CHiCOさんの歌声は、デビューから現在までに確かに変わっています。
ただし、その変化は「高音が強くなった」「声量が増えた」という一直線の成長ではありません。
最初は制作陣から細かな方向を受け取り、曲に合う声を探す新人でした。
やがて多くの物語を歌い分ける語り部になり、ソロ活動では借りる役のない状態で、自分自身の声を探します。
2025年の再始動後は、昔の歌い方へ戻ったのではありません。
表現を足すことと引くことの両方を知った歌手が、自分の意思でもう一度物語を語り始めています。
2014年、「世界は恋に落ちている」は教えられながら作った声だった

CHiCOさんは2013年のオーディションを経て、CHiCO with HoneyWorksのボーカルに選ばれました。
翌2014年、「世界は恋に落ちている」でデビューします。
この時点で現在の完成された歌い分けがあったわけではありません。
本人にとって本格的なレコーディングは初めてで、コーラスまで含めた収録には約12時間かかりました。
制作陣から細かな指示を受け、少しかすれた声も試しながら曲の主人公へ近づいています。
デビュー曲の透明感は、生まれたままの声を置いただけのものではなかったのです。
きれいに歌うことと、物語の人物らしく歌うことの違いを、最初の録音から学んでいました。
この初期を知ると、後年の変化を「声が別人になった」とは捉えにくくなります。
もともとCHiCOさんの活動は、自分の決まった歌い方を守ることより、曲に必要な声を探すことから始まっていたからです。
2015年から、受け取った指示が「物語を読む力」へ変わった
「アイのシナリオ」「プライド革命」と作品が続く頃、CHiCOさんはライブも録音も経験を重ねました。
本人は、デビュー時にはすべてが初めてだった一方、活動を続ける中で、どんな声が曲に合うのかを以前より深く考えるようになったと話しています。
ここで増えたのは、単に強い高音ではありません。
物語を前へ進める緊張感、登場人物の迷い、サビで感情が解放される瞬間など、声に担当させる役割が細かくなりました。
アニメ主題歌には、短い時間で人物や物語へ引き込む力が求められます。
デビュー当初に一つずつ教えられた表現が、作品を読んで自分から選ぶ材料へ変わり始めた時期です。
2018年前後、かわいい声と強い声が同じ歌手の中で並び始めた

2018年には「ノスタルジックレインフォール」や「私、アイドル宣言」など、異なる表情の曲が並びました。
日本武道館公演を含む大きなライブを経験し、楽曲の世界も聴き手の幅も広がっていきます。
この頃を振り返るファンの記録では、透明感のあるバラードと力強いロックの落差が魅力として繰り返し語られています。
それは「昔より太い声になった」という一方向の変化ではありません。
一人の歌手の中で、かわいさ、切なさ、勢いを別々に見せられるようになった変化です。
声色が増えると、歌手本人の輪郭が薄くなるようにも思えます。
しかしCHiCOさんの場合は、人物を演じ分ける行為そのものが個性になりました。
どの曲でも同じ声だから分かるのではなく、どの人物にも本気で入り込むからCHiCOさんだと分かる段階へ進んだのです。
2020年から2022年、経験が「自分には複数の声がある」という自覚になった
「決戦スピリット」の制作では、高いフレーズを裏声系で歌うか、地声感を残すかを話し合い、一番と二番の印象まで考えて選んでいます。
初期のように指示を再現するだけでなく、曲の場面に対して声の候補を比べられるようになっていました。
さらにアルバム制作では、民謡的な節回し、巻き舌、力を抜いた歌、クールな表現などにも取り組みます。
本人も、自分の中に多くの声や歌い方があると気づいた時期でした。
活動年数が長くなると、得意な型へ固まる歌手もいます。
CHiCOさんは逆に、チコハニらしい明るさを保ちながら、その内側で選択肢を増やしました。
CHiCOさんの現在の発声と声色を詳しく見ると、高音を地声かミックスかの一語で固定できない理由が分かります。
この時期の変化は、出せる音の高さより、同じ高さを何通りに使うかに表れています。
2023年の休止とソロは、歌声から「主人公」を一度外す転機だった
2023年4月、CHiCO with HoneyWorksは一時活動を休止しました。
CHiCOさんは、約8年の活動を経て歌手としてさらに成長したいと考え、ソロプロジェクトへ進みます。
ユニットでは、楽曲ごとに主人公がいます。
CHiCOさんは物語を届ける語り部として、その人物に必要な感情を声へ足してきました。
ソロではその仕組みが使えず、「自分は何を伝えたいのか」を自分の側から決めなければなりません。
本人はソロを通じて、自分の足りないところが見えたとも語っています。
役に合わせて表現を大きくするのではなく、等身大の言葉として届くよう、歌い方を引いていく試みも始まりました。
これはチコハニ時代を否定する変化ではありません。
主人公を演じる技術を持つ人が、役を外した時に何が残るのかを確かめる期間でした。
歌声の変遷で最も大きな転機は、音域ではなく「誰の言葉として歌うか」が変わったことです。
2025年の再始動は、デビュー時の声への回帰ではない
CHiCO with HoneyWorksは2025年に再始動しました。
再始動曲にはデビュー期を思わせる青春のきらめきもありますが、歌う側の立場は2014年と同じではありません。
かつては制作陣の言葉を受け取り、求められる声を懸命に形にしました。
ソロを経た現在は、自分として歌う難しさも知ったうえで、物語を語るモードを選び直しています。
同じ明るい高音が聞こえても、その意味は変わりました。
教えられた声から始まり、人物を演じる声を増やし、自分の声を探すために表現を引き、再び自分の意思で表現を足しています。
LiSAさんの歌声の変遷にも、作品の役割が広がるほど歌手本人の選択が増える過程があります。
ただしCHiCOさんの物語では、ユニット休止とソロという明確な往復が、歌い方の意味を見えやすくしました。
CHiCOの歌声で変わったもの、変わらず残ったもの
変わったのは、声の主導権です。
デビュー時は与えられた方向を形にし、経験とともに曲ごとの声を自分で選び、ソロでは歌う理由まで自分の側から探すようになりました。
一方で、変わらず残っているのは、曲の外から歌唱力を見せつけない姿勢です。
高音や声色は、本人を大きく見せるためではなく、物語を聴き手へ渡すために使われてきました。
昔と現在を比べるなら、声の太さだけを競わせる必要はありません。
2014年の「世界は恋に落ちている」と、ソロの「光のありか」、再始動後の曲を並べると、歌の中で誰が話しているのかという距離が違います。
Aimerさんの歌声の変化が、固有の声質を守りながら表現の届く範囲を広げた物語だとすれば、CHiCOさんは役を着て、脱ぎ、もう一度自分で着ることで歌手としての輪郭を深めました。
CHiCOさんの進化は、ひとつの完成形へ近づくことではなく、誰の言葉でも歌える人が「今は誰として歌うか」を選べるようになったことです。
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