同じ旋律を、少なくとも3回歌う。
その上に、別のハーモニーも重ねる。
トビアス・フォージが説明した録音の方法には、一人の歌声を、複数の声として組み合わせる発想がある。
何を重ね、別の歌手の声とはどう響きを合わせるのか。
本人の録音談と共演の例から、Ghostの歌の作り方を見ていきたい。
「Dance Macabre」の公式ミュージックビデオ(2018年公開)。
「Dance Macabre」、同じ旋律とハーモニーを別々に重ねる
2018年のLoudwireの取材では、同じ旋律を少なくとも3回歌い、さらに一つ、二つ、ときにはそれ以上のハーモニーを加えると説明している。
同じ音の流れを複数回歌うことと、違う音で和声を作ることを組み合わせる方法だ。
同じ旋律を重ねる場合、歌い直すたびに生まれるわずかな違いも、まとまった響きの一部になる。
一方、ハーモニーは、主旋律とは異なる高さの音を加え、和音としての色を作る。
フォージが説明している厚みには、この二つの作業が含まれている。
話のきっかけは、Carpenter Brutによる「Dance Macabre」のリミックスだった。
違う歌のテイクを渡したのかと聞かれたフォージは、それを否定している。
「Dance Macabre」のCarpenter Brutリミックス公式音源(2018年公開)。
リミックスでは、新しい和音の流れに合うように、音を調整したり、ハーモニーの一部を外したりしたのだろう、と推測していた。
本人の説明からは、声を重ねることと、伴奏に合わせてその組み合わせを選ぶことの両方が見えてくる。
歌ってみて合わない母音は、言葉から考え直す
声を重ねる前に、一つの旋律を歌いやすく、聞かせやすい形にする作業もある。
2022年、Full Metal Jackieの取材で、フォージは、紙の上では詩としてよく見えた歌詞も、実際に歌うとうまく響かない場合があると話している。
母音などが合わず、録音の直前になって言葉を書き直したり、フレーズを言い換えたりすることがあるという。
母音は、声を伸ばしている間にも聞こえ続ける音だ。
そのため、何を意味する言葉かに加え、旋律の上でどんな響きになるかが、歌の仕上がりに関わる。
フォージの話では、発音する側が工夫するだけでなく、歌う言葉そのものも調整の対象になっている。
ただし、響きのよい言葉なら何度でも使えばよい、とは考えていない。
本人は、同じ韻や言い回しを繰り返さず、新しい言葉を探したいという意識も語っていた。
英語が第二言語である自分にとって、歌いやすさと表現の新しさを両立させるのは、簡単な作業ではないという。
メロディを優先して言葉を崩すことも、文章の見栄えだけを優先することもせず、歌ったときの形へ整える。
Ghostの歌で滑らかに聞こえる一節の背後には、こうした言葉の選び直しもある。
重ねる声の数だけでなく、重ねる前の一つのフレーズがどう作られているかにも注目したい。

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フレーズとハーモニーに残る、聴いてきた歌の影響
声の組み立て方には、本人が聴いてきた音楽も関わっている。
2019年のThe Metal Voiceの取材で、フォージは、Bad Religionからハーモニーやフレーズの歌い方に影響を受けたと話した。
トーリ・エイモスをたくさん聴いてまねたことや、最もまねた歌手としてデヴィッド・ギルモアを挙げたことも、同じ取材で語られている。
声の手本は、一つの歌手像に限られていなかった。
ハーモニーを付ける感覚と、旋律の中で言葉をどう歌うか。
フォージ自身は、その両方について、聴いてきた歌とのつながりを認めている。
「Spillways」、違う声なのに一緒に響く共演
2022年の『Impera』収録曲「Spillways」には、翌2023年、デフ・レパードのジョー・エリオットを迎えた版が生まれた。
「Spillways」の公式ミュージックビデオ(2022年公開)。
NMEの取材でフォージは、エリオットの歌が、自分の歌とはとても違うものを加えながら、それでもなじんでいたと話している。
同時に、二人の声が似ていたことにも驚いたという。
エリオットも、元の曲を直す必要はなかったと語った。
旋律を変えるつもりで参加したわけではない。
二人の声を聞き分けられないという反応も、本人は褒め言葉として受け取っていた。
同じ旋律を歌いながら、元の声との相性を生かす。
ここでの共演は、別の歌手の個性を前へ押し出すだけでなく、すでにある曲の響きに入り込む試みでもあった。
ジョー・エリオット参加版「Spillways」の公式リリックビデオ(2023年公開)。
旋律そのものを大きく変えず、別の人が歌うことで、一曲に新しい声の表情が加わる。
フォージの録音談とこの共演を合わせると、Ghostの声は、歌い手の声質と、複数の声をどう合わせるかの両方から考えられる。
舞台では、動きながら歌えるフレーズへ整える
一方、スタジオで仕上げた歌を、そのままの条件で舞台へ持ち出せるわけではない。
2019年のThe Metal Voiceの取材を紹介したAlternative Nationの記事には、舞台で息が足りなくなり、フレーズの歌い方を考え直すことがあったという、フォージの発言が記されている。
録音で歌うことと、跳び回ったり大きな舞台を動き回ったりしながら歌うことは違う、という説明だ。
歌い出してから終わるまでの一まとまりを、どこで区切り、どう運ぶか。
彼にとってフレージングは、聴いてきた歌手の影響だけでなく、実際の舞台で歌を続けるためにも考えるものだった。
録音での言葉の選び直しと、ライブでの歌い回しの調整には、それぞれ違う必要性がある。
演出に使うマスクも、歌うときの条件の一つになる。
2026年にMetal Hammerが伝えたGlobal Newsでの本人の説明では、従来の顔全体を覆うマスクは、舞台で顔を動かして歌う際の制約になっていた。
半面のマスクになったことで、その点の自由が増したと語っている。
見た目の変化は、本人にとって歌う動作のしやすさにも関わっていたのである。
自分の声を、Ghostの歌に合う形で使う
2020年のUnder The Rockiesの取材でも、フォージは、自分の声をまだ探していると話していた。
当時までに700回近くの公演を重ね、ギターを弾く夜より歌う夜のほうが多くなったことで、歌い手として上達してきたという説明だった。
自分を万能な歌手として語るより、Ghostを歌う仕事の中でできることを増やしてきた人だと捉えられる。
同じ旋律を重ね、違う音のハーモニーを足し、歌ったときの母音や言葉を選び直す。
そして舞台では、身体の動きや演出の条件の中でフレーズを成立させる。
フォージの歌い方は、一つの声質だけで完成するものではなく、その声を曲と公演へ合わせていく具体的な作業から生まれている。
仮歌から自分の声で歌うことを引き受け、歌える幅を広げてきた過程は、トビアス・フォージの歌唱変遷でたどっている。

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