田原俊彦の歌唱変遷|歌い直しで深まった歌と、踊り続ける現在の声

2019年のインタビューに掲載された田原俊彦 シンガー
2019年のインタビューに掲載された田原俊彦

20代の頃のようには踊れない。
それでも、歌は若い頃よりしっかり歌えるようになった。
2026年の田原俊彦は、ダンスの切れについて率直に話す一方で、歌う力には成長を感じていました。

長く歌ってきた田原には、その変化を同じ曲で考えられる録音があります。
2010年の『30th Anniversary BEST』に収められた『抱きしめてTONIGHT』も、過去の音源をそのまま使わず、歌い直したものです。
昔の曲を今の声で歌うと、何が変わり、何が残るのか。
歌入れを見ていた作曲家の記憶と、後年の再録に寄せられた評価をたどると、華やかなダンスの奥にある歌の積み重ねが見えてきます。

初期の歌入れは、何度も録り直していた

1980年の『ハッとして!Good』を作詞・作曲した宮下智は、その歌入れをスタジオで見ていました。
2022年に振り返ったのは、何度も録り直し、時間をかけていた田原の姿です。
聴き手には軽快に届く一曲も、録音の現場では、繰り返し歌って仕上げる仕事だったのです。

ただ、宮下は初期の歌を、未完成だったという話だけでは終わらせていません。
完成されすぎていない若い頃の歌にも魅力があったと話しています。
その一方で、還暦を迎えてなお歌が上達していることを喜び、努力を重ねる姿を評価していました。
出発点を知る作り手は、当時の良さも、その後に身につけた力も覚えていたのです。

若い田原にひかれた人にとっては、整いきらない歌声も、曲や当時の記憶と結びついているでしょう。
だからこそ、後年の再録は、古い歌を上手な歌で置き換えれば済む仕事ではありません。
あの曲らしさを残しながら、長く歌ってきた今の田原が何を加えられるのかが、聴きどころになります。

2014年のベスト盤で、同じ曲の言葉が深まった

2014年発売の『35th Anniversary All Singles Best 1980-2014』は、その違いをまとまった形でたどれる作品です。
1992年までに発表した42曲のうち、38曲が歌い直した録音で収められました。
編曲を担ったNATABAは、元の曲のアレンジを忠実に再現しています。
慣れ親しんだ曲の姿を大きく変えずに、歌う田原の違いが伝わる作りでした。

この盤を評した音楽評論家のつのはず誠は、初期の音源にあった低めにずれがちな音程と、歌い直した録音の自然に耳へ届く声を比べています。
特に『銀河の神話』や『KID』では、歌の意味が深まったと評価しました。
ただ正しい音へ近づいたという評価にとどまらず、曲の言葉まで伝わりやすくなったと受け止めているのです。

1985年発表の『銀河の神話』は、田原が20代前半で歌った曲です。
2014年のベスト盤に収められた再録では、同じ旋律と言葉を、歌い続けてきた田原が改めて引き受けています。
この比較の面白さは、新曲で大人らしさを示すのではなく、昔から知っている曲の意味を深めたところにあります。

歌い直した録音には、合いの手のような掛け声も加わっていました。
つのはずは、その即興的な掛け声から、聴き手を楽しませようとする姿勢や、ライブに近い感覚も受け取っています。
原曲の姿を守りながら、その場の勢いを加える。
長年ステージで歌ってきた田原の現在を、懐かしい曲の中にも感じ取れるベスト盤だったのです。

『KID』も、こうして歌の意味が深まったと評された一曲です。
代表曲だけを聴き直すのでは見過ごしやすい歌にも、歌い直すことで新たな表情が見つかっていました。

還暦の頃には、甘さを残した声の力も評価された

2021年11月10日、東京国際フォーラムで歌う田原俊彦
2021年11月10日、東京国際フォーラムで歌う田原俊彦。
画像出典:写真掲載元

2021年2月に放送された『田原俊彦“還暦前夜!”スペシャルワンマンライブ』を見た文筆家の田中稲は、昔より力強くなった甘い歌声に触れています。
脚が高く上がるダンスに目を奪われながら、声の力にも変化を感じていました。
若い頃を思わせる甘さが残っているから、以前から知っている田原の声として受け取りながら、今の力強さにも驚ける。
長く見てきた人にとっての変化は、そのようなものだったのでしょう。

この頃の歌を、年齢を重ねたら自然に余裕が生まれた、とだけ考えることはできません。
2024年末の取材で、田原は昔の曲を当時のキーのまま生で歌うために、トレーニングを続けていると話しました。
番組で披露する曲には、『ごめんよ涙』『ジャングルJungle』『抱きしめてTONIGHT』が挙がっています。
歌い慣れた代表曲も、今の自分がその高さで歌える状態を作って臨んでいるのです。

身体については、年間およそ30本のライブとリハーサルがトレーニングになっていて、ジムには通っていないと説明しています。
一方、歌声については、きちんと音の高さを出すための練習をしている。
身軽なステージから受ける印象の裏には、変えずに保ちたいもののための準備もありました。

現在の自信は、新しい曲への挑戦にも表れる

2026年に、田原自身が若い頃よりしっかり歌えるようになったと話したとき、20代のダンスをそのまま再現する難しさも認めていました。
今の年齢だからこそ出せる雰囲気や見せ方、身につけた技量を生かしたいと考えています。
昔の自分と同じであることだけを目標にせず、現在の自分が見せられる良さも意識していました。

2026年7月23日、ツアー初日の川口公演に立つ田原俊彦
2026年7月23日、ツアー初日の川口公演に立つ田原俊彦。
画像出典:写真掲載元

その年の新曲『ナニコレ最高!!!』は、大人っぽくファンキーな方向をスタッフと相談して作った曲です。
作り手も近年のライブを見ていて、今の田原とファンとの関係を歌詞に取り込んでいました。
長年の田原らしさを受け継ぎながら、歌には新しい難しさも加わっています。

短い時間に多くの言葉が入り、ラップのように早口で歌う必要がある。
音は比較的高く、振付も続くため、どこで息を継ぎ、どのタイミングで言い切るかが難しかったと本人は話しています。
マイクの前に立つレコーディングでは大きな苦労がなくても、踊りながら同じ歌を届けるには、さらに曲を身体へ入れる必要がありました。

MV撮影の頃は、本人の感覚ではまだ完全に身についていない状態だったそうです。
そこからライブに向け、バンドと合わせながら準備を重ねていく。
歌う力に自信を持つ今も、新曲を覚えたところで仕上がりにはしないのです。

2026年7月のツアー初日には、この新曲が歌われる一方、冒頭に『銀河の神話』が選ばれました。
『KID』も久しぶりに曲順へ戻っています。
新曲だけで現在を見せるのではなく、しばらくライブで歌っていなかった曲も掘り起こし、今のステージに組み込んでいました。

初期の録音を何度もやり直した歌手が、後年には、同じ曲の意味を深めたと評されるようになった。
それでも過去の曲に収まらず、新しい言葉の速さや振付を身につけるために準備する。
田原俊彦の歌の変遷には、長く歌ったから得られたものと、今も一曲ずつ取り組んでいる仕事の両方があります。
昔のヒット曲を歌う今の声も、その積み重ねの先にあるのです。

踊りながら言葉を届ける際の息継ぎやフレーズの区切りは、田原俊彦の歌い方で取り上げています。

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