原田真二の歌い方・発声|甘い高音の奥でコードまで歌う声

ギターを弾きながら歌う原田真二 シンガー

原田真二さんの歌声には、少し不思議なねじれがあります。
18歳でピアノを弾きながら現れた姿は、明るく甘い声のアイドルとして熱狂的に迎えられました。ところが本人がなろうとしていたのは、ロック、ソウル、映画音楽までを自分で組み立てる「アーティスト」でした。

この二つは、どちらかが偽物だったわけではありません。
親しみやすい声の中で、コードやリズムまで細かく動かす。その組み合わせがあったから、「キャンディ」の軽やかさも「シャドー・ボクサー」の力強さも、同じ人の歌として成立しました。

この記事では、原田さんの高音を地声かミックスボイスかだけで決めず、甘い声の奥にいる編曲家に注目します。

原田真二の歌声は「アイドル」と「音楽家」が同時に聞こえる

デビュー当時の原田さんは、鍵盤を弾く18歳のシンガーソングライターとして鮮烈な注目を集めました。
三か月連続でシングルを出す異例の展開もあり、整った容姿と甘い声へ熱狂するファンが急増します。

一方、本人は中学生の頃からプロを目指し、高校時代にはバンドの各奏者へ意図を伝えるため、ドラムを含む複数の楽器を身につけていました。
映画音楽の譜面を探して編曲を調べ、ロックだけでなくスティーヴィー・ワンダーなどのソウルも吸収していたと振り返っています。

つまり、テレビに映ったのは新人歌手でも、その内側ではすでに作曲家と編曲家が働いていました。
原田さんの歌声が面白いのは、若く甘い音色と、曲全体を見渡す音楽家の感覚が最初から同居していたことです。

インタビューで話す原田真二

「一音ごとに鍵盤が変わる」と考えて歌う

原田さんの歌い方を考えるうえで、ASKAさんが明かしたスタジオでの出来事は重要です。
原田さんがASKAさんの「MOON LIGHT BLUES」を編曲した際、一つのフレーズへブルースの感触を加えました。

ASKAさんが思うように再現できないと伝えると、原田さんは、一音ごとに鍵盤が変わる様子を頭に浮かべながら歌うよう助言したといいます。
その結果、ASKAさんはスティーヴィー・ワンダーをはじめとする歌手の歌い回しが、旋律だけでなく和音の動きと結びついていることに気づきました。

初心者向けに言い換えると、同じ高さの音を並べても、下で鳴るコードが変われば言葉の色も変わるということです。
原田さんは声を単独で前へ押すのではなく、伴奏の変化へ声を細かく乗せる考え方を持っていました。

だから、原田さんの魅力を「高い声がきれい」で終えると大切な部分を見落とします。
音程を当てるだけでなく、一音ずつ違う和音の中へ置く。その感覚が、軽い声でも歌が平板にならない理由の一つです。

「キャンディ」の甘さは、単純な甘さではなかった

「キャンディ」は原田さんの親しみやすさを象徴する曲です。
しかし本人は、当時のアイドル的な見せ方に強く抵抗していました。テレビで自分を「歌手」ではなく「アーティスト」と紹介し、制作側を困らせたこともあったと語っています。

さらに「キャンディ」の歌詞によって、作り手としての自分より、甘い恋愛を歌う若いスターの像が強くなることにも戸惑いがありました。
それでも曲そのものは、一般的な歌謡曲の型に収まらない構成を持ち、本人が好んだ洋楽、映画音楽、ソウルの感覚が入り込んでいます。

ここに原田さんの歌声の核心があります。
表面は覚えやすく柔らかいのに、その下では曲の作りが素直に一方向へ進みません。声も、ただ甘く伸ばすのではなく、旋律と伴奏の細かな動きを渡り歩きます。

当時を振り返るファンの文章では、透明で爽やかな声を愛する見方と、早くからロック志向だったことを強調する見方が並びます。
意見が割れるのは欠点ではなく、両方が聞こえる歌手だった証拠です。

ピアノの人に見えたが、出発点はギターだった

原田さんといえば、ピアノを弾きながら歌う姿を思い浮かべる人が多いでしょう。
ところが本人によれば、最初に始めたのはギターで、ピアノに触れたのは高校生の頃でした。テレビではピアノを使うという見せ方を、デビュー時に戦略として決めたそうです。

