斉藤壮馬の歌声の変遷|封じた裏声を取り戻し、自分の声でヘヴィな曲を歌うまで

斉藤壮馬(2025年の「VANITYMIX」掲載写真) シンガー
斉藤壮馬(2025年の「VANITYMIX」掲載写真)

2025年の「マヨヒガ」で、斉藤壮馬が聴かせたいと考えたのは、ファルセットのハーモニーでした。
ヘヴィなリフが鳴る曲を、自分の柔らかな声で歌う。
その選択の前には、一度封じた裏声を、自分の歌い方として取り戻す過程がありました。

さらにソロ活動では、一曲の中で声色を変えることや、声優として培った表現を使うことにも、少しずつ自由になっていきます。
憧れの歌い手に近づこうとした頃から、自分の声で歌える音楽を増やすまでの歩みをたどります。

「マヨヒガ」(2025年)の音源。

好きなバンドに合わせ、自然な裏声を封じた

2022年の取材で、斉藤は、子どもの頃は高い音域までファルセットで歌えたと振り返っています。
部屋で歌う時にも自然に裏声を使っていました。
ところが10代には、裏声を使わないバンドの歌い方にひかれます。
中学のパンクバンドではTHE STALINの曲などをコピーし、自分も裏声を封じていたといいます。

ソロの音楽活動を始めた頃、裏声を自由に使ってよいと改めて気づいた。
本人には、十数年を経て自然な歌い方へ戻ったような感覚がありました。
憧れた音楽の歌い方と、もともと自分が歌いやすかった声。
その両方を、選択肢として持てるようになっていったのです。

「デート」で、一曲の中の声色を変えてみる

ソロでの表現を考えるうえで、2018年の3rdシングル「デート」も転機になっています。
発売時の取材で斉藤は、2ndシングルまでは、きちんと歌うことを意識していたと話しました。
途中で声色を変えすぎると、一貫した歌として聴きにくくなるかもしれないと考えていたためです。

「デート」では、その制限を外しました。
歌詞に書かれていない合いの手にも、いろいろな声色を使っています。
女性の声に聞こえるコーラスも、本人が録った声をエンジニアの林さんが仕上げたものでした。
自分では少しふざけすぎたかと思った声が、曲の中では面白い表情になる。
録音と音の仕上げを通じて、そんな発見がありました。

キャラクターソングを数多く歌ってきた一方、ソロの開始時には、自分の歌とは何かを探していたといいます。
「デート」では、曲に引き出されるままに表現を使えた。
声優としての技術も、それまで丁寧に歌ってきた経験も、一緒に生かしてよいと考えられるようになりました。

「デート」(2018年)のミュージックビデオ。
2023年に公開されたフル版。

2020年には、曲に合う声を選ぶ柔軟さへ

2020年の「Summerholic!」では、日本語を英語のように聞かせる歌い方にも挑戦しています。
一方で、キャラクターソングを思わせる表情も、一曲の中へ取り入れました。
当時の取材で本人が語ったのは、活動を始めた頃には声優とアーティストをきっちり分けていた、ということです。

3年を経て、どちらも自分の表現だと思えるようになった。
そのため、曲ごとに合うものを選ぶ柔軟さが出てきたと振り返っています。
「デート」で声色を変える楽しさを知り、その後も曲に応じて声を使っていく。
仕事の肩書きで歌い方を分ける意識が、薄れていった時期でした。

「Summerholic!」(2020年)のミュージックビデオ。
2023年に公開されたフル版。

2021年4月の名古屋公演を記した観客のnoteには、「デート」で歌詞に合わせて次々に身振りを変える姿への驚きが残っています。
歌と動作が結びつく様子を楽しんだ、一人の聴き手の感想です。
録音で声色を遊ばせた曲は、舞台では身体の表情も加わり、違う楽しみ方を生んでいました。

斉藤壮馬(2020年のMusicVoice掲載写真)。
斉藤壮馬(2020年のMusicVoice掲載写真)。
画像出典:MusicVoice(現vois)

「エニグマ・ゲーム」で、裏声とコーラスの楽しさを広げる

2022年のEP『陰/陽』では、地声で出ない音域ならファルセットを選ぶ発想によって、メロディの幅も広がったと話しています。
「エニグマ・ゲーム」は、その声を生かした曲でした。

歌うには難しいメロディだったものの、清水哲平が考えたハーモニーを歌うことは楽しかったそうです。
重ねるコーラスの量は多くても、録音は気持ちよく進んだと振り返っています。
かつて封じていた声が、重なり合う旋律を楽しむための声になっていました。

『陰/陽』(2022年)の全曲試聴映像。

斉藤壮馬(2022年の「THE FIRST TIMES」掲載写真)
斉藤壮馬(2022年の「THE FIRST TIMES」掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

「マヨヒガ」で、柔らかな声をヘヴィな曲へ

2025年のEP『Nuance』に収録された「マヨヒガ」では、自分の声と曲との関係をさらに広げています。
本人によると、最初に浮かんだのはサビのメロディでした。
鼻歌を録ってアレンジャーのSakuへ送り、ヘヴィな曲にしたいと伝える。
そこにコードとリフが付き、返ってきた音を聴いて、さらに重い方向へ進みたくなったといいます。

「VANITYMIX」の取材では、バンドを始めた頃にカート・コバーンのシャウトへ憧れていた一方、自分の声はかなりソフトだと話しています。
その声を自分の楽器として、どんな曲を歌ってもよいと思えるようになった。
『Nuance』は、そんな気持ちで取り組めた作品でした。

「マヨヒガ」では、ファルセットのハーモニーを聴かせたいという狙いもありました。
これまでは仮の英語で歌い、近い響きの日本語を探すことが多かったのに対し、この曲では英語のフレーズを入れています。
声の持ち味に合わせ、言葉の響きの選び方も変えたのです。
斉藤自身、10代の頃には生まれなかった曲だと語っています。

別の取材では、声の線の細さと曲の重さがぴったり重ならない面白さを、本人も感じていると話しました。
声優の仕事や人との出会いで、自分の世界が開かれてきたとも振り返っています。
昔なら選ばなかった音楽を、今の自分の声で楽しむ。
柔らかさを残したままヘヴィな曲へ進めることが、新しい自由になっていました。

自然だった裏声を再び選び、声色の変化も、重い音との組み合わせも楽しんでいく。
斉藤壮馬の変遷には、歌う声へ自分で設けた制限を、一つずつ外してきた歩みがあります。
小さく声を出す曲や、少ないテークで表情を残す曲の録り分けは、斉藤壮馬の歌い方で取り上げています。

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