エイリーは、よく通る高音で注目を集めながら、その得意技を前面に出さない曲にも挑んできました。
変わってきたのは、歌唱力をどう証明するかということ以上に、その声でどんな自分を見せたいかという選択です。
初期の「Heaven」、高音を減らした「Room Shaker」、そして2025年の『(Me)moir』。
それぞれの制作で本人が語ったことをたどると、期待される歌と、自分の好きな歌との距離を少しずつ縮めてきた歩みが見えてきます。
「Heaven」で始まった、聴かせる力と一緒に歌える親しさ

画像出典:画像掲載元
デビュー前のエイリーは、マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストン、アリシア・キーズの曲を歌い、動画を公開していました。
2012年には、この三人はそれぞれ違ったスタイルを持つから、皆好きだと話しています。
大きな声を出す一つの型より、異なる個性に惹かれていたことが、当時の言葉からうかがえます。
2012年、エイリーは韓国で「Heaven」を発表しました。
実は、当初のデビュー曲候補は別にあり、本人が自分に合うと感じた「Heaven」を推したことで選曲が動いています。
特に好きだったのは、観客も一緒に歌えるサビでした。
声の能力を見せるだけでなく、聴く人と歌を共有できることが、出発点から大事だったのです。
2013年の日本デビューでは、同じ曲に新しい編曲が施されました。
本人は韓国版をビートの強い曲、日本版を柔らかな伴奏に力強い歌声が重なる曲と説明しています。
同じ題名でも、声を取り巻く音の性格は違う。
この二つを比べるときは、声が一年で急変したと考える前に、歌を置く環境そのものが変わったことを押さえたいところです。
その柔らかな日本盤に続き、2014年には「U&I」の日本語版を発表しました。
今度は、堂々とした女性を歌うダンス曲です。
本人が伝えたかったのは、ミディアムバラードとは違う自分の姿でした。
静かな曲を卒業して強くなったのではなく、もともと持つ異なる表情を順に届けた、と捉えるほうが当時の考えに近いでしょう。
U&I――日本語版トレーラー(2014年)
『VIVID』と「Home」で、自分の好みを作品の中心へ
2015年のアルバム『VIVID』では、自作曲「Insane」について、デビュー前から親しんでいた種類の音楽だと語っています。
華やかな歌唱で知られるようになった後も、本人の中にはR&Bへの強い好みがありました。
以前から好きだった音楽も、既に知られる歌手像の中へ加わっていきました。
その思いがさらに表れたのが、2016年の『A New Empire』です。
本人は、それまでの曲では強い歌声や強い言葉が目立っていたのに対し、この作品では感傷的な曲が増えたと説明しました。
「Home」にはユン・ミレが参加し、エイリーはこの曲に彼女のラップが合うと考えて共演を求めています。
張りのある歌声を同じ仕方で押し出し続けるのではなく、別の声やリズムと組み合わせながら、寂しさを表す方向へ進んだのです。
一方、2017年のドラマ『トッケビ』の挿入歌「I Will Go to You Like the First Snow」では、強い歌声が物語の悲しみを担います。
作曲チームのロコベリーが求められたのは、大切な人が消えてしまう場面に合う、痛切で美しい曲でした。
叙情的な前奏と、登場人物の号泣に対応する大きなサビの旋律を組み合わせたと説明しています。
2019年、得意な高音を減らした「Room Shaker」
『butterFLY』の「Room Shaker」で、エイリーは高音の見せ場を多くしない方針を選びました。
歌唱力は既に認めてもらえているからこそ、同じ見せ方の繰り返しを避け、一つ一つの言葉を魅力的に届けたかったのです。
本人は歌と難しい振付を両立させる準備も説明しています。
高音が少ないことを、出せなくなった証拠と読むのは、この制作意図を取り落とします。

