宇都宮隆の歌声はどう変わった? 「Get Wild」の低い再録から、40周年の歌い直しまで

2018年のアルバム発表時に公開された宇都宮隆のアーティスト写真 シンガー
2018年『mile stone』発表時の宇都宮隆。出典:Billboard JAPAN

「Get Wild」を何度も歌っている宇都宮隆に、歌手としての変化を尋ねると、少し意外な答えが返ってくる。
2017年の取材で、TM NETWORKでもソロでもバンドでも、歌に対する意識は変わらないと話したのだ。
一方、1999年の「GET WILD DECADE RUN」では一オクターブ下になったアレンジに本人が驚き、2024年の「Get Wild Continual」では「初期の声に戻っている感じ」と語った。

同じ声を守り続けたのか。
それとも時期ごとに別の歌い方を選んだのか。
答えは、声の高さだけにはない。
小室哲哉の構想に応えることから始まった歌手が、自分のバンドで歌詞やグルーヴを選び、40年目にはもう一度、昔の代表曲を今の声で完成させた。
その変化を、本人が語った制作の場面とともに追ってみたい。

1984〜1987年──小室の構想に、日本語の歌を乗せる

TM NETWORKがデビューした1984年、宇都宮は音楽を仕事にする現場の厳しさに戸惑ったという。
すでにバンドで歌っていたが、ここでは自分が主導するよりも、リーダーの小室が提示する構想へ、ボーカリストとしてどう応えるかを考えるようになった。
2012年のインタビューでは、その自覚を得たことが自身の成長につながったと振り返っている。

難しかったのは、洋楽の影響が強い曲に日本語の歌詞をはめることだった。
歌詞の意味を残しながら、言葉をリズムに乗せる。
この課題は1987年の「Get Wild」だけで終わらず、本人によれば、その後も続いた。
勢いのある伴奏の上で歌がすんなり進むように聞こえても、最初から自然に言葉が乗っていたわけではない。

「Get Wild」が広まると、その歌は一つの編曲、一つのステージだけに収まらなくなった。
宇都宮が後年とくに驚いたという二つの版に、まず違いが表れる。

1989〜1999年──同じ曲なのに、一オクターブ下から歌う

1989年の「GET WILD ’89」は原曲のリミックスで、さらに1994年の東京ドーム公演ではライブ用に手が加えられた。
宇都宮自身、原曲よりダンサブルになった1989年版には驚いたという。
1989年版の音源は新たに歌い直したものではないが、1994年の舞台では、曲はさらに別の編曲と生の歌を得た。

よりはっきりした歌の転機は、TM NETWORKが再始動した1999年の「GET WILD DECADE RUN」にある。
この曲は「Get Wild」の完全な新録で、宇都宮は後に、この版のアレンジについて「オクターブが下になった」と驚きを語った。
同じ曲なのに、今度は低い位置から歌が始まる。
原曲をなぞるための再録ではなかった。

その頃までに、宇都宮はソロ活動も始めていた。
かつては一人で何を見せればよいか分からず、ソロの話が出ても踏み切れなかったという。
実際に始めてからは、自分で決めればさまざまな作家や演奏者と動けることに気づいた。
2012年には、本名の「宇都宮隆」で活動するときは、自分自身を前に出し、歌を中心にする意識があるとも話している。
TMで培った歌を、今度は自分の選ぶ場所へ持ち出していく。

2011年──昔の曲を並べ直し、これから歌う方向を考える

自分で活動を選ぶことは、新曲を増やすことだけではなかった。
東日本大震災のあった2011年、宇都宮は自分が今後どちらへ向かうかを考えたという。
その年の「Timesmile」ツアーでは、過去のさまざまなアルバムから曲を選び直した。
懐かしい曲を集めるだけでなく、それまで積み重ねた時間と、現在、未来をつなげて見せようとしたのである。

TMとソロ、それぞれに残した曲がある。
それを現在の一つのステージに並べると、自分が何を歌ってきたのかを確かめながら、次に進む方向も考えられる。
過去の曲へ戻ることが、次の活動を考える機会にもなったのだ。

2016〜2017年──自分のバンドの「Get Wild」を選ぶ

1990年代にともに活動したT.UTU with The BANDが、2016年に再び集まった。
翌年にはソロ活動25周年が控えていたが、宇都宮は区切りの年を待つより、元気に集まれるうちに演奏したいと考えた。
思い出の曲だけを演奏するのではなく、今の年齢のバンドで一曲作ろうという話になり、新曲「flow」が生まれた。
宇都宮は土橋安騎夫の複数の案から曲を選び、軽すぎず、みんなで声を上げられる歌詞にしたいと伝えた。

