一度歌い終えた曲を、制作の後半になって全部録り直す。
KIRITO(PIERROT)が2013年の「想像の楽園」で見直したのは、感情の込め方や発声でした。
自分の歌に何を求めるかを問い続けてきた人が、2026年には、あえて表情を抑えたほうが気持ちの伝わる場合もあると語っています。
その間には、シャウトを押し出したソロ作品や、昔の曲を小さな編成で歌い直す経験もありました。
声の選択肢を広げながら、曲をどう届けるかを練り直してきた歩みをたどります。
「Discord」公式ミュージックビデオ(2022年、『NEOSPIRAL』収録)。
PIERROTからAngeloへ|歌う役割を引き受け、表現を練り直す
KIRITOは、PIERROTのインディーズ時代に、ギターからボーカルへ転向しました。
本人の回想によると、転向を決めた次のライブから、ボーカルとしてステージに立っています。
バンドを止めず、新しい役割を引き受けたのが、歌い手としての出発点です。
すでに決まっていた公演も、1本も取りやめなかったそうです。
後年の取材で理由を振り返ると、活動を楽しみに待っている人たちに、形が変わっても行き場所を作っておきたかったという思いがありました。
PIERROTは1998年に「クリア・スカイ」を発表し、メジャーへ進みました。
2005年には「DOOR」でソロ活動を始め、2006年にはAngeloが始動します。
歌う場所が増え、変わっていく中でも、KIRITO自身はこれらの活動を一続きのものとして捉えています。
Angeloの『FAITH』を制作した2013年には、歌の仕上げ方にも、その姿勢が表れています。
「想像の楽園」は早い段階で歌を録っていましたが、制作を進めるうちに、もっと良い表現ができると感じ、後半になって歌をすべて録り直しました。
見直したのは、感情の込め方や発声、そして一部の歌詞です。
最初に録れた歌を完成形とせず、曲への理解が深まった時点で、声の出し方から考え直す。
ここには、感情と発声を一緒に練り上げていくKIRITOの作り方が見えます。
本人は、ほかのメンバーの曲では歌を乗せることに集中できる一方、自作曲では全体が気になり、手を加えたり、やり直したりすることがあるとも説明しました。
歌い手と曲の作り手、両方の視点が録音の判断に関わっていたのです。
同じ『FAITH』のバラード「Voice of the cradle」では、録音中に強く感情が入り、飾らない言葉で気持ちに迫れたことを気に入っていました。
後年、メロディーや感情の伝わり方を重視する方向へ進む土台は、激しい表現を広げる前にも見つかります。
2018〜2022年|小編成の歌と、シャウトを前面へ出すソロ

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2018年にソロ活動を再開してからは、アコースティックの場でも、PIERROT、Angelo、ソロの曲を歌ってきました。
2019年の「His sight」は、ギタリスト二人とピアノ、弦楽カルテットを迎えた公演です。
ソロ曲「METHOD」で幕を開け、名義をまたいだ選曲で歌を届けました。
「METHOD」公式ライブ映像(2019年4月6日「His sight」、東京国際フォーラム ホールC)。
そこから2022年の「Phantom」では、歌とギターを中心にした最小限の編成に取り組みます。
本人は、伴奏を小さく絞り、歌を軸にして届ける形にも可能性を感じていました。
昔の曲を選ぶために聴き直すと、作った本人なのに忘れていた曲もあったそうです。
時間を置いたことで客観的に良さを感じ、今の自分の歌として届けたい曲を選べるようになっていました。
新曲を作り続ける一方で、かつての曲を今の歌として届ける場も育てていました。
「Phantom」公式舞台裏ドキュメント(2022年、KANDA SQUARE HALL公演)。
一方、同年1月にAngeloが活動休止へ入った後、本格的に動き出したソロでは、激しい声も前へ出していきます。
11月発表の『NEOSPIRAL』に収めた「Discord」について、KIRITOは、英語の歌詞やシャウトなど、それまであまり前面に出していなかった要素を打ち出した曲と説明しました。
それまでのソロは、バンドと並行して行う活動でした。
2022年の本人の説明では、バンドへ注いでいたものをすべてソロへ向けるようになったことが、大きな違いです。
昔の歌を今の自分で届ける場を持ちながら、新作ではまだ十分に見せていなかった声を押し出す。
その両方に取り組んだ時期でした。
2023年|「BALANCE」で、新しい歌のアプローチを自分のものにする

