香取慎吾の歌い方|低い声の厚みと、曲に合わせて崩すフレーズ

香取慎吾(2024年「Circus Funk」インタビュー掲載) シンガー
香取慎吾(2024年「Circus Funk」インタビュー掲載)

香取慎吾の歌には、低い声の存在感と、リズムの中で言葉を動かす面白さがあります。
その魅力は、声の高さだけでは説明しきれません。
きちんと歌うところからあえて崩す曲、楽器と声で応酬する曲、共演者と一節ずつ向き合う曲で、歌の作り方も変わります。

本人や制作側の説明、公演の記録を手がかりに、どんな声をどこで選んでいるのかを見ていきます。

「Full Moon」で生きる、低い声の厚み

「Full Moon(feat. 村田陽一)」は、香取の低い声を考える入口になる曲です。
2025年6月1日の公演でも、低く厚みのある歌声が魅力を発揮しました。
同じ公演の「夢々Ticket」では明るいポップな表情も見せ、低い響き一つで全曲を押し通しているわけではありません。

曲の発想も、この声を受け止める場面を教えてくれます。
香取が思い描いたのは、サーカス小屋のピエロがひとりでジャズを歌う姿でした。
にぎやかなアルバムの中に少し落ち着いた場面を置き、本人も英語の歌詞を書いています。
低音の迫力を大きく見せるだけでなく、人物がひとりになる時間に声を置く。
この曲の厚みは、そんな場面と合わせて捉えると分かりやすくなります。

「今夜最高ね」は、まじめに歌ったあとで崩す

「今夜最高ね」では、言葉を拍に割り当てる譜割りを変えています。
そのまま歌うと一生懸命すぎるため、長年歌い慣れた曲のように崩そうと考えたのです。

正確に歌う段階から、慣れた曲を楽しむような表情へ。
声量に頼らず、言葉の扱いで余裕を作ろうとした例です。

2022年の明治座公演のゲネプロでも、「今夜最高ね」は柔らかく温かな声で歌われました。
直前の「I'm so tired」では力強さを見せています。
譜割りの工夫に、声の強さの違いも重なる。
この二曲を続けて捉えると、歌詞に合わせて押し出す声と、くつろいだ場を作る声の差が見えてきます。

「Metropolis」では、言葉のリズムを細かく作る

同じリズムへの工夫でも、WONKとの「Metropolis」では別の課題があります。
冒頭には十六小節ほどのラップに近い歌があり、弥之助が言葉を組み立てました。
制作側によれば、録音の場でも言葉を検討し、作詞者と連絡を取りながら直したそうです。

歌う人の声がよくても、言葉がそのリズムに収まらなければ、フレーズは動きにくくなります。
この曲では、歌詞を完成品として受け取るだけでなく、録音しながら声に乗る形へ整える工程がありました。
「今夜最高ね」が慣れた雰囲気へ崩す例なら、こちらは細かな言葉の配置を共同で作る例です。
どちらも、音程だけでは決まらない香取の歌の表情を示しています。

「COLOR BARS」は、柔らかい声にもリズムを保つ

「COLOR BARS(feat. SHOW-GO)」では、ヒューマンビートボックスとの組み合わせが歌の足場になります。
録音は歌詞を一行書いてはブースに入り、歌う形で進みました。
言葉をまとめて完成させてから声を乗せる工程とは違い、短い単位で書くことと歌うことを往復しています。

2025年のツアー開幕でも、この曲では、柔らかく伸びやかな声にリズムの輪郭を保っていました。
柔らかく歌うことが、そのまま拍の輪郭をなくすことにはならない。
香取の声のしなやかさを、伴奏との関係から見る例になります。

同公演の「愛の言霊」では、英語部分の低い歌とラップの両方も取り上げられています。
旋律を歌う声と、言葉でリズムを刻む声を、一人の歌手が行き来する。
厚みのある低音とリズミカルな歌は別々の持ち味ではなく、曲の中で組み合わされているのです。

スキャットでは、声も管楽器との会話に加わる

「シンゴペーション」のスキャットでは、歌詞の意味から少し離れ、声のフレーズそのものが前に出ます。
2023年の『Black Rabbit』では、サックスと掛け合い、トロンボーンと声で長い音を応酬する場面がありました。
伴奏に乗って歌う関係から、バンドの相手をして声を返す関係へ変わる場面です。

同じ公演の「ひとりきりのふたり」では、鍵盤から始まる演奏に柔らかな歌を重ねた様子も記されています。
楽器と張り合うような声と、静かな入り口に寄り添う声。
この差を見ると、香取の発声の魅力は、一つの強い響きを保つことより、曲に必要な声の前への出方を選べるところにあると考えられます。

香取慎吾(2023年「Black Rabbit」有明アリーナ公演)
香取慎吾(2023年「Black Rabbit」有明アリーナ公演)。
画像出典:画像掲載元

共演では、相手の声をその場で受け取る

中森明菜と歌った「TATTOO」は、録音時の向き合い方が印象的です。
香取は、同じブースで向き合い、一行ずつ全力で歌ったと振り返っています。
明菜から歌への助言も受けたそうです。
相手がすぐ目の前にいる状況で一節を渡し、返ってくる声に向き合う録音でした。

一方、SEVENTEENとの「BETTING」では、歌割りを含む準備と、録音時の変更の両方がありました。
WOOZIやBUMZUと事前に相談し、日本でJEONGHAN、MINGYU、SEUNGKWANと録音した際にも、その場で調整を加えています。
複数の声が入る曲では、自分がどう歌うかに加え、誰から歌を受け取り、誰へ渡すかが表現の条件になります。

中森明菜と香取慎吾(2024年「TATTOO」レコーディング風景)
中森明菜と香取慎吾(2024年「TATTOO」レコーディング風景)。
画像出典:画像掲載元

二つの録音に共通するのは、決めた歌を一人で仕上げて終えるより、相手と会った時に変わる余地を残していることです。
共演者が違えば、声を返す相手も、歌の中で担う役割も変わる。
その違いが、ソロ作品の中に多様な歌い方を持ち込んでいます。

強い言葉も、自分の口から出る歌にする

「SURVIVE(feat. LEO from ALI)」の制作では、声にする言葉も吟味しています。
香取はLEOと歌詞を検討し、強い内容であっても、自分が実際に言いそうな言葉になるよう考えたと説明しました。
勢いのある曲ほど、言葉と歌う人物の距離を確かめていたのです。

声に力を込めることと、強い言葉が本人の表現として届くことは、必ずしも同じではありません。
歌詞を自分の口に合う形にする工程は、フレーズを崩す工夫や、共演者と歌い分ける工夫にも通じます。
香取慎吾の歌い方は、低い声という持ち味を、曲の場面と言葉に合わせて働かせるところにあります。

声との向き合い方が変わった舞台経験やソロ公演の歩みは、香取慎吾の歌唱変遷で取り上げています。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました