戸松遥の歌唱変遷|変わる声を個性にし、「Alter Echo」で新しい表情へ

「Alter Echo」発売時の取材に臨む戸松遥 シンガー
「Alter Echo」発売時の取材に臨む戸松遥

「courage」のようなロック曲から、かわいらしいポップな曲まで歌ってきた戸松遥。
曲に合わせて声が変わることを、本人は自分らしさの一つとして捉えています。
ただ、ソロとして歌い始めた頃は、その変化が悩みでもあったそうです。

一つの声を探すことから、曲の中で生まれる声を受け入れることへ。
さらに「Alter Echo」では、これまでの自分の歌のイメージをいったん離れ、新しい表情を試しました。
本人が語った制作の経験から、その変化をたどります。

2018年――曲ごとに変わる声を、自分の個性として受け止める

『COLORFUL GIFT』発売時の取材に臨む戸松遥
『COLORFUL GIFT』発売時の取材に臨む戸松遥。
画像出典:写真掲載元

2018年5月に『COLORFUL GIFT』を発表したとき、戸松遥はソロ初期の戸惑いを振り返っています。
自分の名義で歌う前にキャラクターソングを経験しており、何かの役として歌う感覚があった。
そのため、自分として歌うよう求められたとき、自分の個性とは何かを考え込んだそうです。

曲によって声が変わってしまうのは声優だからなのか。
アーティストとしての一つの声が必要なのか。
そうした迷いがありましたが、やがて、変わる声も自分の個性として認めていいと考えるようになったと話しています。

『COLORFUL GIFT』には、「オレンジレボリューション」をはじめ、表情の異なる曲が収録されています。
2018年時点の本人が大切にしていたのは、自分の声で曲を引っ張ることより、曲調や歌詞の世界へ入っていくことでした。
曲に合わせて出てきた声も、そのときの戸松遥の歌声なのだという受け止め方です。

「オレンジレボリューション」では、楽しい気持ちを声に乗せようとする中で、録り直しも行っています。
ひと通り歌って1番と2番をつなげたところ、本人には、歌声が別人のように感じられたそうです。
序盤よりも、歌い進めたあとのほうが調子が上がっていた。
そこで、その気分のまま1番をもう一度歌わせてほしいと申し出ました。

自分の声を一つに決めないことと、一曲の中で表情を揃えることは両立しています。
曲に合う声が出てきたら、録音済みの部分もその声で歌い直す。
その場で見つけた表現を、完成する歌へ取り込んでいました。

声を変える力そのものより、その力をどう捉えるかが変わった。
この振り返りには、戸松遥の歌唱の幅を考えるうえで大切な転機があります。
一つの声にまとめようとする迷いを離れ、曲に応じた声を、自分の表現として引き受けるようになったのです。

2016〜2018年、荒々しさや明るさの中の憂いも選ぶ

2016年の「痛快!ロマンチッカー」は、2018年のアルバムにも別ミックスで収録されています。
戸松はこの曲について、荒々しく歌うほうが合うと話しています。
上手に歌いたい気持ちはあっても、この曲では優先順位を変え、思い切って振り切る。
そこまで試してよいのだと感じられた、挑戦的な曲だったそうです。

「痛快!ロマンチッカー」――2016年シングル収録音源

『COLORFUL GIFT』の「Boom Boom Typhoon !」については、デビュー当時との違いを、さらに具体的に説明しています。
本人によれば、初期は明るい曲なら明るく歌うことしか考えられなかった。
活動を重ねた2018年には、明るさの中へ別のニュアンスを加えられるようになったそうです。

その例として挙げているのが、曲の途中で音が落ちるDメロです。
ほかの部分の勢いとの違いをどう表すかが、歌うときのポイントになっていました。
曲全体を同じ気持ちで押し切ることから、場面ごとの感情の差を考えることへ、表現の視野が広がったと読めます。

この曲は、ライブでみんなとタオルを回したいという希望から生まれました。
会場を盛り上げる歌でありながら、その中にも異なる気持ちを置く場所を作っていたのです。
曲ごとに声を変えるだけでなく、一曲の途中でも、勢いと感情の間に変化をつけるようになったことが分かります。

「色彩日記」では、客席へ話しかけるように歌えた

同じ2018年のアルバムを締めくくる「色彩日記」には、別の自然さがありました。
10年間の感謝を伝えるため、戸松は印象に残る景色や出来事を書き出し、作詞の古屋真へ送っています。
2013年のツアーで客席がサイリウムの虹を作ってくれた思い出も、その一つでした。

歌詞の最初の案を受け取ると、これまでの感謝に加えて、これからも進んでいく気持ちを残したいと伝えました。
曲調も、しんみりするバラードより、聴いて笑顔になれるものを望んでいたそうです。
感謝を届ける曲を、活動の締めくくりのようにはしたくなかったのです。

録音でも、ほかの曲のように気合いを入れるより、そのときの気持ちを大切にしました。
自分の経験が詞になっているため、歌うと自然に客席が浮かんでくる。
ライブのMCで話しかけるような気分で、自然体の自分として歌えたと振り返っています。
かつて自分として歌うことに戸惑った人が、積み重ねた客席との時間を、そのまま歌へ持ち込めるようになっていました。

2023年――「Alter Echo」で、これまでの自分のイメージを離れる

「Alter Echo」発売時の戸松遥
「Alter Echo」発売時の戸松遥。
画像出典:写真掲載元

2023年発表の「Alter Echo」について、戸松遥は発売時の取材で、録音したのは1年少し前だったと振り返っています。
その制作では、戸松遥としての録音が久しぶりだったことが、本人にはプラスに働きました。
キャラクターソングの録音は続けていましたが、自分の名義で歌う感覚は少し薄れていたそうです。
そこで、それまでの戸松遥らしさをいったんリセットするつもりで、録音に臨んだと話しています。

曲と役の関係も、以前の主題歌とは少し違っていました。
「courage」や「Resolution」では、アスナの気持ちを受け取り、自分の歌として表していたという戸松。
「Alter Echo」は特定の人物やアニメの一部分に絞らず、『ソードアート・オンライン』の世界を広く捉えた曲だったため、作品全体を盛り上げる気持ちで臨んだそうです。

新しい表現が出たのは、ここでもDメロでした。
少し力を抜き、言葉を投げるように歌う部分について、本人はこれまで試したことのなかった表現だと説明しています。
自分の中にある戸松遥像に縛られていたら、恥ずかしくてできなかったかもしれないとも振り返っています。

強いロック曲の中で、声を抜くことや、セリフを話すような感覚も選ぶ。
この曲では、既に持っていた得意な歌い方だけでなく、その場で出てきた新しい声の表情を受け入れた手応えがあったそうです。

本人は、録音が続くと余裕がなくなり、歌い方が偏る場合もあると話しています。
今回は間が空いたことで気持ちにゆとりができ、格好よく見えるかを気にしすぎず、まず歌ってみようと思えた。
久しぶりのソロ録音が、慣れた自分から離れてみる機会になったのです。

同じシングルの「i」で、自分では選ばない歌へ進む

カップリングの「i」は、表題曲のCD発売が決まってから、後に録音しています。
仮歌を聴いた戸松には意外な曲で、珍しく前日まで緊張していたそうです。
スタジオでも、まず歌いながら方法を探るところから始まりました。

課題は、声を音としてリズムに乗せることでした。
何度も歌って流れをつかんだあと、語尾の上げ方や抜き方を加えていく。
ラップでは最初の歌がかわいらしくなりすぎ、自分の中にまだない表情を探し、言葉の終わりを落とす練習を重ねたといいます。

戸松は、自分だけで選んでいたら、以前の曲と似た方向へ進んでいたかもしれないと振り返っています。
予想の外から来た曲を、今の自分なら歌えると信じてもらえた機会として受け止めたのです。
曲によって声が変わることを個性と認めた2018年の考え方は、慣れない曲に歩み寄る2023年の制作にもつながっています。

ソロ初期に迷った、曲によって変わる自分の声。
それを個性として受け止め、録り直して表情を揃えたり、客席への気持ちを話すように歌ったりしてきました。
「Alter Echo」と「i」でも、歌って試す中で、今まで選ばなかった声が出てくる。
戸松遥の歌唱変遷には、出会う曲と周囲の提案を受け取りながら、自分らしい歌を増やしてきた歩みが見えてきます。
高音や息継ぎ、声を抜く感覚と語尾の扱いは、戸松遥の歌い方で詳しく紹介しています。

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