内澤崇仁の歌唱変遷|「誰か」へ歌った声が、顔の見える「あなた」へ届くまで

andropの内澤崇仁 シンガー

2009年発表の「Image Word」を、内澤崇仁は2023年にもう一度録音した。
歌詞は変えず、当時と同じエンジニア、同じ種類の楽器を選んだ。
それでも歌入れの途中、聴いてくれる人たちの顔が浮かび、涙が出てしばらく歌えなくなったという。
同じ歌を歌い直したときに、彼の中で何が変わっていたのだろう。

内澤はandropのボーカル兼ギターで、楽曲の作詞・作曲を担う。
2009年の『anew』から近年の『imperfect』までを、単に声が「強くなった」という話にはできない。
初期には顔を知らない聴き手にも自分の歌として受け取れる言葉を探し、ライブでは客席そのものを歌の主役にし、やがて目の前の人や物語に向けて歌を作ってきた。
その過程を、本人が語った出来事と作品からたどる。

歌う理由から始まった、顔の見えない相手への言葉

2012年の取材で内澤は、androp以前はボーカリストではなく、曲を作っても歌うのは別の人でよいと思っていたと明かした。
自分が歌う以上は、その意味が要る。
自分の感情をただ吐き出すのではなく、聴き手に届けたいメッセージがあるから歌う。
その考えが、彼にとっての出発点だった。

初期のandropはメンバーの詳しいプロフィールを前面に出さず、歌詞でも人物や場所を限定しないようにしていた。
誰のための歌かを決めつけなければ、聴く人が自分の状況を重ねられる。
2012年の『one and zero』について、内澤は「光」を前へ進むための力を表す核として語っている。
この時期の歌は「自分を知ってほしい」という自己紹介より、まだ顔の見えない誰かが持ち帰れる言葉を作る試みに近い。

デビュー作『anew』に収められた「Image Word」も、のちに内澤がその出発点を測り直す一曲になる。
再録版を初期録音と並べると、音作りの変化に目が向きがちだ。
しかし本人が取材で最も鮮明に語った違いは、歌うときに思い浮かぶ相手だった。

「Image Word」/『anew』(2009年)収録の公式音源。

ホールの客席から生まれた「Voice」

『one and zero』の制作後、内澤は次に出す曲をなかなか作れなかったという。
転機は2013年のホールツアーだった。
客席が静かに聴いているのを見て、初めは届いていないのかと心配した。
しかし後から盛り上がりが爆発し、「静かだったのは聴き込んでいたからだ」と気づく。
ライブハウスとは異なる、広い会場での伝わり方を体験した。

内澤はもともと、観客がもみくちゃにならず、一人ずつの空間を持って聴ける場所で演奏したいと考えていた。
自分自身も、そういう環境で音楽を聴きたい人間だったという。
静かに聴くことと、伝わっていないことは同じではない。
ホールでの経験は、客席の反応を受け取る目も変えた。

ツアーの初日を経て、内澤はバンドではなく客席を主役にする曲を作りたいと思った。
そこから「Voice」の大勢で歌えるフレーズやサビが形になり、東京国際フォーラム公演の後に曲を仕上げた。
初期の「誰かに届くはず」という願いが、同じ場所で声を交わす人たちを意識した歌へ移ったのである。

「Voice」は単に大きな会場向けの曲ではない。
内澤の証言を踏まえると、聴く人が作品を受け取るだけで終わらず、その場で歌の一部になる設計だったと分かる。
高い音を出せるようになったから開けたのではなく、歌をどこへ向けるかをライブ体験が変えた。

2014年の「One」では、大勢とつながりたいという願いが広がるほど、いま聴いている一人を大切にしたいと内澤は説明した。
その人も、周囲にいる人も、代わりのいない存在である。
歌が光になってほしいという初期からの思いを、たくさんの客席をひとまとめにせず、一人へ向け直した曲だった。

andropの内澤崇仁
2024年の取材に登場した内澤崇仁。
写真出典:SPICEの本人取材

「Hikari」――想像だけで歌わないために

2018年の「Hikari」はドラマ『グッド・ドクター』の主題歌として作られた。
内澤は最初、原作ドラマを見て複数の曲を用意したが、制作側と話し、ピアノを中心にした曲を作り直すことになった。
悲しい場面にも温かい場面にも添える歌が求められたからだ。

ここで内澤は、資料から得た知識や想像だけでは曲が届かないと考え、制作陣の小児医療の取材に同行した。
病院で見た現実に衝撃を受け、当事者や家族にも届く曲にしたいと考え直したという。
テレビ放送が始まる直前まで一部を書き、放送開始後もフルの歌詞を練り続けた。
2012年に語った「メッセージを届けたい」という願いは変わらない。
しかしこの時期は、相手の現実を知るために自分から足を運び、言葉を簡単に決めない姿勢が加わる。

