林瑠奈の歌を考えるとき、手掛かりになるのは、強い声をどこで使うかという選択です。
サビへ向けて勢いを育てる。
一緒に歌う相手の声を聴く。
芝居の中では、人物の気持ちをそのまま歌へ運ぶ。
乃木坂46の録音やライブ、ミュージカルでの取り組みから、歌い方の中身を見ていきましょう。
サビを、最初から同じ強さで歌わない
「甘いエビデンス」の録音で林が教わったのは、サビの強さを三段階で上げる歌い方でした。
勢いのある伴奏に対して、声にも強弱や抑揚をつけなければ、後ろの音に埋もれてしまうと感じていたそうです。
ただ大きく歌うのではなく、一つのサビの中に上がり方を作る。
声の強さを、曲を進めるために配分しているのです。
「ここにはないもの」でも、サビへ向かって気持ちの勢いが高まるよう意識していました。
Aメロから雰囲気が変わり、強弱のはっきりするBメロを、次の場面へつなぐものとして捉えています。
その一音だけを力強く出すことに加え、前後の流れの中でどれだけ強くするかを考える。
この抑揚の組み立てが、歌を支えています。
一緒に歌う声を聴いて、自分の歌を作る
「甘いエビデンス」では、伊藤理々杏、中村麗乃と一緒に録音したと話しています。
二人の歌声が好きだった林は、AメロとBメロの歌割りで、その声の音量を上げて聴きながら歌ったそうです。
自分のパートを覚えて、あとは一人で完成させるという作業ではありません。
録音の時点から、隣にある声を受け取りながら自分の歌を作っていました。
ここには、声の強さを配分する話とは別の視点があります。
一人の声を前へ出すことと、複数の声で曲を届けることは、同じ作業ではありません。
サビの盛り上げ方を考えながら、歌割りの中では相手の声にも耳を向ける。
林の録音への向き合い方には、その両方が見えます。
好きな歌い手を想像しながら、自分の声へなじませる

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『乃木坂スター誕生!』で一人で歌うときには、最初から最後まで歌の質を保つ必要がありました。
林は好きなミュージシャンやアイドルの歌を聴き、その人ならどう歌うだろうかと想像して取り組んだといいます。
他の人の歌い方を取り入れるうちに、自分の声や歌い方が定まり、自分らしさとの釣り合いも取れるようになったそうです。
好みの表現を実際に試すことが、自分の歌を探す方法になっていました。
歌を聴くときの好みにも、声の捉え方が表れています。
2024年の質問への回答では、最初はメロディーに引かれ、何度か聴いてから歌詞を読むことが多いと話していました。
一度では言葉を聴き取れないような、洋楽を聴くときの心地よさに近い歌い方も好きなのだそうです。
言葉の意味に心が動くことと、声やメロディーの響きに先に引き込まれること。
林は、歌を聴く際のこの二つの入口を持っています。
歌詞をはっきり説明するような表現だけが、本人の好む歌ではないのです。
ただし、これは聴き手としての好みです。
林がすべての曲で言葉を曖昧に歌っている、という意味ではありません。
ライブのフェイクは、歌を届ける気持ちと結びついている
2022年のアンダーライブで「私のために誰かのために」を歌った際には、最後のサビで初めてフェイクに挑戦しました。
フェイクは、メロディーに装飾や変化を加える歌い回しです。
林にとってこの曲は、伊藤純奈、伊藤かりん、久保史緒里らの印象が強く、任されたことへの重圧もある曲でした。
それでも毎公演、観客へ届けようという気持ちで向き合ったと振り返っています。
このライブに向け、林は届け方そのものも考えていました。
見た人に受け止め方を委ねるだけでなく、ステージの上で自分たちが感じていることを、客席と共有したい。
同じ空気を感じてもらう公演にしたいという思いです。
歌の中で気持ちを強く出すとき、その先にいる観客まで意識していたことが分かります。
声を出したところで終わりにせず、何を受け取ってほしいのかを考える。
その意識があると、歌の山場も、歌い手が技術を見せるだけの場所ではなくなります。
林が語ったのは、舞台の熱を客席まで運ぶという、具体的な相手のいる表現でした。
歌いながら動く、一つのステージとして完成させる
林はアンダーライブを、自分のやりたい表現を試す場と捉えています。
歌を重点的に見せる回、ダンスを重点的に見せる回がある中で、2025年には両方を実現できたと感じる曲がありました。
どちらにもよい手応えが残ったことに、満足感を覚えたといいます。
本人が評価しているのは、声だけの出来栄えではなく、ステージ上での一曲です。
歌とダンスを一緒に成立させることへ目を向けています。
ライブでは、その関係にも林の表現の選択が表れます。
ミュージカルでは、歌の前から声の役割が始まっている
ミュージカル『民王』で演じた南真衣には、大学生であり起業家でもあるという顔があります。
林は、相手によって見せる面を変え、事業を成功させている人物として説得力が出るよう、声の調子や振る舞いにも気を配ったと話しています。
役の声を決める際には、どんな人物が誰に向かって話しているのかが関わっていました。
さらに苦心したのが、芝居から歌へ移るときの感情のつながりです。
この作品で求められたのは、音楽の中でも役の気持ちを続けることでした。
物語の中で自然に歌が始まることも、歌唱の課題だったのです。
林は以前から、曲ごとの表現力を自分の武器として磨きたいと話していました。
歌うことが好きで、ボイスレッスンを受けても、上達を目指す。
その姿勢が表れるのが、録音での強弱や、舞台での声の選び方です。
一つの得意な歌い方を、すべての曲に当てはめようとしているわけではありません。
林瑠奈の歌い方には、曲の先を見ながら声を使う意識があります。
今の声を、次のサビへ、仲間の歌へ、役の次の感情へつなぐ。
力強さを生かす場所を選びながら、一曲全体を届けようとしています。
こうした考え方が育った道のりは、林瑠奈の歌唱変遷でたどっています。







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