THE BACK HORNの「罠」にある激しい声だけを聴くと、山田将司は気持ちをいつも力で押し出す歌手に思える。
だが、本人は「叫ぶ」はスイッチ一つでできることではないと語り、2023年には同じ「罠」を異なる伴奏で歌い直した。
何をどう変えたのかを知るには、声量より先に、歌が曲の中で置かれる場所を見る必要がある。
山田は、録音では「この伴奏に対して歌をどの立ち位置に置くか」を考えると言う。
弾き語りなら、伴奏のギターも自分で弾き、呼吸とタイミングをその場で組み立てる。
バンドと一人の舞台で共通するのは、毎回同じ声を出すことではなく、言葉をどの距離から相手へ渡すかを決めることだ。
原曲「罠」では、歌が四人の音の勢いを背負う
2007年の「罠」ができたとき、メンバーは曲の世界観に加え、四人の演奏の勢いが入ったと語った。
歌詞を書いた菅波栄純が描いたのは、裏切りや傷つけ合いの中でも人を信じようとする問いだ。
山田の強い声だけを取り出して「叫ぶ技術」と呼ぶより、演奏と歌詞が同じ方向を向いた曲として受け止めたい。
声が大きければ伝わる、という単純な図式でもない。
山田が2017年に語ったのは、叫ぶためには感情を自分の中から引っ張り出さなければならず、それを続けるのは苦しいということだった。
強い声を出す動作だけで、本人の歌ができあがるわけではない。
本人にとって、その日の感情と曲の世界へ入る行為も歌の一部なのだ。
同じ「罠」を軽やかな伴奏に置くと、Aメロの人物が変わる
2023年版では、山田が手拍子とアコースティックギターを入口にして、新しい編曲を作った。
彼は原曲の激しい音と新しい軽快さの中では、同じ歌詞の意味の見え方が違うと話す。
Aメロでは、少し酔いしれて相手を操るような空気も出したかったという。
歌詞も主旋律も捨てず、歌い回しが担う人物像を動かした。
ここが、山田の歌い方を考える面白いところだ。
2007年と2023年を単純に「若い高音」と「年齢を重ねた低音」で比べても、本人の意図を見落とす。
伴奏の密度やリズムを変えたうえで、同じ言葉を誰の立場から発するように聞かせるかを選んでいる。
Aメロの余裕があるからこそ、強い言葉が出る場所にも違う緊張が生まれる。
また、新しい「罠」では、間奏の頭でギター以外の音を抜いたり、途中に雄叫びを加えたりしたことも本人が明かしている。
軽快に作り直したからといって、強い声を全部取り除いたわけではない。
音を減らす場所と、声で突き破る場所を選び直したのだ。
同じ歌の中に余裕と危うさが同居するように、編曲と声の出番を一緒に決めている。

写真出典:スナマグの本人取材
弾き語りでは、呼吸とギターを同じ人が動かす
山田はバンド以前に路上で弾き語りをした経験を持つ。
2025年の対談では、現在の弾き語りについて、自分の声とアコースティックギターが「一心同体」で空間を作ることを大切にしていると話した。
ほかの奏者と決めた拍にただ乗るのではない。
息を吸う位置もギターを鳴らす瞬間も、自分のその場の呼吸に合わせられる。
これを「バンドより弾き語りのほうが本当の声」とは言えない。
両者で歌が担う役割が異なるからだ。
四人で演奏するときには全員の音が作る勢いを受け止める。
一人なら、歌の一語に合わせて伴奏側の間を作ることもできる。
山田が話す弾き語りの魅力は、音数が減ることだけではなく、声とギターの時間を同時に動かせる自由にある。
対談相手の山岡トモタケも、山田の弾き語りではバンドのときとは別の言葉が胸に残ったと話している。
同じ歌詞でも、その前にどんな間があり、どんな呼吸で言い始めるかによって、耳が向く場所は変わる。
山田が自分の呼吸を大切にするのは、単に楽に歌うためだけでなく、言葉にその場の時間を与えることにもつながっている。

写真出典:スナマグの本人取材
「自分の声」を一種類に決めない
2025年の対談で山田は、自分は決まったボーカルのスタイルを作り上げてこなかったのではないかとも話す。
曲によって気持ちが変われば、声が変わるのは自然だと考えてきた。
怒りを向ける言葉と、隣に寄り添う言葉が同じ口調になるはずはない。
本人は、会話のように思いを伝えることへ行き着く。
2024年の「ジャンクワーカー」にも、その考えは見える。
公式解説が挙げるのは、冒頭の抑揚を抑えたラップ調の部分と、叫びの対比だ。
山田は少しお経を唱えるような歌い回しを意識したと説明している。
ずっと大声を続けるのでなく、話すような部分を置いてから叫ぶ。
どの声を選ぶかは、曲が描く人間の状態と結びついている。
「光とシナジー」は、跳ねすぎない加減が難しい
声の細かな選択は、明るい曲にもある。
「光とシナジー」について山田は、手拍子を含む跳ねたリズムの加減が難しかったと話した。
歌をはっきり跳ねさせすぎると、メロディのさりげなさが伝わりにくくなり、曲の温度も上がりすぎてしまうという。
リズムに乗ることと、その乗り方を強調することは同じではない。
ここで求められたのは、明るい曲だから声も大きく弾ませる、という歌い方ではなかった。
伴奏の軽やかな動きを感じながら、言葉まで過剰に跳ね上げないようにする。
怒りを描く「ジャンクワーカー」と並べると、山田が感情を声の大きさだけでなく、リズムの強調の度合いでも選んでいることが分かる。
力を引く歌は、叫べないから生まれたわけではない
2025年の「月夜のブルース」を山田は、泣かせる旋律へ寄りかからない、淡々としたバラードとして作ったと話す。
「引き算」は若い頃にも試していたが、いまは以前とは違う仕方でできるという。
対して「タイムラプス」は速さと重さのある曲でも、歌詞に怒りがないから、昔のような身を削るシャウトにしなかったと説明した。
曲の速さと声の強さを一対一で決めない選び方だ。
山田は喉の手術後にボイストレーニングを続け、体の使い方を理解し直しているとも語った。
以前は体の使い方が分からなくなって歌わなくなった曲も、仕組みを理解し直すことで再び歌えるようになってきたという。
声の表情を増やすことと、必要な声をもう一度出せるようにすることを、並行して続けている。
本人が探しているのは両方を歌える余地であり、この曲にはどの声がふさわしいかという判断である。
山田の歌い方を一つの音色や発声法へまとめると、「罠」の二つの版も弾き語りも説明できなくなる。
声を張るときには四人の勢いがある。
声を抑えるときには、歌詞の人物や聴き手との距離が変わる。
息とギターを自分で動かす場では、さらに別の間が生まれる。
これらの選択が、バンドの活動の中でどのように増えたかは、山田将司の歌唱変遷でたどれる。

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