2007年の「罠」を知ってから、2023年の「罠(Rearrange)」に触れると、同じ歌詞の居場所が違って見える。前者ではバンドの勢いが曲全体を押し、後者では手拍子やアコースティックギターを含む軽やかな編曲の中で、山田将司がAメロをどう歌うかも変えた。本人はこの再制作で、ただギターと一緒に叫ぶ以外の方法を試したかったという。
だからといって、若い頃の山田が叫ぶことしか知らず、歳を重ねて初めて静かな歌を覚えたわけではない。彼はバンド以前から路上で弾き語りをし、バラードのほうが好きだったとも語る。変わったのは声の大きさ一つではなく、「叫びを求められる自分」と、曲ごとに違う声で言葉を届けたい自分との関係だ。その揺れを、本人の発言と発表された曲で追う。
2001年:路上の弾き語りで、歌が届く距離を知る
THE BACK HORNが『人間プログラム』を出した2001年の取材で、山田はバンドを始める前に路上で弾き語りをしていたと話した。足を止めるか通り過ぎるかがすぐ目に入る場所だった。そこで「人の心に届かせるにはどうすればいいか」を学んだという。初期のバンドが激しく鳴っていたとしても、歌を相手にどう渡すかという問いは、最初から彼の中にあった。
その取材で山田は、自分たちが作ったものを自分だけで楽しんでも、いずれつまらなくなるとも言った。客から何かが返ってくることが音楽の喜びになる。歌の変遷を「声が太くなった」「高音が伸びた」といった能力だけで整理できないのは、本人の関心が出発点から聴き手との間にあったためだ。のちに激しい声がバンドの象徴になっても、その声は誰かに届くための手段だった。
2004年「コバルトブルー」:勢いの中にも、力を抜く余地があった
2004年の「コバルトブルー」は、速度と熱を持つ曲として取材された。歌が「肩の力は抜けているのに速い」と評されると、山田はバンドにとってこれほど速い曲は初めてだったと答えた。初期をすべて力任せの叫びとして聞くと、この時期にすでにあった軽さを見落とす。
同じ取材でメンバーは、より肉体的なバンドの音へ向かっていたと説明する。山田の声だけが突然変わったのではなく、演奏全体の動きが変わる中で、速さと抜けを両立させる歌の置き方が問われた。「コバルトブルー」は、後の「罠」につながる激しさと、バラードを歌う人の余地が共存した記録として置ける。

2007年「罠」:叫びが、バンドと歌手の看板になる
2007年の「罠」は、テレビアニメ『機動戦士ガンダム00』のエンディングテーマとして、バンドを知らない人にも広く届いた。メンバーは当時、四人の演奏の勢いと曲の世界観が両方入った手応えを語っている。傷つけ合う人間がなお誰かを信じようとする歌詞を、山田の声がバンドの音の中で押し出す。聴き手にとって「THE BACK HORNの山田」の像が強くなる曲だ。
ただし、その像だけで本人を説明しきれない。2007年には「美しい名前」も発表された。後に山田自身が「バラードのほうが好きだった」と振り返るように、叫びと繊細な歌は互いの前後に並ぶ成長段階ではなく、同じ時期の選択肢だった。激しい曲で一つの声が注目されるほど、静かな曲の自分も抱えて歌い続けた。
2017年:叫ぶことが「自分らしさ」になった後の苦しさ
結成から約二十年の2017年、山田は自分にとって叫び続けることが簡単ではなかったと明かした。感情を無理に引っ張り出し、穏やかな日でも叫ばなければならない。その表現がバンドの主流になっていると感じていたという。それでも逃げなかったのは、かつて自分が歌に救われたように、誰かがその叫びに救われるかもしれないと思えたからだ。
この告白は「声が衰えたから歌い方を変えた」という話ではない。力のある声をいつでも出せる機械ではなく、感情を持つ人が毎回その曲に入っていく難しさを示している。山田はバラードの延長に叫びがあると語った。静かな歌が激しい歌の反対側にあるのではなく、同じ人が誰かへ向かう二つの距離なのだ。