演奏者が一緒に音を出して録る方法も、今回のバンドらしさにつながった。
録音では、久しぶりに顔を合わせた生バンドのグルーヴに、どう自分の歌を寄り添わせるかを考えたという。
本人にとっては、これから始まるツアーのリハーサルを兼ねるような制作でもあった。

かつてのTMでは、まず小室の構想にどう応えるかを考えた。
ここでは曲を選び、歌詞の方向を示し、演奏者の動きの中で歌を置く。
本人は歌への基本姿勢は変わらないと言うが、詞とリズムの課題を、自分で制作に関わる側から引き受けたのだった。

翌2017年には、このバンドのアレンジによる宇都宮名義の「GET WILD PANDEMIC」が発表された。
TM NETWORKの代表曲を、本人のソロとバンドの側から扱う機会である。
1999年の低い新録とも、1989年のリミックスとも、成り立ちが違う。
原曲を生んだユニットの外でも、宇都宮は自分の歌としてこの曲へ戻ってきた。

帽子とサングラスを着けた宇都宮隆の写真
「Dragon The Carnival」について語った2020年のインタビュー掲載写真。
出典:DI:GA ONLINE

2024年──40年目の新録で、昔の声に「戻る」と感じた

2024年のNetflix映画『シティーハンター』に合わせ、「Get Wild Continual」が作られた。
「GET WILD DECADE RUN」以来、約25年ぶりとなる「Get Wild」の完全新録だ。
原曲の音も一部生かしつつ、宇都宮はツアーの最中に歌を新たに録った。

録音前には、ツアー中にきちんと歌えるか心配もあったという。
ところが本人は、ここ数年の声が初期のアルバムに近づいているように感じ、木根尚登からも若く聞こえると言われた。
2017年にも、声が初期に近づいたという感覚を語っている。
昔の曲を録り直す仕事に、本人が感じる「今の声」が持ち込まれた。

同じ取材で宇都宮は、小室から転調の多い曲によく対応してくれると言われることも明かした。
宇都宮によれば、最初の10年間はかなり鍛えられ、再始動後にも難しい曲は続いたという。
ただし、経験を重ねる中で、難しさをどう乗り越えるかが分かるようになった。
声が昔に近づいたという感覚の一方には、新しい曲の要求を受け止め、解決する方法の蓄積があった。

「Get Wild Continual」にも、新しい選択がある。
宇都宮は、原曲になかったBメロの低いハーモニーを木根に提案した。
歌い慣れた主旋律の下に、もう一人の声を置く。
今回は自分の声だけでなく、二人の声の重なりも変えて、歌い慣れた曲に新しい表情を与えようとしたのである。

2023年のLIVE UTSU BARで歌う宇都宮隆とバンドメンバー
2023年6月9日、EX THEATER ROPPONGIでのLIVE UTSU BAR。
撮影:関口佳代/出典:DI:GA ONLINE

早口に感じた歌詞を、曲全体の勢いに合わせながら届けるという課題は、最初のTMから続いている。
そこは変えていない。
その一曲の中で、言葉とリズムをどう両立させるかは、宇都宮隆の歌い方の記事で詳しく扱っている。

2026年──今度はステージの後から、歌が作品に入った

2026年9月のアルバム『QUANTUM』では、制作の順序そのものが逆になった。
先に全国ツアーがあり、そこで披露した曲を後からスタジオ作品にしたのである。
有明での追加公演の終演時に「Superposition」が流れたとき、まだバックトラックだけだった。
アルバムでは宇都宮の歌が加わる。
同じ曲が、歌のない予告から、声のある作品へ進んだ。

アルバムの「恋せよ乙女 -Run Through The Night-」では、木根が主旋律を歌い、宇都宮がハーモニーを担当した。
2024年には自分の主旋律へ木根の低い声を加え、今度は木根の歌を支える側へ回る。
歌の中心に立つことだけでなく、誰の声とどう組み合わせるかも、近年の制作に具体的に表れている。

宇都宮は、ツアーが終わると次へ進むために一度その記憶を手放すようにしているという。
今回、録音のためにステージでの曲を呼び戻すことは簡単ではなかった。
デビュー時には小室の示す世界へ追いつこうとしていた歌手が、今は舞台で一度生まれた曲を、スタジオで再び歌として仕上げる。
2024年に昔の代表曲を新録した後も、「現在の宇都宮隆」の歌は固定されていない。

歌への意識は変わらない、という本人の言葉は、「歌い方がいつも同じ」という意味ではなかった。
1987年には日本語を新しいリズムへ乗せ、1999年には低い位置から代表曲へ入り、2016年には自分のバンドの言葉と演奏を選び、2024年には木根の声との重なりまで作った。
2026年は、いったん舞台に出した曲へ、後から歌を与えている。
言葉を届けるという軸を保ちながら、声の使い場所を変えてきたことが、宇都宮隆の変遷なのだ。

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