和田唱の声には、ロックバンドの大きな音の中でも、柔らかく人へ近づくような魅力があります。
けれど、その甘さを、いつも弱く歌うことだと考えると、曲ごとの違いを見落とします。
声を張れる高さを選ぶこと、裏声を交えること、歌でリズムを動かすこと。
具体的な曲と制作の話から、和田が声をどう働かせているのかを見ていきましょう。
甘い歌声と、歪んだギターを組み合わせる
「if」について和田は、柔らかな曲にギターの歪みが加わる、その釣り合いが好きだと話しています。
声も楽器も一緒に優しくすることだけが、甘い歌の作り方ではありません。
伴奏に硬さがあれば、旋律の柔らかさも、それとの対比で伝わります。
ここを分けて考えると、バンド全体の迫力と、歌声そのものの質感を混同せずに聴けます。
ギターが激しくなる場面で、歌まで同じように荒らしているのか。
それとも、声の滑らかさを残すことで、楽器と違う役割を受け持っているのか。
和田の歌を聴くときは、その関係が一つの手がかりになります。
「Yes-No」では、下げたキーでも声を張りたい
2022年9月、オフコースの「Yes-No」をギター一本でカバーした際、和田はキーを下げると説明しました。
小田和正の声は高く、そのまま歌うのは難しい。
ただ、低くしすぎると曲の雰囲気が出ないため、自分なりに声を張って歌える形を選ぼうとしたのです。
この話で面白いのは、歌いやすさだけで高さを決めていないことです。
原曲のキーに合わせることより、自分の声で曲の勢いを出せる高さを探す。
和田にとってキーを変えるのは、表情を薄める作業ではなく、張りのある歌へ近づくための調整でもありました。
同じ月に歌ったオリビア・ニュートン・ジョンの「Hopelessly Devoted to You」でも、声の高さを理由にキーを下げています。
本人が選んだのはDでした。
好きな原曲への思いを大切にしながら、実際に歌う声の条件に合わせて、自分の形へ移す姿勢が見えます。
「Monster」は、声の周りの音も作り直す
嵐の「Monster」をカバーしたときには、ギターの弦を1音下げることから始めました。
低く、暗い感じになるその響きを選び、アコースティックギター一本で自分なりに歌おうとしています。
原曲の大きな編成を一人で再現するよりも、手元の楽器と声で、曲の雰囲気を作る選択です。
「Yes-No」で考えた歌うキーと、ここで変えたギターの調弦は、同じ説明ではありません。
前者は自分の声の張り方、後者は伴奏の低い響きに関する話です。
歌の表情を知るには、声そのものの選択と、その声を包む音の選択を、両方見る必要があります。
「いま」で交える裏声は、柔らかな表情の一部
一方、2025年10月9日の公演で披露した新曲「いま」は、ファルセットを交えた柔らかな歌声で伝えられました。
自分へ問いかけるような内容を、親しみやすい旋律と繊細なギターで届けた曲です。
その日の歌唱では、強く押し出す声だけに頼らない表情が、曲全体の印象を支えていました。
「Yes-No」で話した、声を張りたいという選択と、この柔らかな歌唱は矛盾しません。
張りを持たせたほうが曲の気分が伝わる場面もあれば、軽い響きへ移ることで、言葉との距離が近づく場面もある。
和田の甘い声は、一つの強さに固定された声というより、曲の中で力の出し方を変えられる声として捉えられます。
声の質感だけでなく、歌が作るリズムを聴く

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初ソロ作『地球 東京 僕の部屋』を聴いたKは、声をリズムとして使うところに注目しています。
岸谷香が挙げたのも、歌の粘るようなグルーヴでした。
和田の声が心地よい理由には、甘い音色に加えて、言葉や旋律の動きが体を揺らすことも含まれているのです。
「Rock Music」では、繰り返す一つのコードの中で、どう覚えやすい旋律を作るかを考えたと和田は説明しています。
切なさを帯びる短調のメロディを、ブルース風のギターのリフに合わせることで、ポップに届く組み合わせを狙いました。
楽器のフレーズをなぞるだけではない歌が、反復の中に別の表情を持ち込んでいます。
初ソロ作については、NegiccoのMeguは、隣で語りかけられるような優しい歌声を魅力に挙げました。
歌がリズムを作ることと、聴き手を近くに感じさせることは、別々の長所ではありません。
言葉を届ける声が、そのまま音楽を動かしているというつながりがあります。
「Raspberry」では、伴奏を引くと歌う人が増える
2019年9月の中津川で歌った「Raspberry」では、ルーパーに音を重ね、伴奏を増やしていきました。
ところが、最後のサビでは、その繰り返す音をすべて切ります。
残ったのは和田のギターと、観客の歌声でした。
音を引くことで、観客も歌の担い手になる。
この場面には、自分の声だけで埋めず、会場の声を生かす歌手としての判断が表れています。
一人で重ねる声が、歌の周囲に広がる
『BIRDMAN』では、4つのコーラスのパートを2回ずつ歌い、計8回分の声を左右へ配置する作り方も採っています。
一つの声を大きくするのとは違い、別々に歌った声が重なることで、響きの豊かさを作る方法です。
ここで聴き分けたいのは、真ん中で言葉を伝える歌と、その周囲にある声です。
録音全体が厚く感じられても、主旋律の一声だけが、ずっと強く発声しているとは限りません。
和田の歌の豪華さには、自分の声を何度も歌い分け、組み合わせる仕事も含まれています。
「Boy」の2コーラス目のサビでは、エンジニアの兼重哲哉の提案で歌い回しを変えました。
重ねる声だけでなく、主旋律の一部分も、伝わり方を考えて選び直しています。
自然に聞こえる歌にも、選び直す時間がある
和田は2005年の時点でも、録音では思い描いたとおりに歌うことがいつも難しい、と答えています。
すっと歌っているように届く声と、本人が求める表現へたどり着くまでの作業は、分けて考えたいところです。
「Yes-No」では高さを調整し、「いま」では柔らかな響きを交え、「Boy」では一部の歌い回しを選び直す。
それぞれの場面で共通するのは、自分らしい声を出せたら完成、とはしていないことです。
その曲の気分や言葉が伝わるかどうかを、声の選び方まで含めて考えています。
和田唱の歌の魅力は、甘い声を持っているという一点だけでは説明できません。
声を張る高さ、柔らかく響かせる場面、リズムを動かす歌い回し、ほかの声と重なる場所。
そうした選択があるから、親しみやすい声に、ロックの勢いや曲ごとの表情が宿るのです。
バンドとソロで、歌う役割をどう広げてきたのかは、和田唱の歌唱変遷でたどっています。







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