屋比久知奈の歌唱変遷|7年ぶりのモアナで気づいた、昔の声と今の声

ステージナタリー/屋比久知奈インタビュー(2021年) シンガー
ステージナタリー/屋比久知奈インタビュー(2021年)

昔の歌声を聴いて、今の自分には出せない声だと感じる。
屋比久知奈は、7年ぶりにモアナを演じたとき、その寂しさと悔しさを味わったといいます。

2017年に『モアナと伝説の海』でデビューしてから、屋比久は『レ・ミゼラブル』などの舞台で経験を重ねてきました。
低い声や重みのある声も使えるようになった一方、デビュー作に残る声を、そのまま再現できるわけではなかったのです。

その変化を感じながら、続編では無理に昔の声を出そうとせず、自然に出てくる今の声を選びました。
この7年間で増えた声の選択肢と、モアナで使おうとした声をたどると、屋比久の歌唱の変化が見えてきます。

2019年の製作発表より「オン・マイ・オウン」、続いて全キャストの「ワン・デイ・モア」

2017年|自分の声を初めて客観的に聴いたモアナの収録

『モアナと伝説の海』が公開された頃、屋比久が本格的に歌のレッスンを始めてから、まだ約2年でした。
ミュージカルを意識して学び始め、歌のコンテストへの出場から、モアナ役のオーディションへ進んでいます。
歌うことは以前から好きでしたが、声優としての収録は初めての経験でした。

デビューにつながった2016年のコンテストでは、『ミス・サイゴン』の「命をあげよう」を選んでいます。
それ以前に出演したショーでも歌い、当時、最も練習を重ねていた曲でした。
慣れた曲で大舞台に挑むだけでなく、歌詞の強いメッセージにも助けてもらいたいという気持ちがあったといいます。
モアナ役に抜擢される前にも、一曲を繰り返し歌い、自分の中に蓄えてきた時間がありました。

モアナの初収録については、何も分からない中で、そのときできることを一生懸命注ぎ込んだと振り返っています。
台本を読み、役を理解しようとしながら、スタッフの助言で少しずつ直していきました。
自分の声を客観的に聴くことも初めてで、自分の声はこんなふうに聞こえるのかと驚いたそうです。

Seventeen-Web/屋比久知奈インタビュー(2017年)
Seventeen-Web/屋比久知奈インタビュー(2017年)。
画像出典:写真掲載元

その一方、歌の収録では、せりふよりも伸び伸びと歌えたと話しています。
『どこまでも ~How Far I'll Go~』では、海や風をイメージして歌いました。
故郷の沖縄で身近だった風景が、モアナの冒険する世界を思い浮かべる助けになったのです。

当時は、使える表現の幅を把握して選ぶというより、今できることを全部注ぎ込む段階でした。
それでも、歌の中の風景を自分の感覚とつなげられたことが、伸び伸び歌う手がかりになっていました。
後に同じ役へ戻ったとき、屋比久が思い出そうとしたのも、このまっすぐな向き合い方です。

2019~2024年の舞台|同じ役にも新しい表現を見つける

デビュー後、屋比久は映画の吹き替えに加えて、ミュージカルの舞台にも立ちます。
2019年の『レ・ミゼラブル』では、エポニーヌ役で『オン・マイ・オウン』を歌いました。
緊張はしていても、舞台に出た瞬間、自分がエポニーヌとしてそこにいると感じ、物語に入っていけたと振り返っています。

2021年に同じ役へ戻るときには、別の不安もありました。
2年前に十分掘り下げたつもりの役から、さらに進んだ表現を届けられるのだろうか。
しかし、実際に演じてみると、その間の経験や新しい共演者とのやり取りから、以前には見えなかったエポニーヌの一面が見つかりました。
一度作った役を再現するだけで終わらず、同じ作品にも新しい発見がある。
屋比久は、それが再演の面白さだと受け止めています。

2024年の『VIOLET』では、これまで歌う機会がなかったカントリーの音楽にも取り組みました。
大きなソロを歌い上げるというより、話の続きとして気持ちを次々に吐き出すような歌が、この作品の魅力だと考えています。
ただ、音の上下や言葉を入れるタイミングは難しく、好きだった作品を自分で歌うことで新たな課題にも出会いました。

同じ役を演じる三浦透子と、演技の方法が違うことも刺激になっています。
屋比久は、自分がやりやすい方法に向かいがちだからこそ、別のやり方も選びたいと話しました。
経験が増えた分だけ得意な表現を固めるのではなく、できることを自分で狭めずに試してみる。
モアナへ戻る年にも、舞台ではそうした挑戦を続けていました。