画像出典:画像掲載元
翌2020年1月の「I AM:RE-BORN」ソウル公演では、ダンス曲からバラードまで幅広い曲を歌っています。
公演で本人が語ったのは、他人が求める外見に合わせて苦しむより、自分が健康で幸せに歌えることの大切さでした。
新しい表現を試す歩みの横には、どんな状態で舞台に立ち続けたいかという、自分自身への問いもありました。
2020年の「Blue Bird」で、飾らない歌い方に挑む
ドラマ『スタートアップ:夢の扉』の挿入歌「Blue Bird」では、過度に装飾せず、落ち着いて繊細に歌うことを意識したと述べています。
夢へ向かう若者を支える曲に対し、声を華やかに動かすことより、希望を感じる言葉を届けることを選びました。
本人にとっても、普段の自分とは違う歌唱を試す経験だったのです。
ただし、この時期を境に強い高音を捨てたわけではありません。
同年の『I'm』の表題曲「When We Were in Love」は、別れた後の後悔を描き、大きな高音と抑制された悲しみを組み合わせた曲として紹介されました。
近い時期に、飾らず支える歌と、大きく感情を広げる歌が並んでいる。
この並行関係こそ、声の変化を一本の線で説明できない理由です。
『AMY』から英語アルバムへ、表現する言葉も広げる
2021年の『AMY』では、「Don't Teach Me」でスウィングの華やかさを取り入れました。
ラビやファン・ヒョンが制作に加わり、ブラスと重なるコーラスを使ったビッグバンド風の音楽に、エイリーの歌が置かれています。
本人も表題曲を含む8曲の作詞に参加しました。
歌を渡されて声で完成させるだけでなく、どんな言葉を歌うかにも関わる作品です。
2022年の『I'm Lovin' Amy』には、新曲「Murder on the Dance Floor」と、先行する三作品の収録曲を英語で歌った11曲が入りました。
韓国語で届けた作品を、別の言語でも歌い直す取り組みです。
英語版の存在だけで声の技術が変わったとは言えませんが、表現の場を一つの言語に固定しなかったことは分かります。
『(Me)moir』で見つめ直した、自分も楽しめる音楽
2025年の『(Me)moir』について、エイリーはデビュー前から好きだったポップやR&Bに戻る感覚を語りました。
目指したのは、気軽に聴けて、ゆとりを感じられる音楽です。
新人の頃には、やりたい音楽は名前が広まってから、と言われた経験も明かしています。
この背景を知ると、ゆとりのある方向を選ぶことも、本人が待っていた挑戦だったと分かります。
制作では、Pdoggが自分の新しい面を見つけてくれることにも期待していました。
「MMI」を聴くと、すぐに仮歌を録りたいと申し出たそうです。
R&Bを歌うこと自体は「Insane」の頃にもありましたが、今度は作品全体を、自分らしく楽しめる方向へ揃えていく。
長年の好みを持ち続けることと、その好みを前面に出せることには、時間差があったのです。
同年の取材では、これまで聴き手に喜んでもらう音楽を考えてきた一方、今後は自分が楽しめる音楽も作りたいと話しました。
ただ、好きな音楽を選ぶことが、力強さを封印することを意味するわけではありません。
同年に公開した「Golden」のカバーも、本人がその歌を好きだと感じて選んだものです。
他の歌手との勝ち負けより、それぞれのスタイルで歌う楽しさを大切にしていました。
エイリーの歩みでは、強く歌う力は残りながら、その力を使う場面が増えています。
高音を減らして言葉を見せる曲も、装飾を抑えて希望を伝える曲も、自分の好みに戻る作品もある。
その違いを曲単位で掘り下げたのが、エイリーの歌い方の記事です。
変わり続けてきたのは、「すごく歌える人」という期待に応える方法と、その期待の中で自分の好きな声を選ぶ自由なのです。

こちらの記事もおすすめ

曲の人物や言葉、舞台の動きに応じたエイリーの声の選択を掘り下げます。

声の変化への戸惑い、Iでのソロデビュー、INVUへの確信、Letter To Myselfの自然な語り方から、その時々の声で何を伝えてきたのかをたどります。

「My Love Is Your Love」の録音中、共同制作者のワイクリフ・ジョンは作業を止め、そう伝え…



コメント