南佳孝の歌い方|声を張る場所と、言葉の輪郭を選ぶ

南佳孝の取材掲載写真(2023年掲載、oricon ME) シンガー
南佳孝の取材掲載写真(2023年掲載、oricon ME)

南佳孝は、「Paradiso」を歌い直すとき、声を張る場所を一か所だけに決めたと話しています。
重い歌詞の曲でも、力を入れ続ける必要はない。
話すように歌えるリズム、声を張りやすい言葉、ほかの歌手と重ねる響き。
本人の説明から、声の力をどう配分しているのかを見ていきます。

「Paradiso」(2022年公演、2023年発売ライブ盤の収録音源)

小さな声でも届く歌から、何を学んだのか

南は、好きな歌手のレコードを繰り返し聴き、歌い方をコピーして勉強したと話しています。
2023年の取材では、ジョン・レノン、スティーヴィー・ワンダー、ナット・キング・コール、ジュリー・ロンドンらの名を挙げました。
プロになってからも、ジョアン・ジルベルトなど、声を張らず、軽くリズムへ乗せながら伝える歌を学んできたといいます。

この背景を知ると、話すように聞こえる歌にも、音の置き方を選ぶ意識があると考えられます。
声を大きくする以外にも、言葉を届ける方法がある。
その関心が、南の具体的な歌唱の判断にも表れています。

「Paradiso」で、張るところを一か所に決める

「Paradiso」は、映画『疵』のために書いた曲でした。
後にリズムをラテンへ変え、2022年のライブでもその版を歌っています。
南は、このリズムなら力を込めすぎず、話すように歌えると説明しました。
そこで、張る場所を一か所に絞り、そのほかでは張らないと決めたのです。

張る箇所の多さで歌の重さを伝えるのではなく、大半を話すように運ぶことで、限られた一か所の強さを生かす。
本人は、重たい歌詞でもその形ならうまく歌えたと感じ、作詞した松本隆も気に入ってくれたと話しています。

聴くときには、張る瞬間だけを待つより、それまでの言葉がどのように続くかも追ってみたいところです。
大きく歌い上げない部分があるから、限られた強さが一曲の中で位置を持ちます。
曲の深刻さを声量へそのまま置き換えず、話すような流れの中に置くことが、この版での南の選択でした。

南は同じ頃、音程を正確に取り、言葉を一つずつ置くように歌いたいとも話しています。
声の勢いを抑えても、旋律や言葉を曖昧にしてよいわけではない。
「Paradiso」は、力を抑える部分をどう聴かせるかまで考えたい曲です。

「Simple Song」の、声を張るところにある言葉

「Simple Song」(2022年公演、2023年発売ライブ盤の収録音源)

同じ取材で「Simple Song」の作詞について聞かれると、南は、松本隆が歌いやすい言葉を選んでくれることに触れました。
声を張る場所に「た・ち・つ・て・と」を入れる、という具体例を挙げています。
南が「破裂音」と呼んだ、言葉の音への細かな気配りでした。

この説明は、どの音節をどこへ置くかまで、作詞と歌唱が関わることを示しています。
言葉の意味が曲に合うだけでなく、力を出したいところで発音しやすいことも大切だったのです。
「Paradiso」では声を張る箇所を選び、「Simple Song」の話では、その箇所に来る言葉の音を意識している。
二つを合わせると、南が声の強さを旋律と言葉の両方から考えていることが分かります。

松本の詞については、2018年の別の取材でも、よく響かせたい場所に「か」や「た」の音が来ること、リズムを踏まえた言葉の乗せ方を南は評価しています。
読んだときの印象と、声に出して歌ったときの扱いやすさは同じではないのでしょう。

一つの言葉でも、出だしの音が立つところと、その後に母音が伸びるところでは、耳に届く表情が異なります。
南の歌を聴くときも、力の入った単語の意味に加え、どの音からその勢いが始まるかを意識してみる。
作詞家への評価が、そのまま歌の細部を知る手がかりになります。

南佳孝の番組出演写真(2026年1月放送「Sound Inn S」、BS-TBS)
南佳孝の番組出演写真(2026年1月放送「Sound Inn S」、BS-TBS)。
画像出典:写真掲載元

好きな曲を、自分が歌える曲にする

カバーを選ぶ段階にも、南の歌への慎重さが表れています。
ブラジルで録音した2013年の『スケッチブック』をめぐる取材では、候補曲を実際に自分で歌って聴かないと、まだ十分にこなれていない場合があると話しました。
プロデューサーの吉田和雄と、演奏する曲について何度もやり取りしたそうです。

昔から好きだったという「アイム・ノット・イン・ラヴ」や、ダスティ・スプリングフィールドの歌が好きだった「スプーキー」も、この作品で取り上げています。
憧れがあることに加え、自分の声と言葉の運びで曲を表現できるかを確かめていたわけです。

好きなメロディーだから、そのまま自分に合うとは限らない。
歌ってみて、聴いてみて、曲への理解が声に表れているかを探る。
この過程を知ると、南の自然な歌を、最初から苦労なく歌えたものとだけ考えずに味わえます。

違う声が、ハーモニーの中で似てくる

「愛を歌おう」(2020年発売記念配信ライブダイジェスト)

杉山清貴とのコーラスは、一人で言葉を運ぶ歌とは違う発見をもたらしました。
南は、杉山にコーラスを教えてほしいと頼み、一緒に音楽を作るようになったと振り返っています。
以前はナット・キング・コールやフランク・シナトラのような独唱の世界を追求してきたため、声を重ねること自体が新鮮だったのです。

二人目の声が加わると、自分が歌っている音も、相手との響きの中で聴くことになります。
2023年、南は二人の声質は違うのに、ハモると次第に似てくるように感じると話しています。
一人でどこを張るか決める歌と、相手の声と合わさった響きから自分の声を発見する歌。
その両方が、南の歌う楽しさにつながっています。

ここで南が面白がっているのは、単に二人の声量が足されることではありません。
声質の異なる相手と一緒に歌ううち、自分の声の聞こえ方も変わるという感覚です。
独唱での言葉の輪郭を聴く耳に、二人の声が一つの響きを作る瞬間を聴く耳が加わります。

「MISS YOU」では、二人で友情を歌う

杉山との歌には、声を合わせる楽しさに加え、二人だから届けたい題材もあります。
2025年の『愛した数だけ』には、「MISS YOU with 杉山清貴」を収録。
南は、友人が先に逝くこともある年齢になり、男二人の友情を歌うのもよいと考えたと話しています。

誰と声を重ねるかは、ハーモニーの響きだけでなく、歌が何を語るかにも関わります。
この曲では、二人の声の違いを楽しみながら、その声で友情を歌うことの意味も受け取りたいところです。

同作の取材で南は、無理に変わろうとするよりも、肩の力を抜き、普通の感じで音楽を続けたいとも話しました。
「Paradiso」で力を配分すること、言葉の音を生かすこと、相手と声を重ねること。
南の歌の自然さは、そうした具体的な選択から考えると、輪郭がはっきりしてきます。

カバーや杉山清貴とのコーラスを通して、歌う楽しさが増えていった経緯は、南佳孝の歌唱変遷でたどっています。

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