チノ・モレノの歌を、叫び声と静かな声の二種類に分けるだけでは、面白いところを取りこぼします。
低く歌う音域の選び方、声を重ねる発想、言葉より先に生まれるリズム、録音で声に加える響き。
DeftonesやCrossesの制作をたどると、声を曲の中へ置くための、いくつもの選択が見えてきます。
言葉の前に、声のリズムと旋律がある
チノは、完成した歌詞を用意してから曲へ当てはめる方法を取っていません。
音楽を聴いて浮かぶ旋律やリズム、声のパターンを先に作り、そこから言葉を育てていきます。
歌の最初の材料は、演奏に触れた時の反応です。
Crossesの「Pleasure」では、この順番がはっきり表れています。
共作者のショーン・ロペスが作った電子音のループを聴いたチノは、すぐに歌を試し、最初に出た旋律が完成形にも残りました。
言葉が決まる前に、声の入る場所や動き方が見つかっていた曲です。
この作り方を知ると、歌詞を追う時にも、音の並びへ注意を向けられます。
どこで言葉を詰め、どこを長く保ち、演奏の動きに対して声がどう入るか。
文章としての意味に加え、声を置く時間そのものが、曲の感情を形にしていると考えられます。
「Locked Club」では、車でデモを聴きながら、言葉になる前の歌い回しを携帯電話へ録音しました。
Deftonesのドラマー、エイブ・カニンガムが説教師を思い浮かべたという独特の調子も、そうした試みから生まれています。
整った旋律だけでなく、語るような勢いや間も、チノにとって歌の材料なのです。
声の収まり方は、曲の構成にも関わります。
チノは、ギタリストのスティーヴン・カーペンターのリフを編集し、自分の歌が入る形へ整えることがあると話しています。
出来上がった伴奏の上で発声を工夫するだけでなく、どれくらい同じ演奏を続け、どこで移るかも、歌う立場から考えているのです。
ざらつく声と、録音で作る響きを分けて聴く
「Ohms」の制作を説明した時、チノは自分の声のざらつきを好んでいると話しています。
さらに、オーバードライブで粗さを加え、短く跳ね返るディレイを重ねて、響きをなじませると説明しました。
その釣り合いが取れると、自分にとって歌いやすくなるそうです。
録音で耳にする声には、本人の声と、それをどう聴かせるかという音作りの両方があります。
ざらついて聴こえる部分を全て、喉だけで作っていると考える必要はありません。
一方で、加工があるから歌い方を見なくてよいわけでもなく、もとの声と周囲の響きがどう組み合わさるかが大切になります。
粗い輪郭を残しながら、余韻で音楽へつなぐ。
本人の説明には、声を明瞭に切り離すことだけを目指さない好みが表れています。
音を伸ばした時の輪郭と、その後ろに残る響きを分けて意識すると、声の存在感を作る仕組みも捉えやすくなります。
「Ohms」では、サビが曲を別の感情へ運ぶことも意識しています。
荒れた状況を受け止める歌から、互いのつながりを肯定する方向へ移ることで、曲の終わりには希望が残ります。
同じ声の質感を保っていても、歌が向かう先は変えられるのです。
一人の声に、別の旋律を重ねる
『Ohms』の「Ceremony」などでは、当時のベーシスト、セルジオ・ヴェガと一緒にハーモニーを探しました。
チノ一人が歌を完成させてから伴奏に乗せるだけでなく、その場で互いに歌い、相手の反応を受け取っています。
主旋律に何を重ねるかにも、メンバー同士の感覚が働いていました。
チノは、大きなギターの上で歌う楽しさを認めたうえで、Crossesでは強弱や歌い方をさらに試せると感じていました。
音楽の編成が変わると、声に空いている場所も変わります。
激しい演奏の中で声を届ける時と、電子音の隙間を使える時とでは、選べる表現にも違いがあるのです。
Crossesでは、声を重ねる自由をさらに感じていました。
Deftonesではライブで再現できるかを考えることがある一方、この活動ではその心配に縛られず、ハーモニーを試せると話しています。
ロペスが鍵盤で音を探し、一緒に声の組み合わせを考える場面もあります。
同じ主旋律でも、別の高さの声が寄り添えば、聴こえる感情は変わります。
声の厚みだけでなく、明るさや不穏さ、曲の中で感じる空間にも関わる選択です。
チノの声を一つの線として追った後に、その周囲でもう一つの声が何をしているかを聴くと、ボーカルの役割を広く捉えられます。

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声の高さと、歌う人物の態度を選ぶ
「Protection」では、カバーで発見した低音を使っています。
他人の曲を歌う経験が、自分の声の新しい使い道につながりました。
ロペスは、そうしたとても低い声を気に入っていました。
歌っている人がチノだとすぐには分からない反応もあり、本人はそれを肯定的に受け止めています。
いつもの印象へ戻すより、曲が引き出した違いを生かそうとする選択です。
低く歌うことと、感情を薄くすることは別です。
高く張る声とは違う重さや距離感を作れれば、少ない動きでも歌は印象に残ります。
音域の上下を上手さの順位に置き換えず、その高さだから成立する曲の表情を聴きたいところです。
「Initiation」では、不気味な音楽に対して、自分を制御できているような歌を求めました。
苦しみに飲まれる声へ向かうのではなく、その場を掌握する感覚を選んでいます。
音楽の空気と、歌う人物の態度を分けて考えることが、ここでは効いています。
不安を感じさせる伴奏の中で、声はどう振る舞うのか。
声の高さや強さに加えて、その声が状況を受け止めるのか、押し返すのかという違いも、聴く手掛かりになります。
最初の歌を残すか、別の歌い方を探すか
チノは、最初に浮かんだ歌をそのまま正解にはしていません。
『Ohms』期には、自然に出た案をいったん置き、別の角度を試してから比べることもあると話しました。
プロデューサーのテリー・デイトが急かさずに付き合う環境は、その試行を支えていました。
最初の反応が曲に合う場合もあれば、簡単に出てきたからこそ、もう一度考えたい場合もあります。
先にあるのは、力強く歌う、静かに歌うといった固定の答えではありません。
別の案と並べた時に、その声が曲の何を伝えているかが、選ぶ理由になります。
チノの歌い方を捉えるには、声そのものと、旋律、リズム、重ね方、音作りをつなげて聴くことが役立ちます。
激しさの隣にある静けさにも、低い声の中の存在感にも、それぞれ選ばれた理由があります。
そうした選択が増えてきた歩みは、チノ・モレノの歌唱変遷でたどっています。

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