「FEELING AROUND」でソロデビューした鈴木みのりには、明るく元気な歌の印象があります。
『マクロスΔ』のフレイアとして歌う姿から知った人にとっても、その勢いは親しみのあるものでしょう。
ただ、本人がデビュー前に好んでいたのは、穏やかな曲を声を張らずに歌うことでした。
活動を通じて張る歌い方を身につけ、その先で再び力を抜く歌を選ぶ。
2018年のソロデビューから2022年の「Wherever」までをたどると、鈴木みのりの変化は、歌の強さを増していくだけの歩みではなかったことが分かります。
どのように、自分の歌として選べる表現が増えていったのでしょうか。
2018年――キャラクターとして歌う経験を、自分の歌へ

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2018年1月24日発売の「FEELING AROUND」は、鈴木みのりが自分の名義で歌い始めた曲です。
それまでのワルキューレでは、フレイアならどう歌うかを考えていたのに対し、ソロでは自分ならどう歌うかが出発点になったと話しています。
スタッフと共有していたのは、明るさや元気、笑顔を生かす方向でした。
鈴木自身も笑顔は自分の持ち味だと思っており、言葉にする前にスタッフと考えが一致していたことを喜んでいました。
一方で、声優として歩き始めたばかりの自分が歌手にもなることには、不安があったそうです。
共演者に相談し、両方を一緒に始めてもよいと励まされたことが、前向きに臨む支えになりました。
「FEELING AROUND」では、好きなものを求める気持ちに加え、満たされたあとに残る切なさも意識していたそうです。
キャラクターの元気さと地続きでありながら、自分の気持ちをどう重ねるかを考えたデビューでした。
もともと聴き手として好きだったのは、ゆったりした音楽でした。
しかしワルキューレで活動すると、元気な曲も似合うと言われるようになる。
自分の好みにだけ絞れば、まだ知らない可能性を狭めるかもしれないと考え、ソロでも幅広い曲に取り組んでいきました。
力強く歌う姿も、仕事の中で育ててきた鈴木みのりの一面だったのです。
2020年――歌詞と自分の気持ちに、作り手と音への意識が加わる

