Crystal Kayさんの歌が日本語でも自然にR&Bとして聞こえる理由は、英語の発音が上手いからだけではありません。
大きいのは、ひとつの言葉の中にも細かな拍を感じ、声の立ち上がりや伸ばし方までリズムとして扱っていることです。
本人はロックの8ビートを歌った時でさえ、つい32分音符の細かさで捉えてしまうと話しています。
派手なフェイクを後から足す以前に、歌の時間が最初から細かく区切られているのです。
この記事では、自然なハスキーさ、英語と日本語、太い高音、ミュージカル経験がどうつながっているのかを整理します。
「R&Bっぽく歌おう」と形だけ真似する前に、Crystal Kayさんの歌が何を大切にしているのかを見ていきましょう。
R&Bらしさは英語の飾りではなく、言葉の内側にある
日本語の曲をR&B風に歌おうとすると、英単語を強く発音したり、語尾を揺らしたりしたくなります。
しかし、Crystal Kayさんが初期から試してきたのは、もっと歌の土台に近い部分でした。
本人は、バッキングボーカルを何層にも重ね、ランと呼ばれる細かな音の動きや、当時のJ-POPでは目立たなかった技法を録音へ持ち込んだと振り返っています。
英語の割合を増やしたことも、その実験のひとつでした。
重要なのは、英語を入れたからR&Bになったのではないことです。
主旋律の後ろにも声の流れを作り、一音をまっすぐ置くだけで終わらせない発想そのものが、曲をR&Bへ近づけています。
これは、久保田利伸さんのR&Bにある立体的なリズムとも通じる考え方です。
ただし、同じ技法を使えば同じ声になるわけではありません。
Crystal Kayさんの場合は、次に見る自然な声質と、多言語の感覚がその細かな動きをひとつにまとめています。
「8ビートを32分音符で取る」という告白が歌い方を説明する
カバーアルバムでロック曲に挑んだ際、本人はエイトビートが苦手だと明かしました。
拍を大きく取るより、つい32分音符で細かく感じてしまうため、原曲の疾走感を残しながらメロディーを聴かせる落としどころに時間がかかったそうです。
この話は、歌唱力を「高い音が出る」「声量がある」だけで測れないことを教えてくれます。
一般の人が一拍として通り過ぎる場所にも、本人には声を置ける小さな区画がいくつもあるのでしょう。
フェイクも、その区画を埋める装飾ではありません。
どこを少し前へ出し、どこを待ち、どこをあえて真っすぐ歌うかを選んだ結果として聞こえます。
本人がカバー制作の最後にたどり着いたのは、「素直に歌うのが一番」という結論でした。
細かく感じられるからこそ、すべてを細かく歌わず、曲に必要な動きだけを残せるのです。
ハスキーな声は作るものではなく、使い分ける出発点

ボイストレーナーの解説では、Crystal Kayさんは自然なハスキー声を隠さず、語りかけるような音色へ生かす歌手と評価されています。
別の個人レビューでは、初期の透明感や、起伏の少ない旋律でも退屈させない点が強みとして挙げられていました。
一見すると「ハスキー」と「透明感」は反対の特徴です。
けれども、声に少しざらつきがあることと、音程や言葉の輪郭が濁ることは同じではありません。
Crystal Kayさんの面白さは、声質を消して均一にするのでも、常に荒くして個性を強調するのでもないところにあります。
自然な話し声に近い親密さを残しながら、必要な場面では声を遠くまで届けます。
したがって、表面のかすれだけを真似するのはおすすめできません。
息を漏らして声を弱くすることと、本人の自然な音色を使いながら言葉を保つことは別だからです。
日本語の旋律と欧米型のボーカルを、どちらも手放さない
本人は自分の曲を、日本的で旋律を大切にする一方、歌唱はR&Bや欧米音楽から強い影響を受けていると説明しています。
日本語と英語が混ざることも、どちらかを薄める妥協ではなく、独自性の一部です。
ここで英語の子音だけに注目すると、本質を見失います。
英語は子音の種類が多くリズムを作りやすいものの、日本語の母音を平らに伸ばす場面でも、声の入り方と抜き方は選べます。
「恋におちたら」の再録は、その両方を考える材料です。
よく知られた日本語の旋律を壊さず、現在の声で歌い直すことに本人は強い緊張があったと語っています。
新しい技巧を見せるより、聴き手の記憶にある曲へ今の自分をどう重ねるかが課題だったのです。
宇多田ヒカルさんの歌い方にも、日本語の中へR&Bの時間感覚を持ち込む面白さがあります。
二人を比べる時は英語の巧さを競わせるより、一語をどれだけ細かく動かすか、逆にどこを動かさず残すかを見ると違いが分かりやすくなります。
太い高音は、地声かミックスかの一語では説明しきれない
Crystal Kayさんは共演者の録音で、高い音を地声のまま押すのではなく、ミックスへ切り替え、発音も明瞭にしすぎない案を伝えたことがあります。
この助言から分かるのは、本人が音の高さ、声の厚み、言葉の輪郭を別々に調整していることです。
高音をすべて地声、すべてミックスボイスと決めると、曲ごとの違いが見えません。
強く聞かせたい時も、実際には声区だけでなく、子音を立てる量、母音を長く保つ時間、音量を上げる場所が変わります。
だから太い高音を参考にする際も、同じ音色を力で再現しようとしない方が安全です。
まず見るべきなのは、高い音へ入る直前から大声になっていないか、言葉を一文字ずつ重くしすぎていないかです。
MISIAさんの太い高音と比べても、声量だけでは説明できないことが分かります。
高音の印象は、声の生まれつきの質と、曲のリズム、言葉の扱いが組み合わさって決まります。
ミュージカルで増えたのは、きれいさより「届く距離」

ミュージカルへ出演した本人は、ポップスやR&Bとは発声がまったく違うと話しています。
クラシカルでストレートな声を求められ、舞台後のライブでは声のパワーが増し、自分の曲でも強弱を以前より意識するようになりました。
別の場では、ミュージカルは「上手く、きれいに歌う」ことが目的ではないとも説明しています。
最後列の観客まで、台詞と歌詞の感情を届けなければならないからです。
この経験は、R&Bらしい細かな動きと正反対に見えます。
実際には、近くで話すような声と、遠くへ投げる声の両方を選べるようになったことで、歌の距離感が広がったのでしょう。
真似するならフェイクの形より、動かさない音を選ぶ感覚
Crystal Kayさんを参考にする時、最初にフェイクの音数を数える必要はありません。
むしろ二曲を比べ、語尾を動かす場所と、まっすぐ残す場所を探す方が歌の考え方へ近づけます。
「R&Bだから全部揺らす」「英語だから子音を強くする」と決めると、曲のメロディーより歌い方の型が前へ出ます。
本人がカバーで苦労したように、得意な細かさをあえて抑え、原曲に合う場所を探すことも表現です。
Crystal Kayさんの歌が日本語でもR&Bになるのは、技法を大量に足すからではありません。
自然なハスキー声、多言語の感覚、細かな拍を感じる力を持ちながら、曲ごとに何を使わないかまで選んでいるからです。
歌唱力を見る時も、最高音や声量だけでなく、一語の中で時間がどう動いているかに注目してください。
派手な高音の手前にある小さな選択が、Crystal Kayさんの声を「歌が上手い」だけでは終わらないものにしています。
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