徳永ゆうきさんの歌い方を「若いのに演歌らしいこぶしがすごい」で終わらせると、いちばん面白いところを見落とします。
本人にとって、こぶしは苦労して身につけた必殺技ではありません。
子どもの頃から自然に出てしまい、ポップスを歌う時にはむしろ減らすのに苦労したものです。
それでも完全に消してしまうと、徳永さんらしさまで薄くなる。
少し残すと、演歌ではない曲にも言葉の温度が生まれる。
徳永ゆうきさんの発声の核心は、こぶしの多さよりも「残し方」にあります。
徳永ゆうきの個性は、こぶしの多さではなく減らし方にある
こぶしとは、一つの音をまっすぐ伸ばす途中で、近くの音へ素早く動いて戻る節回しです。
長く伸ばした声を周期的に揺らすビブラートとは、役割も聞こえ方も違います。
徳永さんの場合、この動きは演歌を聴き続けた幼少期から体に入っていました。
小学生の合唱でも一人だけ節が回り、友人に指摘されて初めて「誰にでもできるものではない」と気づいたほどです。
ところが、プロになってから必要になったのは、こぶしをさらに増やすことではありませんでした。
2016年の「函館慕情」では回しすぎないように求められ、ポップスでは旋律そのものを崩さないよう、さらに控える必要がありました。
生まれつきの長所を抑える作業が、歌手としての幅を広げたのです。
「Lemon」で、消し切れなかった癖が武器に変わった
2018年に米津玄師さんの「Lemon」を歌った時、徳永さんはポップスの構成そのものに戸惑いました。
演歌は同じ旋律で一番から三番まで進む曲が多いのに対し、J-POPには途中で新しい旋律が現れます。
本人は一曲の中で二曲を覚えるような感覚だったと振り返っています。
さらに、番組側からはこぶしを抑えるよう求められていました。
約一か月かけて曲を覚えても、本番ではサビに少し節が入ってしまい、本人は失敗したと思ったそうです。
ところが反応は逆でした。
こぶしが心地よい、言葉が入ってくるという声が集まり、原曲の人気にも新しい層からの動きが起きました。
ここで分かったのは、個性とは癖をゼロにした時ではなく、曲を壊さない量まで整えた時に見えることです。

声が朗々と聞こえるのは、大声だけが理由ではない
徳永さんの歌声は「朗々としている」と表現されることが多く、本人も周囲から、聴くと元気が湧く声だと言われてきました。
ただし、これは最初から最後まで同じ強さで押す歌い方とは違います。
2025年の「明日への翼」では、前半を語るように進め、サビで大きく歌い上げるという本人の説明があります。
静かな部分があるから、開いたサビが大きく感じられる。
声量そのものより、前後の差がスケールを作っています。
演歌の太い響きを参考にしたい読者ほど、最初から最大音量で歌わないことが大切です。
細川たかしさんの歌い方にも通じますが、強い声は押し続けることではなく、言葉の輪郭を保ったまま必要な場所で広げることで成立します。
「車輪の夢」で増えたのは、裏声という別の出口
2020年の「車輪の夢」は、徳永さんのオリジナル曲で初めてファルセット、つまり息を含んだ軽い裏声へ本格的に挑んだ作品です。
同時に、こぶしを極力減らし、途中で曲調が変わるJ-POPらしい構成にも向き合いました。
ここで重要なのは、演歌の声を捨ててポップスの声へ交換したわけではないことです。
太くまっすぐ届ける声に、軽く抜ける出口を一つ加えた。
この二択があることで、曲の景色に合わせて重さを変えられるようになりました。
徳永さん自身、以前は裏声を使うオリジナル曲に苦戦していたと明かしています。
得意なこぶしの陰で、不得意な声にも取り組んでいた点に、この歌手の面白さがあります。
扁桃腺手術で「高い声になった」という話ではない
2023年頃から扁桃腺の腫れが慢性化し、高音を出しにくい状態が続いたため、徳永さんは2024年4月に摘出手術を受けました。
歌手にとって喉へメスを入れる決断は重く、複数の病院と歌手仲間の話を聞いたうえで決めています。
興味深いのは、術前と術後に朗読した声を比べた結果です。
周波数には目立った変化がなく、数値上、声が高くなったわけではありませんでした。
一方で、一息で声を伸ばせる時間はどの声でも6〜8秒長くなり、本人は裏声も出しやすくなったと感じています。
「手術をすれば歌が上手くなる」という意味ではありません。
徳永さんには日常生活へ影響するほどの肥大があり、医師の管理下で少しずつ歌へ戻りました。
この出来事が教えるのは、声の変化を感覚だけで決めず、原因と数字を分けて見る大切さです。

代表曲を並べると、同じこぶしが別の役をしている
「函館慕情」では、こぶしは本格演歌の節として物語を運びます。
ただ回数を増やすのではなく、女心を歌う言葉の流れを邪魔しないよう整えられました。
「Lemon」では、消そうとして残ったわずかな節が、原曲とは違う徳永さんの署名になりました。
「車輪の夢」では、その署名を薄くし、裏声と曲調の変化へ場所を譲っています。
「明日への翼」では、前半の語りとサビの歌い上げの差が中心です。
2026年に活動の軸となった「明日に向かってプッシュプッシュ」では、46回登場する短い言葉を、テンションや感情を変えて録音したと語っています。
節回しだけでなく、一語の表情を変える力も現在の武器です。
真似するなら、こぶしより先に「引く場所」を聴く
徳永さんらしく歌おうとして、すべての語尾を細かく回すと、曲の旋律より癖が前に出ます。
表面のこぶしだけを真似するより、どの言葉をまっすぐ置き、どこだけに節を残しているかを比べる方が、歌の設計を理解できます。
北山たけしさんの発声分析でも、長年身についた歌い方を一度減らす転機を扱いました。
二人を続けて読むと、演歌の個性は技法の数ではなく、技法を言葉へ従わせる判断にあると見えてきます。
まとめ|徳永ゆうきの声は、消せない癖を選べる個性に変えた
徳永ゆうきさんの歌い方は、自然に回るこぶし、朗々とした声、言葉の明るさが土台です。
けれど、本当の強みは、それらをいつでも全開にすることではありません。
こぶしを抑えた「Lemon」、裏声を加えた「車輪の夢」、語りと歌い上げを分けた「明日への翼」。
得意なものを一度引くたび、声の使い道が増えてきました。
徳永さんの個性は、こぶしが勝手に出ることから、曲に合う量を自分で選べることへ育ったのです。






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