M!LKの楽曲「かすかに、君だった。」
2023年の再録では、吉田仁人が受け持つDメロのソロが、裏声から地声に替わっています。
ライブで続けていた歌い方が、音源にも残されたのです。
その後のソロ曲「オレンジ」では、静かな歌の内側に高い熱量を込めました。
同じ曲を歌い直す時にも、自分で曲を作る時にも、声で何を伝えるかを選び直している。
吉田の言葉から、その過程をたどります。
『Jewel』初回限定盤Bに収録された、2023年の再録版音源。
2019年、予想よりしっとりした夏の曲に出会う
オリジナル版が発表されたのは、2019年7月です。
当時の取材で吉田は、夏がテーマと聞き、もっとお祭りのようににぎやかな曲を想像していたと話しています。
届いた曲は意外にしっとりしていて、驚きから始まったそうです。
それでも、メンバー全員の声が入ると、等身大の仕上がりになった。
同世代の人に寄り添える一曲になった、と受け止めていました。
後に地声で歌い直すDメロも、もとはそんな夏の曲の中に置かれていたソロでした。
2019年版と2023年版では、その場所で選ぶ声が変わっています。
2019年に発表されたオリジナル版のミュージックビデオ。
歌を覚えるところから、2021年の新しい録音へ
吉田の出発点にはダンスがあり、歌や演技は初心者として始めたものでした。
2021年の取材では、研究生の頃、慣れない環境の中で自信をつけるため、歌や芝居を早く覚えようとしていたと振り返っています。
上達が遅くても、続けていれば少しずつ成長できると考えていました。
一方、伸び悩んだ時には、経験がまだ少ない自分を少し許し、進む速度を緩めるようにもしたといいます。
急いで身につけたい気持ちと、長く表現を続けるための気持ちの持ち方。
両方を探ってきたことが分かります。
同年の「energy」では、グループとして録音の表現も広げています。
候補の中から、あえてM!LKらしくないと感じた曲を選び、オートチューンで歌声を変化させる試みにも取り組みました。
吉田は、制作で受けた刺激を自分たちの色にして、ライブへ持っていきたいと話しています。
自分の歌を磨くことに加え、録音で声をどう聞かせるかにも、新しい選択肢が加わっていました。
「energy」(2021年)のミュージックビデオ。

画像出典:タウンワークマガジン
ライブの地声を、2023年の再録に残す
2023年のアルバム『Jewel』初回限定盤Bには、過去の曲を録り直したDisc-2が付いています。
2019年のこの曲も、その中の一曲でした。
吉田が「Emo!miu」の取材で挙げたのが、Dメロを地声で歌ったことです。
もとは裏声だったパートを地声で歌うよう求められ、ライブで使っていた歌い方を収録しました。
そのまま地声で進めてほしいと言われ、もう引き返せないという気持ちだったことも、笑いを交えて話しています。
ライブで試していた選択を、録音でも採用する。
再録は、その時の吉田の歌い方を残す機会になっていました。
別の取材でも本人は、このDメロの歌い方やニュアンスの変化に注目してほしいと話しました。
過去の音源を知る人が、同じパートで今の選択に出会える。
本人にとっても、それが聴きどころだったのです。
個人のnoteに書かれたアルバム感想には、近年のライブで吉田がこの部分を地声で歌い切る姿に触れた記述もあります。
筆者が面白いと感じたのは、歌と伴奏が互いを巻き込むように勢いを増すことでした。
声を替える楽しさが、曲の流れの中でも受け取られていたことを伝える、一人の聴き手の見方です。
一つのソロだけでなく、重ねる声も録り直していた
『Jewel』の録音で吉田が担ったのは、Dメロの歌い直しだけではありません。
本人によると、何曲かはメンバーに手伝ってもらいながら、ハモリもほとんど自分で録っていました。
高いハモリ、低いハモリ、言葉を持たないコーラスなど、声の種類も多かったといいます。
次のパートをその場で覚えて録っていくため、なかなか終わりが見えない感覚もあったそうです。
目立つ一節の声を変える一方で、何層にも重なる歌の背景も作っていた。
再録を含むアルバム全体の仕事として見ると、吉田が担う声の役割の多さも見えてきます。
2024年の取材では、高音パートを任されることが多く、感情が強く動く場面だからこそ、歌詞の意味を考えて表現すると話しています。
どの高さが出るかに加え、そのパートでどんな感情を受け持つか。
本人の関心は、声を置く場面にも向いていました。
「オレンジ」で、静かな歌に熱を込める
2025年のソロEP『さえない暮らし』では、自分で曲を書く立場でも歌に向き合っています。
「オレンジ」は、かつて抱いていた夢と今との差を、自分との対話として描いた曲でした。
本人は、その思いをフィクションに落とし込んでいると説明しています。
この曲で選んだのは、淡々と静かに歌いながら、内側の熱量は高く保つ歌い方です。
何かをしたいけれど、どうすればよいかまだ分からない。
そんな、何かが生まれる前の人の状態を歌にしています。
声を大きく動かさなくても、内側には動き出したい気持ちがあるのです。
「オレンジ」(2025年)の音源。
EPを聴いた「ぱんだ」のnoteは、淡々とした曲調に話し言葉や感嘆が混じることで、景色だけでなく、考えていることも伝わってくると捉えています。
静けさの中に、誰かの思考や揺れを感じる。
本人が語った高い熱量は、こうした聴き方とも響き合います。

画像出典:画像掲載元
ライブで使っていた地声を再録に残すことと、静かなソロ曲に熱を込めること。
その間には、重ねる声も含めて、曲ごとに自分の役割を引き受けてきた歩みがあります。
吉田仁人は、強く聞かせる場面にも、淡々と歌う場面にも、届けたい感情を探しています。
息を多めに交える歌い方や、表情を変えて声色を作る工夫は、吉田仁人(M!LK)の歌い方で取り上げています。

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