Fall Out Boyの「Sugar, We’re Goin Down」は、歌詞を一語ずつ確かめるより先に、サビの勢いに引き込まれる曲です。
ところが、あの歌い方についてパトリック・スタンプ自身に尋ねると、格好よく崩して歌ったという話だけでは済みません。
歌詞をどう歌うか、本人にも迷いが残っていたのでした。
彼の歌では、言葉の意味と、口に出したときのリズムがせめぎ合っています。
文章として整えるだけでは、あの歌にはならない。
2005年の『From Under the Cork Tree』に収められた「Sugar, We’re Goin Down」から、そのせめぎ合いをたどってみます。
あのサビでは、本人も歌詞に迷っていた
Fall Out Boyでは、ベースのピート・ウェンツが主に歌詞を書き、パトリックがそれに曲をつけています。
パトリックの役割は、すでにでき上がった旋律を歌うことだけではありません。
書かれた言葉を旋律にする段階にも、パトリックの仕事があります。
「Sugar, We’re Goin Down」のサビでは、ピートの原文が、パトリックの歌いたい旋律にうまく収まりませんでした。
同じ語を繰り返すなどして、歌いやすい音節数に調整したものの、それはピートが書いた形とは違う。
変更してよいのか確信を持てないまま歌ったことが、あの不明瞭な発音につながったと、本人は振り返っています。
つまり、聞き取りにくさのすべてが、最初から狙った演出だったわけではないのです。
それでも、その録音は曲の顔になりました。
歌詞を正確に伝えることと、歌として耳に残ること。その二つが、いつも同じ方向を向くとは限らない例です。
言葉が先にあるから、旋律も変わる

ただし、パトリックは歌詞を軽く扱う人ではありません。
本人は、意味のない仮の言葉で先に旋律を作るより、まず言葉があり、そこから歌を作るほうが自分に合うと説明しています。
ピートの歌詞から旋律が浮かび、別に作っていた伴奏と組み合わせることもある。
伴奏のリズムと、歌の旋律が、いつも一緒に生まれるわけではありません。
もともとドラマーだった彼は、旋律の多いFall Out Boyの音楽でも、リズムを大切にしてきました。
この作り方を知ると、長い文章を早口で処理しているだけ、という見方では足りなくなります。
言葉の長さが違えば、歌うための音の数や、伸ばせる場所も変わる。
その違いを、同じ長さの整ったフレーズへ直すばかりではないところに、彼の歌の面白さがあります。
読めば少し複雑な文章も、短く歌う音と長く伸ばす音がつけば、覚えやすい一節になります。
パトリックは声を出す前の、言葉をどう歌にするかという段階から、あの歌い方を作っているのです。
「Dance, Dance」で、分かりやすい言葉に直せなかった理由
同じ2005年の「Dance, Dance」でも、歌詞をめぐるやり取りがありました。
問題になったのは「falling apart in half-time」という、崩れていく感覚をリズムの言葉と組み合わせたような一節です。
プロデューサーのニール・アヴロンは、その意味が伝わりにくいと考え、別の言葉に変えようとします。
ところが、代案を試しても、元の言葉ほど歌にしっくりこなかった。
結局、その一節は残りました。
説明としては分かりやすくなっても、歌うと何かが失われる。
歌詞には、言い換えれば同じ意味になるというだけでは交換できない部分があるのでしょう。
どの音で始まり、どこに力が入り、どこで口が次の言葉へ進むかまで、旋律の一部になっているからです。
ここで残されたのは、難しい言葉なら何でもよい、という考えではありません。
実際に別の形を試したうえで、それでも元の歌い方を選んだという判断です。
パトリックの歌を支えているのは、立派な文章を完成させてから歌へ移すことより、歌ったときに生きる言葉を見つける作業なのだと思います。
高いサビは、一度に全部録らなかった
言葉の置き方が決まっても、それを勢いよく歌えるかは別の問題です。
「Sugar, We’re Goin Down」のサビは、パトリックにとっても高い音域でした。
アヴロンは歌声の勢いを保つため、曲中の各サビを別の日に録ったと説明しています。
一番のサビを歌った声のまま、休まず最後まで押し切った録音ではなかったのです。
完成した曲では次々に現れる高音にも、一回ずつ新鮮な状態で歌うための時間がありました。

一つの曲を通して聴けば、歌手がその数分間にしたことだけを思い浮かべがちです。
でもこの曲では、日を分けることまで含めて、どのサビにも勢いを残す歌い方を選んでいました。
複雑な言葉を旋律に収める工夫と、その旋律を歌い切る声の状態。その両方が、録音には必要でした。
彼が初期に自分の声を隠していたことや、ソロ活動で歌い方を広げていく過程は、パトリック・スタンプの歌声の変遷でたどっています。
きれいに整理しすぎない歌
2023年の「Love From The Other Side」には、初期の歌を考えるうえでも興味深いきっかけがあります。
マネージャーから、以前の曲にはもっと話が続いていくようなところがあった、と言われたことです。
パトリックはその言葉を受け、かつての曲にあった、文章がどんどんつながるような感覚を追いました。
長い言葉も、少し変わった言い回しも、整理すれば必ずよくなるわけではない。
「Sugar, We’re Goin Down」や「Dance, Dance」で起きていたことが、ここでも曲作りの力になっています。
パトリックの歌い方の面白さは、声の高さだけで説明するより、言葉を歌へ変える人として考えると分かりやすくなります。
読んだだけではつかみにくい文章に、口ずさみたくなる動きを与える。
そのために言葉を少し変えることもあれば、説明しにくい形のまま残すこともある。
最初は歌詞を追い切れなくても、もう一度あのサビを歌いたくなる。その感覚に、彼の仕事がよく表れています。
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