松本かれんさんの歌声は、力強いロングトーンや難しいフェイクで押してくるタイプではありません。
一度聴けば誰の声か分かる甘い声と、話しかけるような短いフレーズで、7人の曲に小さな物語を作ります。
本人は子どものころ、その声を「アニメみたい」と言われ、好きになれなかった時期がありました。
それがアイドルになると、ファンから褒められ、自分でも「マカロンボイス」と名乗るようになります。
ここがおもしろいところです。
松本さんは、個性的な声を一般的な歌声へ直したから評価されたのではありません。
そのままではコンプレックスだった声に、曲の中で必要とされる場所ができたことで、歌手としての武器へ変わりました。
「マカロンボイス」は、かわいい声の別名ではない
「マカロンボイス」という呼び名は、声楽上の技術名ではありません。
息の量や声区を一語で説明する言葉でもなく、松本さんの声をファンと本人が一緒に受け入れるために生まれた名前です。
子どものころにからかわれた声は、本人だけで抱えている間は欠点に見えました。
ところがステージに立つと、同じ声が「すぐに分かる」「かわいい」「また聴きたい」と返されます。
声質そのものが急に変わったのではありません。
誰かが価値を見つけ、本人がその言葉を受け取ったことで、声の意味が変わりました。
FRUITS ZIPPERが掲げる「NEW KAWAII」は、欠点を隠して理想像へ近づく考え方ではありません。
丸い頬も、幼く聞こえる声も、ほかの人と違うからこそ新しい魅力になり得るという考え方です。
松本さんの歌声は、その方針を最も分かりやすく音にした存在だと言えます。

ピアノを弾けても、歌は最初から得意だったわけではない
松本さんには、幼いころからピアノを学び、学生時代には吹奏楽部でドラムを担当した経験があります。
音楽系の学校でピアノを専攻していたため、リズムや音楽そのものには長く親しんできました。
ただし、それを「だから最初から歌唱力が高かった」と短く結ぶことはできません。
FRUITS ZIPPERに入るまで本格的な歌とダンスの経験はなく、初めての歌唱レッスンでは、できない自分を見せることが恥ずかしかったと振り返っています。
楽器は、音を出すための手順を目で確認できます。
歌は、自分の体そのものが楽器です。
うまくいかない時も外から原因が見えにくく、人前で声を出すこと自体が怖くなります。
その壁を越えられたのは、最初から器用だったからではありません。
できなくても一度試してみることを教えられ、泣きながらでもレッスンへ戻ったからです。
現在の柔らかな歌声の下には、音楽経験よりも「苦手なまま人前へ出た時間」があります。
7人の中で一秒で見つかる声は、それだけで強い
グループ歌唱では、全員が同じように上手く歌えばよいわけではありません。
声が似すぎると、歌割りが変わっても景色が変わらず、7人で歌う意味が薄くなります。
松本さんの声は、短い一言でも人物が立ち上がります。
甘く、少し幼く、会話に近い距離で届くため、前後に別のメンバーが入るとコントラストが生まれます。
これは大声で目立つこととは違います。
高音を長く伸ばさなくても、声の輪郭が固有なら、数秒で曲の場面を変えられます。
FRUITS ZIPPERの楽曲には、歌とセリフの中間のような箇所や、客席とのやり取りを想定した箇所が多くあります。
松本さんの声は、そこに置かれた時に説明なしでキャラクターを作れます。
歌唱力を最高音と声量だけで測ると見えにくい、グループ歌唱ならではの強さです。
セリフのような一節で、曲と客席をつないでいる
「わたしの一番かわいいところ」は、完成形が見えない状態から始まった曲でした。
メンバーが受け取ったデモ音源は加工された男性の声で、誰がどこを歌うかも決まっていなかったといいます。
そこで重要になったのが、メロディーを正確に歌うことだけでなく、短い言葉を誰の人格として届けるかでした。
松本さんの甘い声は、曲の途中に小さな登場人物を作り、聴き手へ直接話しかけるような働きをします。
この特徴は、ライブでさらに分かりやすくなりました。
しゃがんで観客とやり取りするソロ部分が注目され、やがて「すーぱーかれんたいむ」と呼ばれるようになります。
最初から会社が決めた必殺技ではありません。
本人が客席へ近づき、ファンがその瞬間へ名前をつけ、次のライブで待たれる名物になりました。
マカロンボイスと同じく、歌い手だけで完成させず、受け手の反応によって価値が育った表現です。

甘い声を強く見せるのは、無理に太くしないこと
松本さんの声を「細いから弱い」と考えると、その役割を取り違えます。
太い声のメンバーと同じ音圧を目指すより、甘い声のまま言葉を立てる方が、グループの中では存在感が増します。
本人も、最初のレッスンでは歌えないことを恥ずかしく感じていました。
そこから得たのは、別人のような強い声ではなく、自分の声で最後まで参加する力です。
高い声を出す時も、地声を重く押し上げて個性を消す必要はありません。
声の太さと歌の強さは同じではなく、息漏れ声と芯のある声の違いのように、小さな音量でも言葉の中心を保つ方法があります。
松本さんの歌を参考にするなら、声色をコピーするより、自分の声が曲のどこで最も分かりやすく届くかを考える方が本質に近いでしょう。
PiKiでは「7人の中で目立つ声」だけでは足りなくなった
2025年に始動したPiKiは、松本さんと桜庭遥花さんによる2人組です。
7人の中で短い一節を担当する時とは違い、声を隠せる場所がほとんどありません。
レコーディングでは、歌割りが決まる前に2人が全パートを歌いました。
自分の得意な一言だけを完成させるのではなく、一曲のどこを任されても成立させたうえで、2人の表現を比べる作り方です。
この経験によって、マカロンボイスは単なるグループ内のアクセントではなくなりました。
甘い声を保ったまま、曲の最初から最後まで流れを支え、もう一人の声との距離を作る必要が生まれたからです。
個性的な声は、人数が減るほどごまかしが利きません。
PiKiは松本さんにとって、持っている声を変える仕事ではなく、その声で受け持てる範囲を広げる仕事になっています。
「歌が上手いか」より、「その声がないと成立するか」
松本かれんさんの歌唱を、一般的な上手さの物差しだけで見ると、評価が二つに割れやすくなります。
太い高音や圧倒的な声量を基準にすれば、パワー型の歌手には見えません。
しかし、7人の声が行き交う曲で、数秒だけで人物を作り、客席との合図を生み、2人組では一曲を支えるところまで役割を広げてきました。
その声を別の誰かへ置き換えた時、曲の色が大きく変わるなら、すでに歌手として強い個性があります。
コンプレックスだった声を消さず、「マカロンボイス」と名づけ、楽曲とライブの中で居場所を増やした。
松本さんの歌唱力のおもしろさは、完璧な声を手に入れたことではなく、自分の声が必要とされる状況を育ててきたことにあります。
最高音を探すより、松本さんの短い一節が入った前後で、曲の人物や空気がどう変わるかを見てみてください。
甘い声が飾りではなく、7人の音楽を動かす役割になっている理由が分かります。






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