加山雄三の歌い方|厚みのある声と、母音を伸ばす表情

2021年、インタビューで笑顔を見せる加山雄三 シンガー
2021年、インタビューで笑顔を見せる加山雄三

加山雄三の歌には、包み込むような声の存在感があります。
「君といつまでも」を手がかりに、伸ばした母音や台詞にも目を向けると、その大きな声の中にある細かな表情が見えてきます。

「君といつまでも」|スペースシャワーTV公式・朝霧JAM 2022ライブ

低い声だけで終わらない存在感

2022年9月9日、東京国際フォーラムのラストショーに参加したバックボーカルの歌手は、低音の包容力とともに、高音の張りやロングトーンの伸びを挙げています。
歌に感じる大きさは、低い音が出ることだけでは説明しきれません。
音を上げたとき、長く伸ばしたときにも、声が存在感を持つ。
共演者の記録は、その両方を伝えています。

この記録を書いたのは、同じ舞台で歌ったバックボーカルのMarin’coです。
限られたリハーサルの中でも、演奏が始まると各人の音が溶け合っていったことを記しています。
大きな声の印象は、独唱だけを取り出した評価ではなく、バンドやコーラスと一緒に音楽が立ち上がる現場で受け取ったものでした。

低音、高音、ロングトーンを別々に挙げている点にも注目できます。
低い声で包み込むように感じさせることと、高い音を張って伸ばすことでは、聴く側が受け取る勢いが違います。
その違いを持ったまま、一人の歌声として曲を運ぶ。
加山の歌の大きさは、音量の一語より、音の高さや伸ばし方に応じた表情として捉えたほうが伝わります。

「君といつまでも」で、母音の響きを追う

ルタロフの歌唱評では、「君といつまでも」のゆったりした声と、高音の力強さが取り上げられています。
その中で具体的なのが、歌い出しと終盤にある、伸ばす母音の聞こえ方です。

冒頭では、夕闇を描く言葉に続く助詞の「あ」が、「う」に近く聞こえると指摘しています。
終盤の願いを伝える言葉の結びでは、「え」へ入る前に「う」が混ざるようなニュアンスを感じています。

文字では一つの母音でも、声として伸ばすときには、別の母音へ寄ったり、移り変わったりして聞こえる。
この評が捉えたのは、同じ太い声で音を保つだけではない、母音の内側の表情でした。
長い旋律の中で、声の揺れとともに、その変化も歌を彩っています。

同じ歌唱評は、途中の台詞では歌とは異なる響きに聞こえるとも指摘しています。
母音を旋律に沿って長く保つ場面から、話し言葉で相手に語る場面へ移る。
「君といつまでも」では、この切り替わりによって、声を聴く距離も変わると考えられます。
伸びやかな歌の中へ、親しい相手への言葉が入ってくるのです。

声を楽器として捉え、言葉にも気持ちを託す

加山は2010年の取材で、もともと洋楽から入り、ボーカルを楽器の一つとして、響きやサウンドで捉えていたと話しています。
自分で詞を書くのは英語の歌で、音として作れるためだとも説明しました。
言葉がどんな響きで旋律に乗るかは、音楽の出発点から大切なことだったのです。

「海 その愛」では、岩谷時子に雄大な海のイメージを託し、その思いに合う詞が返ってきたと振り返っています。
曲名にも驚き、人生の機微まで歌い込まれた内容を高く評価していました。
声を楽器として考える感覚は、言葉の意味に無関心ということではありません。
旋律が持っている広がりに、歌詞が具体的な景色や生き方を与える関係なのです。

本人によれば、この曲は一度見送った旋律をアルバム制作の際に取り出したものだったそうです。
そこへ詞が付き、やがてコンサートの結びに欠かせない歌になりました。
厚い声や長く伸びる音に注目する際にも、それが海の広さや人の歩みを描く言葉と結びついていることを、合わせて考えたいところです。

「ラストショー」特設ページの加山雄三(撮影:Masaharu Saeki)
「ラストショー」特設ページの加山雄三(撮影:Masaharu Saeki)。
画像出典:写真掲載元

一方、2010年の「ハーモニー」には、長く連れ添った妻への感謝が表れています。
もともとは広い意味での応援歌を考えていた旋律でしたが、詞を依頼したさだまさしから、これはラブソングの旋律だと言われたそうです。
出来上がった歌を気に入り、アルバムには台詞入りの版も収めています。
声を音として捉える感覚と、具体的な相手へ言葉を届けることが、一つの作品の中にあるのです。

切なさを含む歌でも、明るさが残る

加山の声を、晴れやかな若大将のイメージだけで捉えない例もあります。
映画監督の河崎実は、1970年のアルバム『愛はいつまでも』を取り上げた対談で、タイトル曲の歌い方に切なさを感じると語っています。
同時に、その曲には明るさも残っているというのが、河崎の印象でした。

さらに対談では、曲中の台詞が話題になります。
幸せを語る「君といつまでも」と通じる調子で、生きるつらさにも触れることが、独特の味として受け止められています。
声の持ち味をすべて悲しい色へ塗り替えるのではなく、明るさの残る声が、別の内容を語る。
そのずれが、加山らしい親しみや切なさにつながるという読み方ができます。

これは録音を聴いた人の作品評です。
生活上の苦労が声帯をどう変えたかという説明ではありません。
同じ歌手の声でも、何を歌い、何を台詞にするかで、聴き手に届く感情が変わる例として興味深いところです。

共演相手が変わると、持ち歌の表情も変わる

2010年の『若大将50年!』では、代表曲を音楽仲間と一緒に歌っています。
加山は公式サイトの文章で、「旅人よ」を森山良子と歌うことで、新しい味わいが生まれたと述べています。
自分の声を聞かせるだけでなく、違う声を迎えることで、よく知る歌の別の面が出てくることを喜んでいました。

南こうせつとの「白い砂の少女」については、彼とのデュエットがラテン調の仕上がりにつながったのかもしれないと語っています。
加えて、鳥山雄司の編曲とギターも評価していました。
歌の変化を相手の声だけに帰すのではなく、二人の歌と、それを囲むリズムや楽器の組み合わせとして捉えているのです。

「君といつまでも」にはさだまさし、「夜空の星」にはTHE ALFEEが参加しました。
親しみのある曲を別の歌手と分かち合っても、中心には加山の声がある。
厚みのある独唱、台詞で近づく声、相手と並んで歌う声を合わせて見ると、加山の包容力にはいくつもの表れ方があると分かります。

母音を長く響かせる歌と、相手へ言葉を語りかける台詞。
加山の歌には、声を音として楽しむ面と、具体的な人へ思いを届ける面があります。
低音の大きさに加え、その二つを行き来するところにも、歌の表情が見えてきます。

近年の録音とコンサート活動の区切りについては、加山雄三の歌唱変遷で紹介しています。

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