しかも、放送に間に合わせて終わりではなかった。
第1話を見た内澤は、もう少し優しい歌い方が映像に合うと感じ、ボーカルを録り直した。
本人によれば、第3話ごろから新しい歌に切り替わっているという。
想定した場面へ歌を置くだけでなく、実際に届いた姿を見て、自分の表現を選び直したのだ。

同時に、打ち込みだったストリングスも生演奏へ差し替え、ミックスをやり直している。
二つの速度感を持つ編曲と、放送後の歌い直しは、制作の別々の段階にある工夫だ。
声をどう変えたかを本人が具体的に説明しているのは、映像を見て優しい歌へ録り直した部分である。
この曲では、相手や作品を理解する過程が、歌詞だけでなく歌い方にも及んだ。

「Image Word」を歌い直して見えたもの

2023年に発表した「Image Word(New Recording Ver.)」では、初期作を現在の自分たちで録り直した。
内澤は、好きな歌手の再録を聴いても原盤のほうが良いと思うことが多く、自分もそうなるのが嫌だったという。
それでも周年の機会に、いまだからできることがあるはずだと挑み、同じエンジニア、同じ種類の楽器で制作に向き合った。
初めての録音では方法が分からなかったが、今は思い描いた音へ近づける経験があるとも語る。

ただし、彼が取材で一番鮮明に話したのは機材の差ではない。
以前は届けたい相手の顔が見えなかったのに、再録時には長く聴いてきたさまざまな人の顔が浮かんだ。
同じ歌詞が違って感じられ、歌っている途中で涙が出た。

普段は一人で歌を録るが、その日はメンバーもいたことが関係したのかもしれない、と内澤は振り返っている。
技術が増えれば、以前より楽に同じ歌を歌えるとは限らない。
歌詞が変わらなくても、そこへ重なる相手や記憶が変わっていた。
初期にまだ見えなかった人たちと長く関係を築いたことが、歌っている本人にまで新しい反応をもたらした。

「Image Word(New Recording Ver.)」/2023年発表の再録、公式音源。

andropの内澤崇仁
2024年の取材に登場した内澤崇仁。
写真出典:SPICEの本人取材

この再録から始まったという2024年の『hooray』では、歌う言葉にも変化があった。
内澤は、昔なら使っていなかった、愛情を直接伝える言葉を多く歌えるようになったと話している。
難しい言葉がライブで聞き逃されるより、分かりやすく伝えたいという選択だった。

「Lamplight」では、その関係をさらに「照らす側」と「照らされる側」の双方から捉える。
内澤は、音楽で客席を照らしたい一方、自分たちも客席に照らされている、と説明した。
タイトルも、物としてのランプを指す「Lamp」ではなく、照らされている様子を表す「Lamplight」にしたという。
聴き手へ向けた呼びかけは、自分たちも支えられているという実感を含む関係へ広がった。

2026年、「整えすぎない」ことも表現になる

2026年の『imperfect』は、楽器の録音が先に終わっても、歌詞と歌が決まらず、発売が4月から7月へ延びた。
内澤は自宅で何度も歌を録り、聴き直しては一文字を変え、再び歌う作業を続けたという。
一見小さな変更でも、本人にとっては曲の世界が変わる。
テイクを重ねすぎて、どこを完成とすればよいのか分からなくなる難しさもあった。

一方で、音程やタイミングを整えられる時代だからこそ、揺らぎや余白まで表現として残したいとも考えた。
言葉も、詳しく言い切れば伝わるものが増えるとは限らない。
曖昧すぎれば真意が届かず、説明しすぎれば失われるものがある。
冒頭曲「Perfect」では、不完全な自分らしさを肯定するために、楽器だけでなく声の出し方にも重きを置いたという。

「Easy」で悩んだのは、ライブで客席が一緒に歌う部分だった。
これまで試してきた掛け声の響きを考え直し、曲のテンポに明るく合うものを選ぶ。
2013年の「Voice」で客席を主役にしたいと考えた歌手は、いまも観客が声を出すところまでを曲の一部として作っている。

最初から内澤の歌には、誰かへ届けたいという芯があった。
その相手は、想像の中の聴き手から、ホールの客席、病院で出会った現実、長く聴いてくれた人たちへと具体的になった。
「Image Word」で涙が出た一瞬にも、その相手と時間が重なっている。
同じ言葉を歌うときに、誰を思うのかが変わっていた。

内澤が一曲の中で言葉や編成をどう選ぶかは、内澤崇仁の歌い方で詳しく見る。

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