こやまたくや(ヤバイTシャツ屋さん)の歌い方|ありぼぼとの二声で、言葉はどう届くのか

ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくや こやまたくや(ヤバイTシャツ屋さん)

ヤバイTシャツ屋さんの曲をこやまたくや一人の声で説明しようとすると、肝心な部分が抜ける。
こやまの言葉を前へ押し出す声に、しばたありぼぼの高い声が重なり、ときには彼女の声がその言葉の意味まで変えるからだ。
低い声と高い声の組み合わせというだけではない。
二人が同じ言葉をどう受け渡し、どう違う発音でリズムに入れ、誰の声で言えば曲が成立するのかを、具体的な曲と本人たちの証言から考える。

こやまの言葉に、別の高さの声が必要だった

こやまは音楽ナタリーの結成を振り返る取材で、しばたありぼぼを誘った理由を、仲がよく、女性のいる編成が目を引くことに加え、自分の曲に高い声を欲しかったのだろうと語った。
しばたはベースを弾きながら歌い、もりもりもともドラムとコーラスを担う。
高い声は完成した曲の飾りではなく、バンドを組む時点からこやまの構想に入っていた。

2016年の「無線LANばり便利」は、通信の便利さという軽い題材を、大きなロックの曲に変えた初期の代表曲だ。
こやまの歌詞をこやまだけで閉じず、しばたの声も並ぶのがこのバンドの基本形になる。
二人の声を比べるときは、こやまの最高音だけでなく、言葉をもう一つの声へ渡す余地が曲にあるかを見る必要がある。

例えば「無線LANばり便利」の終盤について、2016年の取材では、サビにラップが重なる構成が話題になっている。
旋律を聴かせる声と、言葉を細かく運ぶ声を同時に置けるのが、二声の強みだ。
もりもとも、間奏の掛け声はライブで観客が拳を上げて参加できるように考えたと話している。
一方が歌い終わるのを待つだけでなく、重なる場所や客席が入る場所まで含めて声を配置している。

ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくや
映画について話す取材で撮影されたこやまたくや。
写真出典:音楽ナタリーの映画取材

「Bluetooth Love」を録り直してまでキーを上げた理由

高い声を求める選択は、2021年発表の「Bluetooth Love」でいっそうはっきりした。
こやまは音楽ナタリーの取材で、いったん録音を終えたあとでキーが低いと感じ、曲を丸ごと録り直したと話す。
バンド内では、しばたの声は高いほどよいという考えになっていた。
この録音は2020年発売のアルバム『You need the Tank-top』の曲より先で、同作の曲も高めのキーにするきっかけになったという。

これは「高い声が出るから高くした」という単純な話ではない。
完成した録音を捨てる手間をかけてでも、二人の声、とりわけしばたの高い声が生きる位置を選んだ。
こやま自身も二度と録り直したくないと笑っている。
キーは歌いやすさだけで決める数字ではなく、この二声をどう並べたいかという制作上の判断だった。

「泡 Our Music」で分かる、二人の発音の違い

2020年の「泡 Our Music」は、細かな言葉をリズムへ入れるとき、二人の違いが障害にも個性にもなることを示した。
本人たちは取材で、歌詞の言葉が多く、譜割りも複雑だと話す。
こやまは自分の英語がカタカナ発音になるため、少し変わったリズムにも言葉を収められると説明した。
対して、帰国子女のしばたは英語の発音がきちんとしており、特定の英語の一節に時間がかかったという。

こやまの言う「歌うときの癖」は、単に早口が得意という意味ではない。
意味を伝える言葉と、曲の中で打楽器のように刻む音の間を行き来する、本人固有の発音とタイミングだ。
同じ歌詞を二人へ割り振っても、同じ手触りにはならない。

こやまは、自分に馴染んだ歌い癖を他の人へ伝えることの難しさも話している。
英語が流暢ならどんな譜割りも簡単になる、という関係ではない。
発音の習慣によって、一つの言葉をどこまで短くまとめ、どの音を目立たせるかが変わるからだ。
二人の歌を合わせる作業には、高さを揃える以外にも、言葉が拍へ収まる感覚を共有する難しさがある。

ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくや
取材写真に登場したこやまたくや。
写真出典:音楽ナタリーの映画取材

誰が歌うかで、言葉の刺さり方が変わる

二声の使い分けは、音楽的な難しさだけの話ではない。
「インターネットだいすきマン」について、こやまは、しばたがあの声で歌うことで、強い言い回しも大丈夫そうに聞こえると説明した。
同じ文章でも、どんな声が口にするかで、冗談として受け取れる距離が変わるということだ。
作詞した本人が全部歌うより、別の声に任せることで成立する言葉がある。

この曲では、普段はドラムを叩くもりもとも歌に参加した。
本人は、曲が面白くかわいいことはわかっていても、自分の中でどう受け止めて表現するかに時間がかかると話している。
声の担当を増やせばすぐに完成するわけではない。
こやまの考えた可笑しさを、それぞれが自分の声で言える形まで消化する必要があった。

「hurray」で主旋律とハモりを固定しなかった理由

2023年の「hurray」は、テレビドラマの合唱曲として書き下ろされた。
しばたは、男女で主旋律とハモりを行き来する箇所が多く、キーの高さも難しいと説明する。
こやまも自分たちで歌うのが難しい曲だと認めた。
片方が常に主役、もう片方が常に伴奏という分担ではなく、曲が進む途中で二つの声の役が入れ替わる。
しばたの声に合わせてキーを上げた「Bluetooth Love」と違い、ここでは二人の役を固定しないこと自体が歌の難しさになった。

実際、合唱曲として制作する途中には、声が高いという理由で一度曲が戻ってきたとしばたは振り返る。
こやまも、自分たちの女性ボーカルの声は特別に高いと応じた。
このバンドで成立する高さが、そのまま別の歌い手にも合うとは限らない。
二人の組み合わせに合わせた曲であることが、外の人へ渡したときに改めて見えた。

ステージでは、自分に聞こえる音も変えた

録音で決めた声をライブで届けるには、歌い手自身がどんな音を聞くかも関わる。
こやまは2019年のツアーから、耳に装着して演奏を確認するイヤモニを導入した。
それまではアンプから直接出る音にこだわっていたが、試すと歌う負担がかなり減り、もっと早く使えばよかったと感じたという。

一方で、外したときの音の気持ちよさも残っており、使い方は模索中だと話していた。
歌の強さを上げる工夫には、喉から出す音量を増やす以外に、自分が演奏を聞く条件を整える方法もある。
複雑な言葉を刻み、もう一人と声を重ねるこのバンドにとって、本人が歌いやすいと感じる環境を作ることは、曲を再現する土台になる。

こやまが必要とした高い声は、「Bluetooth Love」では録り直すほど大切な曲の条件になり、「泡 Our Music」では発音の違いと譜割りの難しさを生み、「hurray」では主旋律とハモりを交換する相手になった。
こやまの最高音だけを追うと、この選択は見えにくい。
同じ言葉でも二人のどちらが引き受けるかによって、曲の作り方が変わる。
この二声で歌える内容がどう広がったかは、こやまたくやの歌唱変遷でたどった。

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