鈴木みのりの歌い方・発声|張る声、裏声、ささやきを曲で選び分ける

「サイハテ」発表時の鈴木みのり シンガー
「サイハテ」発表時の鈴木みのり

鈴木みのりの発声を考えるとき、声を強く出す力と、力を抜いて歌う選択の両方が手がかりになります。
本人は曲によって、張る声、裏声、ささやくような声を選び、言葉のつなぎ方も変えてきました。
その違いを具体的に説明しているのが、「Wherever」「大好きになってよかった」「リナリア」「BROKEN IDENTITY」の制作時の話です。

「Wherever」――力を抜いた声で、言葉を流れるようにつなぐ

「Wherever」は、TVアニメ『黒の召喚士』の物語を、聴き手がクールダウンして受け止められるような曲として作られました。
鈴木自身は、演じるセラの明るい印象からポップな曲を想像していたため、穏やかなバラードを求められたことは意外だったそうです。
声を強く押し出す方向とは異なる役割が、曲の出発点にありました。

歌で意識したのは、いつものように一つずつ言葉をはっきり出すことから、流れを作ることへの切り替えでした。
鈴木みのりは、日本語にも英語のような響きを持たせるつもりで歌ったと話しています。
MALIYAの仮歌から発音やリズムの取り方を学び、録音でも曲に合う歌い方を教わったそうです。

声の出し方では、力を抜いて裏声を使う感覚に向き合いました。
本人にはデビュー前にそのように歌っていた経験がありましたが、声を張る曲を歌い続けるうちに、その感覚を使う機会が減っていたという振り返りです。
強く歌えるかどうかと、力を抜いた声を自在に選べるかどうかは、本人の中でも別の課題だったことが分かります。

録音では、拍を細かく確かめることより、演奏の音を感じることを意識したとも話しています。
冒頭でも、音が続いていく感覚を大切にしたそうです。
声の力を抜くことと、言葉を区切りすぎないことが、一つの歌い方として結びついています。

歌詞には、行き場のない感情や、一人で何かを探している寂しさもあります。
鈴木は、その内に秘めた思いをぽつりぽつりと出し、遠くにいる相手へ思いを向ける感覚で歌ったと説明しました。
感情を薄めるために淡々とするというより、静かに抱えている気持ちに、その声の出し方が合っていたのです。
また、制作途中に詞やメロディが修正されるたび仮歌を受け取り、自分でも録り直していたため、本番まで長く曲に触れられたことが、歌の流れを身につける助けにもなりました。

「大好きになってよかった」――張る声を、甘いささやきへ変える

「リワインド/Crosswalk」発売時の取材に臨む鈴木みのり
「リワインド/Crosswalk」発売時の取材に臨む鈴木みのり。
画像出典:写真掲載元

2018年の「大好きになってよかった」では、普段の張った歌い方に代えて、甘くささやくことを意識しました。
本人が作詞したこの曲で試したのは、同じ声を大きさだけ変えることより、言葉を届ける距離感を変えるような選択だと考えられます。

制作では、いつもとは違う古めのマイクも使ったそうです。
歌う側が選んだささやきと、録音に使った機材の両方に工夫がありました。
完成した声の印象を考える際には、本人の歌い方と録音上の選択が重なっていることも手がかりになります。

詞を作るときには、情景を見せるよう助言され、上京して間もない頃の紫陽花の写真から、雨や相合傘の場面を膨らませたといいます。
恋という言葉を重ねるだけでなく、帰り道に相手を見つめる具体的な場面を置いた。
甘いささやきは、そんな近い距離にいる相手への気持ちとも重なります。

この曲には、ささやくような歌い方を、恋の歌の甘さへつなげようとした意図があります。
穏やかな声で恋の気持ちを伝えることも、ソロの初期から試していました。

「リナリア」――裏声や張る声で変わる、声の年齢感

2021年のツアー「Make My Story!」出演時の鈴木みのり
2021年のツアー「Make My Story!」出演時の鈴木みのり。
画像出典:写真掲載元

2021年の「リナリア」では、張り上げる声や裏声の使い方を、曲の人物像に合わせて考えています。
本人には、そうした声を使うと自分の歌が若く感じられるという認識があり、この曲では大人らしい雰囲気を保つように気をつけたそうです。
そのための意識として挙げているのが、話すように歌うことでした。

裏声は、高い音を出すためだけでなく、声から受ける人物の印象にも関わっています。
鈴木みのり自身が、声の出し方によって曲の主人公の年齢感が変わると捉えていたことに、この選択の面白さがあります。
「リナリア」では、音の高さと同時に、どんな人の言葉として聞こえるかを考えて歌っていたのです。

この曲は、本人が江口亮の助けを受けて初めて作曲にも携わった作品です。
明るい面だけでなく、家でぼんやりしているときのような自分も出せたと振り返っています。
詞にも、望みを言葉にできず、一人で期待しては落ち込んでしまう気持ちを織り込みました。
過去の思いを断ち切れない人物の内側を歌うからこそ、張って若々しく聞かせるより、落ち着いて話すような声を選んだと考えられます。

反対に、2018年の「リワインド」では、年齢感を意識して下げています。
『カードキャプターさくら クリアカード編』の主人公に近い、小中学生くらいの気持ちになり、知らないことへのわくわくを歌ったと説明しました。
大人らしさも幼さも、単なる音程の上下だけで決めず、その年齢の人が何を感じるかから声の表情を選んでいるのです。

「BROKEN IDENTITY」――張る声で向き合った、冒頭の高音

2022年の「BROKEN IDENTITY」では、声を張って突き抜けるように歌ったと説明しています。
「サイハテ」ではロックの響きを声色でも表現できた感覚があった一方、この曲ではさらに強く張る歌い方へ挑戦したそうです。

録音で特に難しかったのは、歌い出しから急に高い「イ」の音を出すところでした。
本人は、曲の印象を決める部分として何度も歌ったと振り返っています。
曲の途中で気持ちを高めていくのとは違い、最初の音から強い表現を求められる難しさがあったのです。

また、録音ではお腹をかなり使う感覚があり、喉よりも先に体力の限界を感じたと話しています。
この曲の張る歌い方は、本人にとって、声の高さだけでなく体の使い方を含めて負荷の大きい挑戦でした。

こうした強い歌に備え、鈴木は幼い頃に聴いて練習していたLiSAらの曲も聴き直し、表現の選択肢を増やして録音に臨みました。
さらに作編曲のMao Yamamotoと作詞のnana hatoriが立ち会い、激しい曲ならではの音の取り方を細かく調整しています。
張る歌が自分の声に合うかという不安もありましたが、放送後の反応から、この方向も受け止めてもらえると感じたそうです。

鈴木みのりは、裏声を使って力を抜くこと、甘くささやくこと、話すように歌うこと、強く張ることを、曲の表情に合わせて選んでいます。
どの声を出せるかに加え、その声でどんな気持ちや人物を届けるかまで考えるところに、歌い方の特徴があります。
そうした選択が増えてきた経緯は、鈴木みのりの歌唱変遷でたどっています。

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