『VIOLET』――2024年、屋比久知奈出演回の公開ゲネプロから抜粋

7年ぶりの録音|使える声が増えても、昔の声には戻れない

2024年、屋比久は、この7年の経験から、少し低い声や、ドスの効いた声も出せるようになったと語っています。
歌にもせりふにも、経験で得た表現が出るようになっていました。
声をどう使うかだけでなく、言葉の発し方や、気持ちを声に乗せる方法にも、舞台で学んだことがありました。

何も分からなかった初収録と比べると、台本の読み方も、自分の表現の幅も理解できるようになっています。
収録前に何を準備できるのかも分かり、それまでの経験を自信として持てるようになった。
歌やせりふに使える声が増え、それを収録で試すための準備もできるようになっていました。

それでも、マイクの前に立つと、初収録の頃のような緊張が戻ったそうです。
舞台では相手とのやり取りから表現が生まれることに慣れていましたが、吹き替えは一人で録音する場です。
舞台で学んだ言葉の発し方や、気持ちの乗せ方を、その収録環境で生かしていく。
経験を持ち込めるようになったことと、初めての頃と同じように胸が高鳴ることは、両方ありました。

ただ、本人が感じた声の変化は、使える表現が増えたことだけではありません。
続編の収録にあたって、以前のモアナの楽曲を聴き直すと、今の自分では出せない声だと感じました。
あまり自分の声を聴き返すことがないという屋比久にとって、それは、過去の録音を通して気づいた変化でした。

声は少し低くなったとも話しています。
発声の仕方も変わったのかもしれないという、本人の実感です。
身についた表現を喜ぶだけではなく、昔の声に戻れないことへの寂しさもある。
同じ役を再び歌う機会が、その両面に目を向けさせました。

2024年|昔の声へ戻すより、今の声でモアナを歌う

『モアナと伝説の海2』で描かれるのは、前作から3年後のモアナです。
屋比久自身は7年を過ごしていて、歌う側にも、演じる役にも時間が流れていました。
最初は、成長を声で表すために、低い声にしたり、話し方を変えたりすることも考えたといいます。

しかし、オリジナルの映像を見て、考えが変わります。
モアナが走っているだけでも、すでに成長が伝わってくる。
そこへ自分から成長を示す表現を加えすぎるより、素朴さや優しさ、いつも全力で向かっていく姿勢を保つほうが、モアナの魅力に合うと感じました。

シネマトゥデイ/屋比久知奈インタビュー(2024年)
シネマトゥデイ/屋比久知奈インタビュー(2024年)。
画像出典:写真掲載元

収録では、覚えた声の出し方が自然に出てしまい、監督から、モアナから離れていると指摘されることもありました。
低い声や重みのある声を出せることと、その役で使うことは、同じではなかったのです。
屋比久は、自分の成長を出しすぎないように気をつけながら、自然な気持ちで収録に向かいました。

『ビヨンド ~越えてゆこう~』についても、無理に以前の声を出そうとするより、今、自然に出る声のほうが曲に合うと考えています。
前作の自分に近づけるだけではなく、今の自分が歌う意味を、声の中に残した選択です。

二つの歌で、モアナが抱いている気持ちも違いました。
「どこまでも」には、まだ知らない世界へ向かう憧れがあります。
一方の「ビヨンド」では、外へ進みたい気持ちと、守るものが増えたために簡単には踏み出せない怖さが重なります。
屋比久自身も、その間に大切な人やつながりを得て、役の迷いを以前より自分の感覚と重ねられるようになっていました。
昔の声に戻すことだけにこだわらなくても、今の声で伝えられる気持ちが、続編の歌にはあったのです。

そのうえで、音楽ディレクターや訳詞家と、言葉のはめ方、声の出し方、響きを細かく調整しました。
何も分からず一生懸命だった頃とは違い、試せる表現も、相談できる点も増えています。
それでも、完成した歌で聴かせたいのは、覚えた技術の多さではなく、モアナのまっすぐな気持ちでした。

2017年の屋比久は、そのときできる精いっぱいでモアナを歌いました。
2024年の屋比久は、使える声が増えたからこそ、どの声を使うか、何を加えすぎないかを考えて歌っています。
昔の声への寂しさを抱えながらも、今の声を選べたことに、7年間の歌唱の歩みが表れています。

「ビヨンド」での声の選択や、日本語の響きを整える工夫は、屋比久知奈の歌い方で詳しく見ていきます。

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