昔のハモリの熱量が、今の自分の歌と合わなくなった。
2026年、来夢は、過去の曲を録り直した理由をそう説明していた。
歌い続けるうちに、録音に残っていた声と、現在の歌との間にずれが生まれる。
その変化の手前には、別の歌い手から自分の曲の歌い方を受け取った経験もあった。
共演と再録を手がかりに、キズの歌い手が表現を選び直してきた過程をたどりたい。
「黒い雨(2026 ver.)」のレーベル提供音源(2026年8月5日配信)。
2021年からの「一撃」、自分の曲に別の歌い方を知る
来夢は、2017年に始動したキズのヴォーカルとギターを担当している。
バンドの四周年企画として始まった「一撃」は、ゲストのヴォーカリストと向き合って歌う企画だった。
2022年のBARKSの取材で、来夢は、歌そのものに注目されるようになったのは「一撃」からだと話している。
それまでは、キズとして表現することに力を注いできた。
自分の歌を前に出すことには、初めは恥ずかしさもあったという。
企画の出発点は、MUCCの逹瑯と歌ってみたいという、ファンとしての気持ちだった。
好きな歌い手へ声をかけ、自分の曲を一緒に歌ってもらう。
逹瑯と来夢が「銃声」を歌う、キズ公式企画「一撃」の映像(2021年公開)。
そのやり取りを、来夢は「スパーリング」に近いと表現していた。
相手へ自分の限界を超えて届け、返ってきたものを、さらに超えようとする。
自分で書いた曲なのに、こんな歌い方もあるのかと学んだという。
一人で作った曲の中に、別の歌い手が知っている歌い方がある。
「一撃」は、来夢自身も、その可能性を受け取る場になっていた。

画像出典:画像掲載元
2022年、バンドの外で歌う機会
自分の歌が注目され始めた時期には、バンドの外からの誘いもあった。
2022年、複数の歌い手が一つのバンドをバックに登場する「VOCAL SUMMIT」への初出演が決まる。
出演を控えた中島卓偉との対談では、メンバーがいない寂しさと、楽しみにする気持ちの両方を話していた。
一人で歌う機会は、それまであまりなかった。
緊張を予想しながらも、キズのヴォーカリストとして恥じない姿で出たいと考えていたのだ。
バンドの世界を背負いながら、歌い手個人としてほかの声と並ぶ場が増えていく。
同じ対談では、他人の歌い方に向ける視線も語っている。
声の出し方を研究したくなるという卓偉に対し、来夢は、相手をすごいと感じても、自分には同じことはできないと考えるほうだった。
卓偉についても、言葉の鋭さや、何に向き合っているのかという姿勢に関心を寄せていた。
自作曲の別の歌い方を知ることと、相手の声をそのまま身につけることは違う。
共演者から受け取ったものを、来夢は自分の歌や立ち方へ持ち帰っていたと考えられる。
2023年、10代から歌う「夢」で味わった楽しさ
共演は、ライヴの場でも続いていく。
2023年6月28日、恵比寿LIQUIDROOMで行われたfuzzy knotとの2マンでは、田澤孝介を迎えて「夢」を歌った。
二人は、それ以前に「一撃」でも同曲を歌っている。
田澤孝介と来夢が「夢」を歌う、キズ公式企画「一撃」の映像(2022年公開)。
本文で触れる2023年の恵比寿LIQUIDROOM公演とは別の収録です。
終演後、来夢は、10代から歌ってきた「夢」を、初めてかもしれないほど楽しく歌えたと振り返っている。
長く歌う曲にも、相手と声を交わすことで新しい手応えが生まれていた。

画像出典:びじゅなび
2024年、客席の反応を受け止め直す
曲を受け取る相手への見方にも、変化があった。
2024年の取材で来夢は、自分の痛みを歌った曲で観客が楽しんでいると、昔は伝わっていないように感じ、嫌だった時期があると振り返っている。
今は、その痛みを楽しさへ変えてくれているのだと受け止め、むしろ自分が支えられていると話した。
自分が込めた感情と、客席で生まれる感情が、同じ形になるとは限らない。
来夢は、歌った先に返ってくる反応を、曲が別の形で生きることとして捉え直していた。
共演者との間で起きた歌のやり取りに加え、客席との関係も、歌を続ける力になっている。
2025年、自分の歌をどう評価するか
歌の出来をどこで見定めるか、という問いも生まれていた。
2025年のBARKSの取材で、来夢は、3月2日の日比谷野外大音楽堂公演を万全ではなかったと振り返っている。
取材者には、そのようには感じられなかったという。
来夢は、日頃のトレーニングによって、自分の最低ラインが底上げされていたのかもしれないと話した。
同時に、自分の評価と聴き手の受け取り方が違うことから、ライヴの自己評価をやめようかとも考えていた。
うまくいかない、伝わっていないと自分では思うこともある。
それでも、聴き手を楽しませるため、最大限の力を出し尽くそうと考えるようになっていた。
2026年、今の歌から過去の音源を見直す
2026年8月5日、キズはアルバム『極楽より極上の雨』を発表した。
過去曲の再録も含まれ、「黒い雨」には「2026 ver.」という表記が付いている。
2019年に発表した曲を、改めて作品にしたものだ。
「黒い雨」の原曲公式ミュージックビデオ(2019年公開)。
2026年8月のローチケの取材では、再録に向かった理由が語られている。
ライヴを重ねるうち、昔の録音のハモリの熱量が、自分の歌と合わなくなってきたという。
過去の音源に対して、現在の歌が基準になる。
音数も昔より減らし、いらないものを取り除いた結果、曲はとてもシンプルになったと説明していた。
見直したのは、歌のテイクに加え、その声と一緒に鳴る音だった。
以前の重ね方を保つことより、今の歌と合うまとまりを選ぶ。
再録は、現在の歌を基準に、声を取り巻く音まで整え直す作業でもあった。

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同じアルバムの新曲「2943」では、歌にする自分の姿も変わっている。
来夢は、曲を書いていたとき、今の自分の弱さを出してもファンは離れないだろうという信頼があったと話した。
以前は見せられなかった部分を、歌へ入れられるようになっていた。
「2943」――『極楽より極上の雨』収録の権利者提供音源(2026年)。
音楽と人の取材で弱さを指摘されると、本人は、そこまで弱さを出したつもりはなく、素直な自分が出たと思っていたと答えている。
強さをどう見せるかに加えて、飾らない自分を相手へ渡せることも、歌の表現になってきた。
この信頼の変化からは、歌で伝えられる自分が広がったことが読み取れる。
共演で、自分の曲の別の歌い方を知る。
長年歌う曲から、新しい楽しさを受け取る。
その現在地で、作品に残す声の組み合わせも選び直す。
来夢の変遷は、歌い続ける中で変わる曲との関係を、録音にも映していく歩みとして見えてくる。
荒々しさと繊細さ、深みのある呼びかけなど、声の表情は、来夢の歌い方で取り上げている。







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