この事実を知ると、声の印象も違って見えます。
鍵盤の上で端正に歌う人であると同時に、バンドの音を身体で組み立てるロック志向の人でもありました。

1978年の日本武道館では、デビュー曲を原曲とは大きく異なるギター中心のロックへ作り替えています。
本人は後年、デビュー時の音が本来目指したものではなかったため、初期曲を何度も編曲し直したと説明しました。

ピアノを弾きながら歌う原田真二

原田さんの声を理解するには、ピアノかギターかを決める必要はありません。
どの楽器を前へ出すかで同じ旋律の表情を変えられること、それに合わせて自分の歌う位置まで変えてきたことが重要です。

高音を地声かミックスボイスかだけで決められない

原田さんの高音を検索すると、地声、裏声、ミックスボイスといった言葉で説明したくなります。
ただし、本人が全楽曲の発声方法をその用語で公表しているわけではなく、外から声帯の動きを確定することもできません。

第三者の音域資料では、「キャンディ」「てぃーんず ぶるーす」「タイム・トラベル」で使われる高さや裏声の扱いに違いがあると整理されています。
これは、原田さんが一種類の高音を全曲へ当てはめていないことを考える参考にはなります。ただし、音域表だけで発声の仕組みまで断定はできません。

確認しやすいのは、高音の名前より役割です。
「キャンディ」では言葉の親しさを失わず、「シャドー・ボクサー」ではロックの推進力を担い、「タイム・トラベル」では物語の場面転換を運ぶ。同じ声でも、曲の構造に応じて前へ出る理由が違います。

草野マサムネさんの歌い方にも、軽く聞こえる高音を力の弱さだけで説明できない面白さがあります。
原田さんの場合はさらに、歌手本人が作曲と編曲の視点を持ち、声の後ろで鳴る和音まで設計していた点が特徴です。

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再録のたびに、同じ歌の立ち位置を変えた

原田さんは初期の代表曲を、ロック、アコースティック、オーケストラなど異なる形で録音し直してきました。
2011年の『OUR SONG』では、初期曲をフルオーケストラと共演し、レコード会社も「今だからこそ出せる声」を聴きどころとして紹介しています。

2017年の40周年作『PRESENCE』では、代表曲をスタジオライブ形式のロックアレンジで新録しました。
これは昔の声を再現する作業ではなく、同じ曲を現在の自分の音楽へ置き直す作業です。

歌声の変化を詳しく年代順に追いたい人は、原田真二さんの歌唱変遷もあわせて読んでみてください。
若い頃の甘い声が消えたのではなく、曲を編曲し直すたびに、声が担う役割も更新されてきたことが分かります。

真似するなら声色ではなく、曲の中で何が動いたかを見る

原田さんのように歌おうとして、甘い鼻声を作ったり、高音を細くしたりする必要はありません。
声色だけを似せても、原田さんが大切にした曲全体との関係が抜けてしまいます。

参考にしやすいのは、歌う直前に伴奏の変化を一つ見つけることです。
コードが変わったのか、楽器が増えたのか、リズムが細かくなったのか。その変化に合わせて、言葉を強くするのか、軽くするのかを考えます。

これは専門的なコード名を暗記する練習ではありません。
同じ音程でも、周囲の音が変われば同じ気分では歌えないと気づくための聴き方です。原田さんがASKAさんへ伝えた助言も、歌声を伴奏から切り離さないという点に価値があります。

無理に高音やかすれを再現し、痛みや強い違和感が出た場合は歌唱を中止してください。
不調が続く場合は耳鼻咽喉科などの専門機関へ相談することが大切です。

原田真二の甘い高音には、編曲家の耳がある

原田真二さんの歌声は、18歳の甘い声と、ロックを志した音楽家のどちらか一方では説明できません。
親しみやすい音色のまま、コード、リズム、楽器の動きへ細かく反応できたから、ポップスとして広く届きながら音楽の奥行きも失いませんでした。

ASKAさんへ伝えた「一音ごとに鍵盤が変わるのを思い浮かべる」という言葉は、その考え方を端的に示します。
原田さんは旋律だけを歌うのではなく、曲の中で起きている変化まで声に含めようとしたのです。

アイドルと呼ばれることへ抵抗しながら、アイドルとして愛された声も捨てなかった。
その矛盾を消さず、何度も編曲し直して自分の音楽へ育てたことが、原田真二さんの歌を今も面白くしています。

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