求め、終盤ではスキャットの後ろで楽器も動き回っています。
「ソラノネ」でビッグバンドに自分の声を加えようとしたところから、今回は、言葉を離れた声でも演奏に関わろうとしている。
声の太さや高さだけを追っていては見落としやすい変化が、この新しい挑戦にはあります。
今の声で、歌い方を選び続ける
「ordinary it」では、目指したジャンルを歌うときにも残る、自分の声を受け入れました。
「ホシノナ」では、今の声から以前の軽やかさを探し直しています。
そして「ライアーヴェール」では、経験のない歌い方を学ぶところから始めました。
ZAQの歌は、年を重ねるほど一つの得意な歌い方へ固まってきたわけではありません。
声の持ち味を知ったことが、別の声やリズムを選ぶときの手がかりにもなっています。
自分で書いた曲に、自分でもまだ歌ったことのない表現を求める。
その往復が、声の変化に合わせて歌を作り直す力になっているのでしょう。
低めの音域での軽やかさや、歌とラップで発音を使い分ける工夫は、ZAQの歌い方で詳しく扱っています。







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