2023年「罠(Rearrange)」:同じ歌詞を、別の立ち位置で歌う
25周年の『REARRANGE THE BACK HORN』は、昔の曲のテンポだけを変えた記念盤ではない。山田は、録音するときには伴奏に対して歌をどこに置くかを昔から考えてきたと言う。そのうえで今回は、ギターとともに叫ぶ以外の方法で、自分を試したかったと話した。古い曲だから昔と同じ感情を再現するのでなく、いまの自分なら歌詞をどう捉えるかを問い直した。
「罠」の新しい伴奏を主導したのも山田だ。手拍子とアコースティックギターから発想し、ビッグバンド風の音へ広げた。本人は、激しい原曲と軽快な新編曲では、同じ歌詞でも見える範囲が異なると認める。Aメロでは、少し酔いしれて相手を操るような雰囲気も出したかったという。これは加齢で自然に声色が変わったという推測ではない。新しい解釈に合わせ、本人が歌の役割を選び直したという証言だ。
同じ盤の「美しい名前」でも、山田はかつてベースが作った象徴的な入りをアコースティックギターの指弾きへ置き換えた。歌を先に始めたかったが、普通の弾き語りではない導入を探したという。歌を前に出すために、まず伴奏の入口を作る。路上で一人だった頃と違い、いまは四人の音の作り方そのものに手を入れて、声が届く場を設計している。
2024年以降:小さく語る声も、叫ぶ声も手放さない
2024年の「ジャンクワーカー」では、山田が作った曲に、抑揚を抑えた語りに近い部分と、叫びへ向かう部分が並ぶ。公式ライナーノーツは冒頭の新しいラップ調の語り口と、後半の叫びの対比を挙げる。本人は後の取材で、少しお経のような旋律にし、唱えるような歌い回しや言葉の並べ方まで考えたと話した。バンドの「闇」を扱う曲でも、始めから最後まで同じ強さで押すのではなく、抑えた声を置くことで叫びの位置を際立たせた。
さらに同じアルバムの「修羅場」では、山田は歌詞の登場人物に合う不気味さを、ラップより無骨な歌い方で表したかったと語る。自分が曲をどう解釈するかによって、声の正解は一つでなくなる。「ジャンクワーカー」が怒りを内側から膨らませる声なら、「修羅場」は人物の異様さを引っかかりとして残す声。初期の叫びが消えたのではなく、暗さを表す方法が増えた。
2025年:喉の使い方を学び直し、「叫ばない」も選ぶ
山田は2025年の取材で、以前に喉の手術を受け、術後からボイストレーニングを続けていると話した。過去には体の使い方が分からなくなり歌わなくなった曲もあったが、近年、なぜ自分にその声が出ていたのかを理解し直し、再び歌える曲が出てきたという。これは聞き手が音源だけで診断できる話ではなく、本人による経過の説明である。
同時期の「月夜のブルース」は、本人が淡々とした温度で作ったピアノバラードだ。山田は、昔も引き算の表現は試していたが、いまは違う引き算ができると語る。かつてのような声も出したいが、丸くなったからもう叫ばない、と受け止められるのは違うとも話した。求めているのは、叫びを捨てることでも無理に維持することでもない。曲と体の両方を踏まえて、長く歌える方法を探すことだ。
「タイムラプス」について山田は、昔ならもっとシャウトへ寄せたかもしれないが、この歌には怒りがないので、身を削るように叫ぶ必要はないと説明した。音の勢いと歌詞の感情を機械的に結びつけない。激しい曲でも、怒りを描いていなければ別の声を選ぶ。2017年には叫びに苦しんでいた人が、いまは叫ばないことにも明確な理由を持っている。
2025年の弾き語り取材で山田は、曲の世界が変われば気持ちも声も変わると話した。自分には決まった「山田らしい歌い方」がないのでは、と悩みながらも、相手に話すように思いを伝えるのが自分のやり方だと捉えている。弾き語りでは、自分の呼吸とギターを合わせるタイミングを、その場で作れることを大切にする。初期の路上で学んだ「届くかどうか」は、二十年以上を経ても歌の中心に残っている。
同年のアルバム表題曲「親愛なるあなたへ」についても、山田はライブで初めて聴く客へ言葉が届くことを意識して作ったと説明した。若い頃なら、この率直な題名を恥ずかしくて付けなかっただろうとも言う。叫びか静けさかという音量の話より、聴き手を正面から見て歌うことへのためらいが薄れた点に、長い活動の変化が表れる。
山田の声は、叫びから穏やかな声へ一本の線で移ったのではない。「罠」に乗せた勢いを持ち続けながら、その同じ曲を別の視野で歌い直し、新しい曲では語りと叫びを一曲の中で選ぶようになった。喉の使い方を学び直したことも、叫びを失ったという単純な話ではなく、選び続けるための過程だ。変わったのは、どの声ならこの言葉が相手に届くかを、伴奏や自分の呼吸まで含めて考えられる範囲である。現在の歌い分けを「罠」と弾き語りから詳しく考える記事は、山田将司の歌い方。

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