96猫の歌声はどう変わった?「音程が来い」から英子・『WALK』まで

96猫の歌声の変化を初期投稿から英子役とWALKまでたどる記事のアイキャッチ 高い声の出し方

96猫さんの歌声の変遷は、低音が高音になったといった単純な変化では説明できません。
活動初期から声色の幅はありましたが、その使い方が「面白い声を見せる歌」から「曲の人物に必要な声だけを選ぶ歌」へ変わってきました。

出発点にあったのは、最初から完成された七色ボイスではありません。
投稿した歌へ音程を指摘するタグが付き、自分の録音を聴けば録り直したくなる時期がありました。

そこから、ネットで好きな曲を歌う人、オリジナル作品を作る歌手、アニメの登場人物の歌唱を担う表現者へと役割を広げています。
2026年のアルバム『WALK』までをたどると、変わったのは声の種類よりも、声を選ぶ理由だったことが見えてきます。

2006年から2014年、褒められなかった歌が「七色」の土台になった

96猫さんは、学生時代からネットへ歌を投稿してきました。
本人の振り返りでは、子どもの頃から歌うことは好きだったものの、周囲から歌を褒められるタイプではなかったそうです。

投稿を始めた後も、評価は称賛だけではありませんでした。
音程が不安定な歌へ「音程が来い」といった厳しい反応が付いた経験も明かしています。

ここで活動を止めず、一日に長い時間歌い続けました。
専門的な訓練を先に受けたのではなく、投稿し、反応を受け、もう一度歌うというネット発の反復が土台になっています。

2013年に公開された『吉原ラメント』のような作品では、歌だけでなく台詞や人物の気配まで一つの動画に入ります。
後年の「曲の中に人物を作る」方法は、突然生まれたものではなく、この時期の歌ってみた文化と地続きです。

当時から低い声と明るい声の落差は注目されていました。
ただし、変遷の出発点として重要なのは音域の広さより、上手くいかなかった歌も公開の場へ出し続けたことです。

2014年から2015年、録った直後の自分を信用しない歌い手になった

2014年頃の96猫さんは、自分の歌をまだ足りないと捉えていました。
録音した直後ではなく、二日ほど置いて聴くと、また録り直したくなると話しています。

これは単なる完璧主義ではありません。
歌っている最中の気持ちよさと、聴き手として受け取る歌の違いを、自分の中で分ける作業です。

同じ頃、声が変わった理由を尋ねられても、意識して変えたわけではないと答えています。
つまり、この時期の変化は「新しい声色を覚えよう」と計画して増えたものではありません。

録音して時間を置き、違和感があれば歌い直すうちに、曲に合わない癖が少しずつ削られました。
七色の声は、声真似のリストを増やした成果というより、録音のたびに別の正解を探した副産物だったと考える方が自然です。

この過程は、現在の歌い方を整理した96猫さんの発声分析にもつながります。
現在は人物を先に決める方法が明確ですが、その前には自分の声を聴き手の位置から見直す長い時間がありました。

2016年、メジャーデビューで「一人の投稿」からチーム制作へ移った

2016年、ミニアルバム『Crimson Stain』でメジャーデビューしました。
本人は、プロと一緒に動く機会が増え、今までできなかったことが可能になる一方で、責任も増したと振り返っています。

メジャーデビューでチーム制作へ進んだ96猫

それまでの歌ってみたは、自分が選んだ曲へ自分の解釈を持ち込める場所でした。
メジャー作品では、作家、演奏者、ディレクター、共演者と一つの曲を作るため、声の選び方に他者の視点が入ります。

同年のコラボ作品では、相手のまっすぐな歌い方に自分が寄せる場面と、相手が自分の柔らかさへ寄る場面を作りました。
自分の声を目立たせ続けるのではなく、曲の中で個性を交代させる発想が見えます。

さらに、20歳の時に歌った『MOTHER』を三年後に録り直した際、以前は格好よく見られたくて気取って歌っていたと語っています。
再録では、その格好よさを足すのではなく、素の自分で歌い直すことを選びました。

