内田雄馬の「Joyful」は、もっと早く世に出ていたかもしれない曲です。
2022年の「Congrats!!」を作る際に候補として届いていたものの、当時の本人には歌いこなすのが難しかった。
声優仲間をゲストに迎える作品で、自分が歌えない曲をほかの人に頼むわけにはいかないと考え、いったん見送ったのです。
それでも曲への思いは残り、2023年のアルバム『Y』へとつながっていきます。
デビュー曲「NEW WORLD」では高音も出しやすかったという歌い手が、どんな難しさに出会い、声の使い方を増やしてきたのか。
伸びる声への自信、高いキーでの挑戦、力を抜く歌、感情から歌を作る録音をたどると、一つの得意な響きに留まらない歩みが見えてきます。
2018年、「NEW WORLD」の高音は本人には出しやすかった
2018年5月にアーティストデビューを飾った「NEW WORLD」は、内田自身の前向きな性格を表す曲として選ばれました。
録音前には緊張もあったものの、歌い始める楽しみのほうが大きかったと振り返っています。
それまで歌ってきたキャラクターソングには、役に合わない表現を削っていく作業がありました。
自分の名義では、反対に、できることを加えていきたい。
役を通して身につけた歌い方を組み合わせ、自分の表現を増やせることが、活動を始める楽しみでもあったのです。
サビで声を伸ばす部分について尋ねられたときの答えも、少し意外です。
この曲を歌ってきついと感じたことはなく、自分には自然に声が出る。
自分に合わせてキーを設定してもらったことも関係しているかもしれない、と本人は話していました。
高音を苦労して克服したというより、まず得意な声を生かせる曲で一歩を踏み出したわけです。
一方で、同じ曲のラップには時間をかけています。
聴くことはあっても、自分で歌う経験は少なく、どんな形を正解にすればいいのかを探りながら録ったそうです。
デビュー作から、高く伸ばす歌と、言葉をリズムに乗せる歌では、本人の手応えが違っていました。

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歌の土台として挙げていたのは、高校時代の合唱の経験です。
2018年の取材では、それまでボイストレーニングを受けたことはないとも話しています。
これは当時までの話ですが、デビュー前から音楽に親しみ、声を合わせる楽しさを知っていたことは、その後の活動を理解する手がかりになります。
最初からすべての歌が得意だったわけではなく、持っている声と未経験の表現を一曲の中で組み合わせていたのです。
2020年の「Over」では、キーを下げずに声の圧を探した
「NEW WORLD」での出しやすさとは対照的なのが、2020年の「Over」です。
曲の音域は普段より高く、デモからキーを下げる案もありました。
それでも内田は、その高さで歌うこと自体を新しい挑戦として引き受けています。
ロックも、もともと本人が得意だと思っていた分野ではありませんでした。
好んでいたのはEDMやR&Bで、プロデューサーからロックも聴きたいと言われ、それらを組み合わせるところから音楽活動が始まっています。
5枚目のシングルとなる「Over」では、『あひるの空』の、挫折しても好きなバスケットボールへ向かう姿に重ね、ロックへ改めて挑もうとしたのでした。
苦労したのは、高い音を出すことと、曲が求める力強さを同時に成立させることでした。
普段は声を柔らかく響かせ、音をほどくように歌うことが多かったのに対し、この曲では声の圧を集め、まっすぐ届けるイメージを選びます。
息をつく場所も少なく、本人は息切れしながらの収録だったと明かしています。
狙った響きの形にこだわりすぎると、高い声が出なくなってしまう。
求める勢いと、実際に歌いきれる状態の間を探るのが難しかったそうです。
曲を自分の得意な範囲へ近づける案がありながら、今回は自分のほうから曲の要求へ近づいていった。
「Over」での挑戦は、高音の記録というより、声の勢いをどう作るかという試行錯誤でした。
2021年、力を抜いて見つけた「Spin a Roulette」の表情
翌2021年の「Spin a Roulette」では、力の向け方が変わります。
クールな曲調をどう自分の歌にするか、旋律と言葉の合わせ方を細かく考えても、なかなかイメージが定まりませんでした。
特に時間がかかったのは、サビの繊細な裏声です。
いろいろ試して行き詰まったとき、ふと力を抜いて歌ったら、求めていたニュアンスが出てきたといいます。
悩みが頭を巡っていても、最後は勝負に踏み出すという曲の内容も、気負いすぎず、少し余裕を持って歌う感覚とつながりました。
「Over」で声の圧を集めた歌手が、今度は力を抜くことで曲に合う表情へたどり着いたのです。
「Congrats!!」に残した響きと、翌年に取り戻した「Joyful」
2022年の「Congrats!!」では、デビュー時の声の個性を改めて見つめています。
ファンや友人から「NEW WORLD」のサビで長く伸ばす声が印象的だと言われることが多く、その抜けの良さを新しい曲にも生かそうとしたのです。
自分がメインで歌う部分を中心にしながら、友人たちのソロも入れる歌割りを、プロデューサーと話し合って決めました。
この作品の候補にありながら見送った別の曲が、後の「Joyful」でした。
好きな曲だからこそ、歌えないまま手放す気にはなれず、いつか収録したいとスタッフと話していたそうです。
そして2023年には、別のタイトルの曲として採用されました。
本人が『Y』の取材で強調していたのは、その年のライブツアーで客席と重ねてきた時間です。
つらいことも持ち寄り、楽しさへと変えていくという思いを「Joyful」に込めています。
録音のキーや発声をどう調整したかは明かされていませんが、曲へ戻ったとき、そこには新たに歌詞へ託したい経験がありました。
「NEW WORLD」の声を残す「Congrats!!」と、以前は歌えなかった「Joyful」。
この二つには、得意な個性を大切にする選択と、まだ届かなかった表現へ戻る選択が、それぞれ表れています。
2023年の「iDea」は、パワーを伝える歌から力を抜く歌へ
2021年には裏声の表情を探す中で力を抜いた内田が、同じ『Y』に収められた「iDea」では、曲全体をくつろいだ雰囲気で歌うことに挑みます。
内田は、それまで力やエネルギーを伝える歌い方の曲が多かったのに対し、今回はリラックスした自然な歌として響くように取り組んだと話しています。
デモの仮歌は女性の声でした。
それを自分が歌ったらどうなるのか、最初は想像できず、男性のキーにしてどうアプローチするかを考えながら録音しています。
音を強く押し出す方向で挑んだ「Over」とは違い、くつろいだ雰囲気を自分の声で成立させることが課題になったのです。

