2022年、「ブロードキャストパレード」の録音で、叶は強く緊張していました。
普段は歌わない明るい曲に挑み、歌をどう作るかも学んでいく時期でした。
その後も、高い音が続く難しさや、曲の感情をどう表すかという迷いは残ります。
一方で、落ち着いて歌える環境や、歌う前の準備には、自分なりの方法を見つけていきました。
にじさんじで配信活動を行う叶が、曲を理解し、自分の表現へ近づけていく過程をたどります。
「アイ」のMV(2026年公開/『藍』収録)。
デビュー作の録音中にも、歌いたい形が見えてきた
2022年7月のメジャーデビュー作『flores』では、「ブロードキャストパレード」を最初にレコーディングしました。
普段は歌わない明るい曲に取り組み、多くの人がいる現場で、叶は緊張して硬くなっていました。
支えになったのが、サウンドプロデューサーの和賀裕希でした。
叶が音楽について意見をうまく言えないときも、和賀はそれを察し、提案の理由まで説明してくれたといいます。
曲の意図や聴きやすさを一つずつ学ぶことで、同じミニアルバムの中でも、後に録った曲ほど表現しやすくなっていきました。
「ブロードキャストパレード」(2022年)のリリックビデオ。
その変化が具体的に表れたのが、最後に収録した「モラトリアム」です。
この頃には現場にも慣れ、どう歌いたいかという気持ちが形になっていました。
それまでに録った4曲の経験があり、気持ちを乗せやすかったと振り返っています。
最初の作品を完成させる過程そのものが、歌のイメージを固める練習にもなっていたのです。
『flores』(2022年)収録「モラトリアム」のリリックビデオ。
落ち着いて歌える環境を作るようになる
2023年にデビュー後を振り返った叶は、初めの頃は練習の進め方も、感情の作り方も、歌う姿勢も手探りだったと説明しています。
さまざまな人に助言を求める中で、歌うことに一つの決まりはないと気づきました。
そこから、できるだけリラックスできる環境を意識するようになります。
収録前に戸惑うことも、以前ほどはなくなったといいます。
和賀がスタジオにいることにも安心を感じていました。
普段から会話を重ねる関係が、自分らしく歌うための支えになっていたのです。
曲を理解することに加え、歌に向かいやすい状態を整えることも、準備の一部になっていきました。

画像出典:画像掲載元
高い音を出す難しさから、その音に何を込めるかへ
慣れてきたからといって、どの曲も楽に歌えるようになったわけではありません。
2023年8月のシングル「How Much I Love You」では、高い音が続くことに苦労しました。
本人にとっては、音の高低差があるほうが歌いやすく、デビュー作の録音を思い出すほどだったといいます。
「How Much I Love You」のMV(2023年公開)。
同じシングルに収録された「minority」では、音の高さだけでは整理できない課題がありました。
高い音でも、元気に歌うのか、悔しそうに歌うのかで前後のニュアンスが大きく変わります。
気分が高まるような流れにも、歌詞には投げやりな雰囲気があり、その両方をどう表すかに悩んだのです。
できそうな表現がいくつもあったからこその迷いだったと叶は話しています。
ディレクションを受け、気持ちの上下があっても、曲の中で統一感を保つ表現を探りました。
初期の戸惑いがなくなったというより、選べる歌い方が増えたことで、別の難しさに向き合うようになったと捉えられます。
「minority」のMV(2023年公開)。
「Tailwind」では、歌う前に物語を組み立てる
2023年11月の「Tailwind」は、アニメ『オーバーテイク!』のオープニング主題歌です。
初めてのアニメタイアップに、叶は喜びとともにプレッシャーも感じていました。
制作の初めに知っていたのは、作品の概要や登場人物など、限られた情報でした。
レースそのものの競い合いなのか、レーサー同士の関係なのか。
努力や壁を乗り越える話なのかと考え、曲が届いたことで、ようやくイメージが見えてきたといいます。
そこで叶が思い描いたのは、努力を重ねる人が、小さな場所から大きな舞台へ進む物語の幕開けでした。
そのイメージで歌い、完成したオープニング映像を見たとき、自分の表現でよかったと感じています。
制作陣には、自分の得意な曲や好きな音楽を知ってくれているという安心感もありました。
曲を受け取り、その音楽にどんな情景を重ねて歌うかを考える。
ここでは、作品全体を思い描くことも、歌う準備に含まれていました。
「Tailwind」(2023年)の公式フル音源。

画像出典:リスアニ!
「アイ」では、準備した歌を現場でさらに詰める
2026年2月のアルバム『藍』に収録された「アイ」では、叶は好きだったサビを特によく練習して録音に臨みました。
作者の佐伯youthKら制作陣は、難しいと考えていた部分を初めから歌えていたと振り返っています。
技術的な課題を先に越えていたため、当日は解釈やニュアンスを合わせる作業が中心になりました。
本人は、録音までに時間を取ってもらえたことも、その準備につながったと話しています。
ただ慣れただけでなく、好きな箇所を繰り返し歌い、現場で表現を詰められる状態にしていたのです。
長く制作に携わる和賀は、2026年には歌に重みが乗り、かっこいい歌を歌う人だと感じるようになったと語っています。
叶の歩みには、教わりながら曲を理解する段階から、表現の選択肢を考え、準備して録音に向かう段階への変化があります。
難しさをなくすのではなく、どこを練習し、どこを制作陣と相談するかが具体的になっていったのでしょう。
「アイ」で母音を短く区切る歌い方や、デュエットで相手の歌に合わせる工夫は、叶の歌い方で取り上げています。

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