平手友梨奈の低めの歌声には、デビュー当時から強い印象がありました。
けれど、その声を「暗い」「クール」と覚えているだけでは、近年の歌の面白さを取り逃してしまいます。
ささやくような独白、外へ向けて放つ強い歌、恋を抑えて語る声。
低音の存在感を残しながら、曲の中で引き受ける役柄は広がってきました。
デビュー時から、声には年齢だけで説明できない陰影があった
2016年の「サイレントマジョリティー」で、まず印象を残したのは冒頭のソロでした。
低めで、どこか憂いを含む声。
当時取材を受けた平手は、ソロ曲「山手線」の振付担当者から山口百恵を思わせると言われたことを明かしています。
本人は名前を知っている程度だったといい、意識して歌唱をなぞっていたという話ではありません。
この出来事は、後の平手を考えるうえでも興味深いものです。
華やかな高音や大きな声で押し出す前から、低い声そのものが人物像を想像させていた。
聴き手がそこに大人びた表情を見つける一方、歌っていたのは、これから自分の表現を探していく少女でした。

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「角を曲がる」と「黒い羊」で、独白が近くなった
2018年公開の主演映画『響 -HIBIKI-』では、主題歌「角を曲がる」を歌いました。
翌2019年には東京ドーム公演で初披露され、同年10月にストリーミング配信が始まっています。
映画で生まれた歌が、単独の歌唱として観客の前に立つ機会を得たわけです。
この時期の声を考える手掛かりが、2019年の「黒い羊」です。
ピアノを背にした低めの歌い出し、ささやきに近い声、途中に入る語り。
大勢の声が重なるグループの曲でも、平手の一人称が近くに現れるような構造になっています。
「角を曲がる」と通じるのも、歌と独白の境目に人の気配が宿るところでしょう。
2019年末の『ミュージックステーション』では、「角を曲がる」をテレビで初披露しました。
一人に光を当てた舞台で、しなやかな動きと繊細な歌声を組み合わせ、歌詞も本人の手書き文字で表示しています。
グループの曲で一瞬現れる独白と違い、一曲を通して声と身体が一人の人物を描く。
この時期には、すでにソロの舞台へつながる形があったのです。
「ダンスの理由」で、声を外へ放つ
2020年12月の「ダンスの理由」は、ソロとしての再出発を告げる曲です。
平手自身も辻村有記、伊藤賢とともに作曲者へ名を連ね、制作の出発点から関わりました。
ここでは重厚な音に対して、がなりを思わせる荒さを含んだ歌声が前へ出てきます。
独白を近くで聴かせるだけでなく、声の強さで外側へ働きかける表現が、曲の中心になりました。
平手は後に、この曲をリスタートの曲として挙げています。
振付のAmamiやダンサーたちとの出会いも、この作品から始まりました。
ソロになる際には、ダンスだけでなく音楽でも、これまで触れてこなかったものに取り組みたいと考えていたそうです。
グループで得た表現を持ちながら、別の作り手と、新しい曲の中で声を使う。
活動の場が変わることを、音楽の選択肢を増やす機会にもしていました。
2021年の「かけがえのない世界」では、小気味よいダンス曲の中で、失った相手への思いを抱える人物を歌います。
テンポの軽快さと、気持ちの整理がつかない歌の内容が同居する曲です。
重い思いは重い音でしか表せない、というわけではない。
「ダンスの理由」の力強い再出発に続き、音の動きと内面の食い違いを見せる選択肢も加わりました。
2024年、強いダンス曲の次に、抑えた恋の歌を置いた
2024年10月の「bleeding love」を準備した際、当初はミドルテンポの切ない曲が想定されていました。
しかし制作側は、その時点で届ける曲の明るさや、平手が踊る姿を見せることを考え、方向を変えています。
アーティストの印象は本人の声だけで決まるものではなく、どんな曲と組み合わせ、いつ届けるかによっても変わります。
同年12月の「ALL I WANT」は、そこからぐっと落ち着いたR&Bのミディアムバラードでした。
GeGが手掛けた曲で、平手は恋のやりきれなさを抑えたトーンで表します。
強く訴えるだけでなく、言葉を内側に抱えたまま聴き手を引き寄せる。
同じ年の二曲に触れると、ソロの表現を激しいダンス曲一色に揃えていなかったことが分かります。
低い声のまま、もっと大胆な人物になれる
2025年の「イニミニマイニモ」では、さらに奔放な歌唱が現れました。
「ALL I WANT」で恋の感情を抑えていた人が、今度はダークなヒロインを堂々と演じる。
声で人物を立ち上げるところは共通していても、その人物の態度は大きく違います。
孤独を抱える姿に結びついてきた声が、自由に振る舞う役にもよく似合うようになったのです。
ここを、単に昔より明るくなったという変化にまとめると、かえって分かりにくくなります。
「ALL I WANT」と「イニミニマイニモ」は、どちらかがもう一方を卒業した歌ではありません。
抑える表現と大胆に演じる表現を、別の曲で使えるようになった。
一つの表情を深めてきた人に、隣り合う別の顔が増えたと捉えるほうが自然でしょう。
同年8月21日には、初のワンマンライブ「零」を開催しました。
新しいソロ曲に加えてグループ時代の曲やカバーも並び、「I’m human」も初披露しています。
過去の曲をすべて置いて新しい自分だけを見せるのではなく、異なる時期や作者の歌を、一人の表現として届ける舞台でした。
その一年後に全編オリジナル曲の武道館公演へ進んだことを考えると、この選曲は二つの時代をつなぐ位置にも見えます。
初アルバムで、一つの方向にまとめないことを選ぶ
2026年6月の初ソロアルバム『無表情な表情』では、その広がりが一枚に収まりました。
平手は、すでに発表した曲が多彩だったため、一つの方向性に限定する言葉はタイトルに合わないと考えたと話しています。
打ち合わせでもさまざまなジャンルをやりたいと伝え、最後に「あざ」を制作しました。
これまで取り組んでこなかった雰囲気へ、さらに挑戦するための曲でした。
「Shooting Star」の軽い声運びと、「俺らの未来」の力強いロングトーン。
同じアルバムの中に、言葉を滑らかに運ぶ歌と、一声を長く響かせる歌が並びます。
ジャンルの広がりが、声の使い方にも表れています。
同年8月20日の日本武道館公演「アナタタチノカルテ」は、全編がオリジナル曲で構成されました。
バンド、ダンサー、映像が加わり、曲ごとの世界を一つの舞台へつないでいます。
グループの冒頭で一人の声が耳に残った時代から、自分の曲の違いを並べて一夜を作れる段階へ。
作品が増えたことの意味が、ここにも見えます。

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平手友梨奈の変遷は、低い声を捨てて別人になる物語ではありません。
その声に結びつく役柄を、独白から強い訴えへ、恋の含みや奔放さへと広げてきた歩みです。
曲ごとの声の強さや息の使い方については、平手友梨奈の歌い方で掘り下げています。







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