ここで起きたのは、技巧の増加だけではありません。
若い頃に必要だった鎧を、曲に必要がなければ脱げるようになった変化です。

2017年から2018年、アニメとキャラクターが声の役割を広げた

2017年の『嘘の火花』は、96猫さんにとって初のアニメオープニング曲になりました。
ネットの歌ってみたで知られた声が、作品世界の入口を担う声へ移った節目です。

アニメ作品の入口を担う歌声へ進んだ96猫

翌2018年のキャラクターとのコラボでは、普段のシリアスな声でも、勢いだけのコミカルな声でもない位置を探しています。
子どもが一緒に歌える人物を想像し、幼い声を「年齢を忘れて別の人になる」ことで作りました。

初期にも台詞や声色の遊びはありましたが、この時期には遊びが仕事上の役割へ変わっています。
面白い声を入れるだけではなく、誰が聴く曲なのか、どの作品の誰が歌うのかという条件から声を逆算するようになりました。

これは、Reolさんがソロとユニットを通じて声の役割を変えた過程とは別の進み方です。
Reolさんが音楽の設計者として前へ出たのに対し、96猫さんは自分以外の人物を声の中へ住まわせる方向へ表現を広げました。

2022年、月見英子を歌うために「96猫らしさ」を削った

『パリピ孔明』では、月見英子の話し声を声優が、歌唱を96猫さんが担当しました。
一人の人物を二人で成立させるため、歌が上手いだけでは足りません。

最初は英子をかわいらしく捉え、自分が出せる最大限のかわいさで収録しました。
しかし現場から求められたのは、もっと強く、エネルギッシュで、周囲を突き抜ける歌声でした。

修正では声をただ大きくしたのではありません。
地声からどのくらい上げるか、弱さと強さをどのように残すか、高い声をどう維持するかを決め、自分の癖を削っています。

普段は使うことのあるビブラートも抑え、まっすぐな歌へ寄せました。
かつて声色の多さで知られた歌手が、自分の色を減らすことで最も大きな役を成立させたのです。

この転機によって、96猫さんの歌声は別人のような声を見せる段階から、同じ人物を複数の曲で保つ段階へ進みました。
声の幅を横へ広げるだけでなく、一つの役を長く縦へ掘る経験になっています。

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2023年から2026年、過去の歌ってみたを「今の声」で歩き直した

英子役以後も、96猫名義の活動は止まりませんでした。
2024年から2025年にかけて『96猫の足跡』を三作発表し、過去から親しまれてきたカバー曲と現在の声をつなぎ直しています。

2026年のアルバム『WALK』には、書き下ろしのオリジナル曲だけでなく、『吉原ラメント』『からくりピエロ』『WAVE』など、歌い手としての時間を連想させるカバーが並びました。
初回盤には、そらるさん、天月さん、P丸様。とのコラボも収録されています。

ここで過去を卒業せず、昔の選曲を現在の作品へ戻している点が重要です。
メジャーデビューやアニメ歌唱を経ても、ネットで曲を受け取り、自分の声で返す原点を切り離していません。

初期は、何度も歌って声の可能性を偶然増やしました。
現在は、その増えた選択肢から、曲や相手に合う声を意識して配置できます。

変わらず残ったのは、完成を宣言せず、過去の曲にももう一度向き合う姿勢です。
変わったのは、録り直したいという違和感を、作品全体の設計へ使えるようになったことでした。

まとめ

96猫さんの歌声は、音域が一方向へ伸びたのではなく、声を選ぶ理由が変わってきました。
初期は投稿と反応を繰り返し、録った歌を時間を置いて聴き直すことで、自分の中の選択肢を増やしています。

2016年のメジャーデビュー後は、共演者や制作陣へ声を合わせる力が育ちました。
2022年の英子役では、自分らしさを足すのではなく削ることで、一人の人物を複数の曲にわたって守っています。

そして2026年の『WALK』では、初期から親しまれたカバーと新曲を同じ作品へ置き、約二十年の活動を歩き直しました。
「音程が来い」と言われた投稿者から七色ボイスになったのではなく、録っては選び直した人が、七色を必要な場所へ置ける歌手になったのです。

同じ歌い手文化から長く活動する人との違いを知りたい場合は、まふまふさんの初期から活動再開までの歌唱変遷も参考になります。

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