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『Y』では、自分の弱さを歌に含める姿勢も変わっています。
以前は後ろ向きな面をあまり見せたくなかったのに、悩んでいる自分も伝えたほうが、これまでの前向きな音楽の意味まで届くのではないかと考えるようになった。
自ら作詞・作曲した「旅路」には、その思いを込めたそうです。
自分の言葉を書くことには、どう思われるだろうという恥ずかしさもありました。
それでも、弱い自分が壁にぶつかりながら踏み出したからこそ、音楽を聴いてくれる人と出会えた。
その感謝を伝えたかったといいます。
人を励ます側にも迷いや弱さがあることを歌へ含め、明るさの背後まで見せようとしていました。
「ハートエイク」では、心情を起点に歌を組み立てた
2025年に発表された「ハートエイク」は、バルーンこと須田景凪が手がけた曲です。
二人が初めて会った録音は、2024年の夏ごろ。
内田にとっては、歌詞の物語をどう解釈するかを話し合いながら、歌を作る経験になりました。
これまでは、子音をもっと際立たせるなど、技術の面から指示を受けることが多かった。
今回は須田が感情の部分を大切にしてくれて、普段の芝居に近い考え方で取り組めたと内田は話しています。
須田も、内田が心情から演じるように歌い、感情やニュアンスへの指示をすぐに反映してくれたと振り返っています。
具体的な変化として須田が挙げたのは、音を出してから音程を少し下げる歌い方でした。
須田の歌ったデモにはなかった表現を、内田は加えていたのです。
それを須田は、歌詞の意味をよく考えて歌ってくれた結果だと受け止めました。
言葉の形だけを整えるのではなく、心情の解釈から細かな歌い回しが生まれていました。
内田が歌に重ねたのは、失ったものへの思いを出し切り、これからへ進むために整理していくという解釈です。
前向きな歌を届ける姿勢は続いていますが、その前向きさの中に、弱さや痛みまで含めるようになっています。
明るい曲を選んで始まった歌が、複雑な気持ちを抱えたまま前へ向かう歌へと広がったのです。
高い声が自然に出ることは、どんな曲もすぐに歌えることを意味していませんでした。
「Joyful」をいったん見送り、裏声のニュアンスに行き詰まり、女性の仮歌から自分の歌を想像できずに考える。
そうした場面を経ながら、内田は、声の勢いを増す方法も力を抜く方法も、自分の選択肢にしてきました。
自分なら何を歌えるかに加え、その歌の主人公は何を感じているか。
「ハートエイク」での録音は、デビュー時に望んでいた表現の広がりを、歌い回しの細部にも示しています。
高音や裏声を具体的にどう使い分けているのかは、内田雄馬の歌い方で、曲ごとの本人の選択を掘り下げています。







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