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2023年の『ALPHA』では、「BALANCE」のAメロなどに、それまでと違う歌のアプローチが取り入れられました。
KIRITO自身は、少しミクスチャー寄りの要素を取り入れ、自分の表現として身に付けた上で出していると説明しています。
「BALANCE」公式ミュージックビデオ(2023年、『ALPHA』収録)。
声の迫力を増すことに加え、メロディーと言葉を運ぶ形にも、新しい選択肢を加えていった時期です。
外から取り入れた要素を、自分の歌として成立させるまで練るところに、KIRITOらしいこだわりがあります。
録音では、一つのフレーズの感情表現に納得するまで、一晩かかることもあったといいます。
細かな歌の表情を詰める作業が、この新しいアプローチを支えていました。
制作の進め方にも変化がありました。
近年はアルバムの曲順に沿って歌を録ることが多かったのに対し、『ALPHA』では、メロディーを聴かせる曲を先に、シャウトを強く出す曲を後に回しています。
日程が詰まった中で、歌い方の違いを考えて順番を組み替えたといいます。
声の種類を増やすだけでなく、それぞれを録音で形にするための判断も必要になっていました。
2026年|『SHIFT』で、メロディーを届ける歌へ重心を移す
2024年のPIERROT再集結、2025年のAngelo再始動も経て、2026年4月にはミニアルバム『SHIFT』を発表しました。
本人によると、直前のソロ3作では、シャウトや力強さを重視する方向を掘り下げていました。
メロディアスな歌は得意でも、全面的に力で押すスタイルは不得手に見られていたかもしれない。
そうした印象を覆すつもりもあったといいます。
その方向を突き詰めた後で、今回は原点のメロディーへ重心を戻しました。
得意な面をいったん抑え、別の表現を追い込んだからこその再選択です。
声の強さを広げてきた経験も、その背景にあります。
「PARADIGM SHIFT」のAメロ、Bメロ、サビで変わる声色についても、本人は、場面ごとの変化が自分のスタイルだと話しています。
「PARADIGM SHIFT」公式配信音源(2026年、『SHIFT』収録のスタジオ版)。
「GEARS OF FATE」の優しい歌声についても、感情によって声の出し方が変わると説明しました。
メロディーを届ける作品の中にも、こうした声の使い分けが生きています。
「GEARS OF FATE」公式配信音源(2026年、『SHIFT』収録)。
若い頃の抑揚を見直し、感情が伝わる形を選ぶ
2026年のインタビューでKIRITOが振り返ったのは、若い頃には抑揚を強く誇張した歌い方もしていた、という経験です。
そこから修正を重ね、感情を出し過ぎず、淡々と歌うほうがリアルに伝わる場合もあると学んできました。
同じ取材では、自分の歌の完成をどう判断するかも説明しています。
音程やリズムの正確さ、声量だけで満足するのではなく、思い描いた場面の感情が見えるところまで持っていきたい。
時間をかけて自分の歌を判断する中で、求めるものがだんだん分かってきたといいます。
2013年に録音をやり直した時も、2023年に一つのフレーズへ時間をかけた時も、探していたのは曲の感情を表す声でした。
経験を重ねた今は、強く表すことに加え、どこまで抑えるかも選べるようになっています。
KIRITOの歌声の変遷は、発声や感情表現を練り直し、新しい歌い方を身に付けながら、曲に合う声を選んできた歩みです。
具体的な声色や抑揚、シャウトの使い分けは、KIRITOの歌い方で取り上げています。

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