パニック!アット・ザ・ディスコの「Death of a Bachelor」では、ブレンドン・ユーリーが穏やかな声で歌い始め、サビでは伸びやかな高音を響かせます。
昔のナイトクラブに似合いそうな歌い方と、大きな会場を沸かせるような歌い方が、一曲の中にあるのです。
曲の出発点にはフランク・シナトラへの憧れがあり、完成へ導いたのはビヨンセを思わせるビートでした。
しかも、歌っているのは結婚によって終わる独身時代のこと。
親しみのある甘い声が、なぜあれほど華やかなサビへ進むのか。曲ができるまでの話から、歌い方のつながりが見えてきます。
シナトラ風の曲が、途中で行き詰まった
「Death of a Bachelor」は、2016年の同名アルバムに収められた曲です。
ブレンドンは当初、ピアノでシナトラのような曲を書こうとしていました。
歌い方もそのイメージに合わせていたものの、途中で曲作りが進まなくなります。
そこで役に立ったのが、以前に作っていた別のビートでした。
本人が挙げているのは、ビヨンセの「Drunk in Love」を思わせるもの。
そのビートとピアノの曲を合わせると、止まっていた曲が動き出したのです。
シナトラの歌を思い浮かべると、管楽器やピアノに包まれ、歌手が余裕をもって言葉を届ける場面が浮かびます。
一方、強いビートがあると、同じように柔らかく歌っていても、体を揺らして聴くポップスに近づきます。
「Death of a Bachelor」の甘い歌い出しに古い時代の雰囲気があっても、曲全体が懐かしさだけに落ち着かないのは、この成り立ちと結びつけて考えられます。
柔らかな声に強いビートが組み合わさると、サビで歌が大きくなっても、その勢いを伴奏が受け止められます。
昔の歌手を思わせる歌い出しと、ブレンドンらしい派手な高音。その両方を生かす曲が、こうしてできたのでした。
高い声に変わる前に、近くで語りかける
この曲の歌声は、滑らかな節回しと、サビで大きく広がる声の対比が特徴です。
ブレンドンの高音に注目すると、サビばかりを待ちたくなるかもしれません。
けれど、その前の落ち着いた歌があるからこそ、サビの開放感も大きくなります。
「Death of a Bachelor」では、まず一人の話を近くで聞くような時間があり、そこから感情が大きくなるように曲が進みます。
高い音へ届くことに加えて、声を大きく使う場面を後に残すことも、歌の見せ場を作っているのです。
シナトラの歌について、ブレンドンは子どもの頃の良い記憶とつながっていると話しています。
ブレンドンにとって、シナトラの穏やかな歌は安心したいときに聴く音楽であり、遊び心のある曲は楽しい時間をくれる音楽でした。
「Death of a Bachelor」にも、その親しみやすさへの憧れが感じられます。
落ち着いた声で歌い始めることで、聴き手はまず、歌う人の話に耳を傾けられる。
その人が次に大きく歌ったときにも、声の迫力と一緒に、話の続きを追うことができます。

「独身者の死」は、幸せな結婚の歌だった
曲名の「Death of a Bachelor」を直訳すれば「独身者の死」です。
物騒な題名ですが、ブレンドンが説明しているのは、結婚して以前の自分と別れ、新しい生活へ進むことでした。
誰かを失った悲しみではなく、愛する人と暮らすことで、一つの時代が終わるという意味です。
この背景を知ると、甘さと派手さの組み合わせにも理由が見えてきます。
相手への親しみを伝えるには、近くで話すような歌が似合う。
それと同時に、自分の人生が変わる喜びは、穏やかな声だけでは収まりきらない。
サビの大きな声を、そうした気持ちがあふれる場面として受け取ることができます。
同じ人が、親密な思いと大きな喜びの両方を歌っている。
歌い方の差が目立っても、曲の気持ちがばらばらにならないのは、この読み方なら分かりやすいでしょう。
ブレンドンは自分の生活の変化を、こんなに大げさで華やかな一曲にしていました。
何でも歌える声から、この曲に必要な声を選ぶ
アルバムを制作したジェイク・シンクレアは、ブレンドンの高い声も低い声も評価する一方で、選択肢が多いからこそ、作品の方向を決める必要があったと振り返っています。
できることが多ければ、それだけで歌がまとまるわけではありません。
制作では、歌とピアノだけでも成立することを大切にしていました。
後から音を加えて豪華にする前に、歌そのものに聴かせる力があるかを確かめる。
この順番なら、管楽器やビートが増えても、歌手が何を歌っているのかを中心に置けます。
「Death of a Bachelor」の高音も、単独で切り出せば、ブレンドンの強い声を示す見せ場です。
でも、穏やかな歌い出しから続けて聴けば、人生の変わり目を喜ぶ歌の盛り上がりになります。
同じ高音でも、そこへ来るまでに何を歌っていたかによって、意味が変わるのです。
この作品の後には、ブロードウェイの舞台で、自分とは別の人物として歌う経験も待っていました。
そこで歌への向き合い方がどう変わったかは、ブレンドン・ユーリーの歌声の変遷でたどっています。

甘い声で始めた話を、高音で大きくする
「Death of a Bachelor」の柔らかな歌と大きな高音をつなぐのは、結婚によって以前の自分と別れ、新しい生活を喜ぶという、一曲の話です。
シナトラへの憧れから生まれた柔らかな歌に、ビートが加わり、サビではブレンドンの声が大きく広がる。
その変化をたどると、親しみのある恋の歌が、人生の節目を祝う歌にまで膨らんでいきます。
あの高音が記憶に残るのは、届く音が高いからだけではないでしょう。
その少し前に、落ち着いた声で自分の話を聞かせていた人がいる。
大きなサビを聴いたあとで歌い出しへ戻ると、甘い声の部分も、同じ喜びの始まりとして聴きたくなります。
こちらの記事もおすすめ






コメント