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1stアルバムと最初のツアーを経験したあとの変化を、2020年の『上ミノ』のインタビューでは、歌に向き合う範囲が広がったこととして話しています。
それまでは歌詞を自分の言葉として感じ、自分の気持ちを届けることを大切にしていた。
そこに、曲を作った人の思いや、歌の周りにある音を意識する姿勢が加わったそうです。
『上ミノ』――アルバムのダイジェスト(2020年)
自分の気持ちに加え、演奏を含めた曲全体の中で声を置こうとする変化です。
歌うときに何を聴き、誰の思いを受け取るかが、少しずつ増えていったと考えられます。
一緒に制作していた北川勝利は、急に別人のような歌い方になったわけではないと説明しています。
ツアーの公演を一本終えるごとに、次はどうしたいかを話し、最終公演へ向けて少しずつ変わっていったという振り返りです。
『上ミノ』の時期は、大きな声質の変化というより、歌い方を決める視野が広がった時期として見ると、本人と作り手の説明がつながります。
そのアルバムに入った「まぼろし」は、自分の好きな音楽を選ぶ勇気にもつながりました。
作詞の饗庭純、作編曲の出羽良彰による曲で、鈴木が以前から好んでいた作り手との仕事です。
本人は、自分の好みと客席に求められるものは違うかもしれないと考えていましたが、この曲に予想以上の反響があったといいます。
アルバムの中で好きな曲を尋ねると、自分の好みとファンの答えが重なることもありました。
自分がよいと思う歌も、聴き手に届くのではないか。
その手応えが、次の「サイハテ」で自分の意思をさらに出すことにつながります。
2021年――「サイハテ」で、自分から感情の流れを作る
「サイハテ」は、もともと『上ミノ』の収録候補にあった曲でした。
アルバムの並びを考えて見送ったものの、鈴木は気に入り、いつか発表したいと温めていたそうです。
その後、アニメ『海賊王女』の監督が曲を気に入り、エンディングテーマとして形になりました。
穏やかに寄り添う歌に加え、聴き手へ感情を強くぶつけるような歌にも挑みたい、という本人の希望と重なった曲です。
2021年11月発売の「サイハテ」では、歌い方を決める際の本人の意思が、より具体的に表れました。
それまで細かく指示を受けていた言葉ごとのニュアンスを、この曲では自由に歌い、自分で物語の流れを作ったと話しています。
「サイハテ」――フル版MV(2021年)
その違いが分かりやすいのは、テレビで使う短い版を録り直したというエピソードです。
フルサイズを録音したあと、曲の前半と終盤をつないだものを聴くと、本人には感情の流れが合わなかった。
そこで、テレビ用の長さに合わせて別に歌わせてほしいと、自分から申し出たそうです。
同じ曲でも、歌い始めから終わりまでの時間が違えば、気持ちの進み方も変わります。
その違いを録音の段階で選び直したことに、当時の変化が表れています。
フル版を短く編集するだけでは届かない流れを、もう一度歌うことで作ろうとしたのです。
「サイハテ」――TV EDIT(2021年)
フルサイズを初披露した2021年の『Animelo Summer Live』でも、いつもの元気な姿とは違う面を届けられたと振り返っています。
それまでの同イベントでは「FEELING AROUND」などの個性の強いポップな曲を歌っていました。
今回は歌そのものを聴かせる方向へ進み、長く接してきたスタッフからも、新しい一面や表情を評価されたそうです。
2022年の「BROKEN IDENTITY」で、さらに張る声を試す
翌年6月発売の「BROKEN IDENTITY」では、「サイハテ」より激しいロックに挑みました。
本人の説明では、「サイハテ」は声色によってロックを表す感覚があり、この曲では声を張って突き抜ける方向へ進んでいます。
そのため、自分の声に合うのかという不安もあったといいます。
録音に向けては、幼い頃に聴いて歌っていたLiSAらの曲を聴き直し、表現の選択肢を増やしました。
冒頭から高い音へ入る部分には何度も取り組み、作り手と細部を詰めています。
アニメ放送後の反応を受けて、この方向も受け入れてもらえると感じたそうです。
張る歌を身につけたあとにも、さらに強い表現へ踏み込む迷いと挑戦がありました。
2022年8月の「Wherever」で、力を抜く歌い方を選び直す
2022年8月に配信された「Wherever」は、声を張ってきた歩みに別の方向を加えました。
本人が選んだ理由には、穏やかに聴ける曲への好みがあり、歌い方についてもデビュー前の自分に近いものだと振り返っています。
ただ、活動の中で張る歌を重ねてきたため、力を抜いて裏声を使う感覚を改めて取り戻す部分があったそうです。
デビュー前は、穏やかな曲を張らずに歌い、元気な曲でも裏声を使っていました。
ワルキューレの代表曲のような勢いのある歌は、自分には似合わないと思っていたほどです。
その後の経験によって得意な方向が広がったからこそ、昔は自然に使っていた声へ、もう一度意識を向けることになりました。
「Wherever」――『fruitful spring』(2023年)収録音源
この曲では、気持ちを込めて言葉をはっきり出す普段の歌から、音が続いていくように歌うことへ意識を移しています。
作詞・作曲を手がけたMALIYAの仮歌や現場での助言を通じて、発音とリズムの取り方にも向き合いました。
拍を確かめることへ意識を寄せすぎず、演奏を感じながら歌うことも、大きな発見だったそうです。
その感覚を支えたのは、本番前から曲に向き合う時間でした。
制作途中で歌詞やメロディが変わるたびに仮歌を聴き、自分でも録り直していたため、曲に触れる時間が長くありました。
本人は、その積み重ねによって曲が身体に馴染んだ状態で本番を迎えられたと振り返っています。
以前から好きだった穏やかな音楽を、活動を重ねた自分の歌として選び直した一曲なのです。
鈴木みのりは、自分に似合うと思わなかった元気な歌を身につけ、聴き手の反応から、自分の好きな歌も求められていると知りました。
「サイハテ」では短い時間に合う感情の流れを自ら作り、「BROKEN IDENTITY」ではさらに張る声へ進む。
その先の「Wherever」では、力を抜くために、昔の感覚と新しい作り手の助言を受け取り直しています。
声の強さを増すだけでなく、曲に合う強さを自分で選び、そのための歌い方を作ってきた歩みです。
その曲ごとの声の使い分けは、鈴木みのりの歌い方で詳しく扱っています。







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