鈴木このみさんの歌を聴くと、普通なら一曲の見せ場にするような高音が、何度も続けて現れます。
しかも長く伸ばすだけでなく、速い言葉、急な跳躍、細かな感情の変化まで同時に求められます。
これほど難しい曲を歌い続けられると、特別に強い喉で力押ししているように見えるかもしれません。
ところが本人の歩みを追うと、現在の持久力は「どこまでも押せる声」ではなく、必要な力だけを使い、音域ごとに声を作り直せる柔軟さから生まれたことが分かります。
その特徴が見えやすいのが「Reweave」です。
サビの高音だけでなく、低い位置から速度を上げても言葉が崩れないところ、強い音の直後に次のフレーズへ戻れるところにも注目してみてください。
高音の強さを説明する鍵は、手術後の「低音」にある
鈴木このみさんは、約4年間にわたって声帯結節を抱えながら活動していました。
すぐに手術へ踏み切れなかったのは、声が変わり、これまでの曲を歌えなくなる不安があったからです。
症状が進むにつれて納得できる歌が難しくなり、長く歌い続けるために手術を選びます。
術後は沈黙期間を経て、最初は一日合計30分だけ話し、約一か月後から歌唱のリハビリを始めました。
回復すると、声は以前より伸びやすくなり、高い音も少し出しやすくなりました。
長時間歌っても疲れにくくなったという変化は、現在のライブ活動を考えるうえで大きな意味を持ちます。
ただし、すべてが一度に良くなったわけではありません。
高音が楽になった一方で、低音は息が混じって弱くなり、本人はそこを改めて作り直しています。
この逆転が、鈴木このみさんの発声を理解する重要な手がかりです。
高音だけを鍛えて完成したのではなく、声の土台が変わった後、低音から上まで一つの楽器として再調整したから、現在の広い音域がつながっています。
強く聞こえるのに、全部を同じ強さでは歌わない
「This game」のような曲では、サビに高い音が密集し、最後にはさらにキーが上がります。
最初から最大音量で歌えば、後半へ進む前に喉も息も余裕を失う構造です。
鈴木このみさんの歌は、声の輪郭が明瞭なので全編が強く聞こえます。
しかし実際の組み立ては、低い音を必要以上に太くせず、短い音は素早く離し、本当に伸ばしたい音へ力を残す方向です。
音量を下げても言葉の芯が消えにくいことも大きな武器です。
息だけの小声と、喉で押した大声の二択にならず、その間にいくつもの段階があります。

だから高音へ入る直前に、急に別人のような声へ切り替わりません。
少し軽くした地声の延長から上へ移り、必要な場所だけ明るさと密度を足すため、難しい音程の連続が一つの言葉として聞こえます。
これは「強い声帯閉鎖を続ければよい」という話ではありません。
強く当てる瞬間と手放す瞬間が分かれているから、結果として一曲を通した強さが残ります。
速い歌詞でも、音程より先に言葉が届く
アニソンでは、高音だけでなく情報量の多い歌詞を短い時間へ収めることがあります。
一音ずつ丁寧に伸ばす発想では、言葉が遅れたり、子音のたびに声の流れが止まったりします。
鈴木このみさんは、メロディーを滑らかにつなぎながら、日本語の輪郭も失いません。
子音を大きく打ち付けるのではなく、母音が流れる道の上へ言葉を素早く置くため、速くても歌が細切れになりにくいのです。
デビュー当初は、本格的な録音そのものに慣れておらず、感情の込め方やブレスにも苦労していました。
後には録音前に鏡とマイクを使い、身体の動きやマイクとの距離まで確認するようになります。
声の強さだけでなく、録音で何が聞こえるかを客観視できるようになったことが、現在の明瞭さにつながっています。
難曲を勢いで通り抜けるのではなく、速い部分ほど発音、息、音量を小さく管理しているのです。
すぐに良いテイクが録れても、そこから歌を深くする
鈴木このみさんについて、制作側からは早い段階で技術的に成立したテイクが録れると語られています。
ただし本当に面白い歌になるのは、その先まで歌い込んだ時です。
正しい音程と力強い高音だけなら、難曲を攻略した達成感は生まれます。
そこへ言葉のためらい、人物の決意、ライブで育った間が加わると、同じ曲が物語として動き始めます。
本人も、ライブで歌い込んだ曲を再録したくなるほど、ステージで歌が変わることを自覚しています。
完成した歌唱法を毎回再生するのではなく、観客の反応を受けて曲を育てる歌手なのです。

She is Legendでは、さらに別の課題が加わりました。
一人で完成させる歌ではなく、XAIさんと声をぶつけ、重ね、時には自分の得意ではなかったハモリも担います。
自分の歌が上手く聞こえることより、二人の声で人物と物語を成立させる必要があります。
この経験によって、強い高音を主役にするだけでなく、相手の声を受けて自分の色を変える力も増えました。
術後に増えた透明感は、昔の力強さを消さなかった
本人は、手術前の声を少しハスキーで少年らしい質感、術後の声をより透明で純粋な質感として捉えています。
声のかすれが減れば、昔の個性まで薄くなるのではないかという不安もあったでしょう。
現在の歌では、明るく澄んだ高音が前へ出る一方、ロック曲で必要な鋭さは残っています。
粗さそのものに迫力を任せず、言葉の入り方、音量差、語尾の切り方で熱を作れるようになったからです。
大きな声を出せる人ほど、弱い音を作ることは難しくなります。
声量を落とした瞬間に息だけになれば、次の高音との間に深い溝ができます。
低音を作り直した経験は、その溝を埋めました。
高音の持久力が増した理由を一つに決めることはできませんが、低い音でも芯を選べるようになったことは、上へ行く前の無駄な消耗を減らす大きな要素です。
真似するなら、限界音より「戻ってこられる声」を見る
鈴木このみさんの曲を練習する時、最高音だけが出たかどうかで判断すると危険です。
一度届いても、その後の低い音へ戻れない、話し声が重くなる、翌日までかすれるなら、同じ方法で一曲を歌い続けることはできません。
注目したいのは、高音へ上がった後に同じ声の質で戻れるか、音量を下げても音程と母音が残るか、二回目も同じように再現できるかです。
鈴木このみさんのすごさは、頂点の高さより、何度上っても歌の中へ戻ってこられることにあります。
高音の張り上げを直す方法でも触れているように、強い声と力みの多い声は同じではありません。
痛みや強いかすれが出る場合は、本人の手術経験を自己流の練習理由にせず、発声を止めて専門家へ相談してください。
15歳の頃から難しい曲を歌えた人が、声の不調を経て学んだのは、さらに強く押す方法ではありませんでした。
低音から声を組み直し、使う力を選び、長く歌える状態を守ることです。
鈴木このみさんの高音が現在も力強いのは、力を出し続けるからではなく、必要のない場所で力を使わないからです。
この「戻れる強さ」こそが、難曲を何曲も歌える持久力の正体に最も近いでしょう。
15歳のデビューから声帯手術、独立後までの歌声の変化をたどると、この強さがいつ、どのように作り直されたのかを時系列で確認できます。






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