織田哲郎の歌い方|自分で作った曲でも、自分の声に合うとは限らない

織田哲郎 — 2017年のインタビューより シンガー
2017年のインタビューより。撮影:Jumpei Yamada/Billboard JAPAN

織田哲郎は、他の歌手へ書いた曲を、自分でも数多く歌っています。
それなら、作曲した本人の歌が、その曲のいちばん自然な姿なのでしょうか。
彼の話をたどると、そう簡単には言えません。
作りたい音楽があっても、自分の声で歌うと、思ったような雰囲気にならなかったことがあるのです。

歌える音の高さだけでなく、声が持っている印象も、曲と歌手の相性を決める。
織田の歌い方を知るには、他人のために作った曲と、自分のために歌い直した曲の違いが手がかりになります。
織田本人の歌として広く知られているのが、1992年の「いつまでも変わらぬ愛を」です。
この曲は、2018年の中国・武漢での公演でも歌っています。

自分で歌うと、妙に立派になってしまう

織田が相川七瀬と音楽を作り始めた背景には、自分の声についての悩みがありました。
やりたかったのは、T・レックスやブロンディのように、耳に残るメロディーと少し怪しげな雰囲気を持ったロック。
隅々まで立派に仕上がっていることより、どこかいかがわしく、思わず振り向いてしまうような面白さを求めていました。

ところが、自分で歌うと、必要以上にもっともらしくなってしまう。
本人は、そのように振り返っています。
歌に説得力があることも、欲しいのが軽さや危うさなら、狙いから外れるのです。

ここで問題になっているのは、織田にロックを歌う力がない、ということではありません。
同じ旋律を歌えても、声の主が変わると、その言葉をどんな人が口にしているのか、という印象まで変わります。
織田が欲しかった種類のロックには、彼とは違う歌手の存在が必要でした。
その相手が、相川七瀬だったのです。

織田哲郎 — 2017年のインタビューより
2017年のインタビューより。
撮影:Jumpei Yamada/Billboard JAPAN

作曲家なら、自分の声で何でも完成させられるように思いがちです。
けれど、曲を作る想像力の広さと、自分の声が似合う範囲は、同じではありません。
織田が他の歌手と組むことは、その違いを生かす方法でもありました。

相川七瀬が、織田の歌に近づこうとしたら

面白いのは、後に逆向きの出来事が起きていることです。
2015年、相川は織田の作品を歌うアルバム『Treasure Box -Tetsuro Oda Songs-』を制作しました。
そこには、織田自身の「いつまでも変わらぬ愛を」も入っています。

相川は、原曲の良さを大切にしようとしました。
しかし、その方針で作ったものに対して、織田は、相川の歌の勢いが薄れていると指摘します。
彼女の持ち味を生かすには、きれいに原曲へ寄せるだけでは足りなかったのです。
相川は、この指摘を受けて制作をやり直したと話しています。

原曲に敬意を払っているのに、なぜそれではいけないのか。
原曲でうまくいった伴奏や歌の雰囲気が、そのまま別の歌手の良さを引き出すとは限らないからです。
「いつまでも変わらぬ愛を」が織田の声で成立していても、相川まで同じ方向へ近づければ、彼女の声を選ぶ面白さが減ってしまう。

織田自身も、提供曲を自分でカバーするときは、自分が歌い直す意味を考えていたそうです。
自分で書いた曲だから、そのまま歌えばよいとは扱っていませんでした。
歌い直すたびに、今度の歌手に似合う形を探す。
その歌手が自分であっても、同じなのです。

相川の勢いや言葉の強さについては、相川七瀬の歌い方でも掘り下げています。

「恋心」を、弦楽器と一緒に歌う

では、織田自身は提供曲をどう歌い直しているのでしょう。
弦楽器を交えたライブシリーズ「幻奏夜」では、よく知られた曲の伴奏を組み替えています。
2026年の公演では、WANDSの「世界が終るまでは…」をピアノによる静かな演奏で歌い、相川の「恋心」では弦の響きを取り入れました。

織田哲郎 — 2026年「幻奏夜Ⅹ」より
2026年「幻奏夜Ⅹ」より。
撮影:Masanori Naruse/Real Sound

「恋心」は、最初から最後まで同じ強さで押し通す演奏ではありません。
この公演では途中から打楽器が加わり、曲が進むにつれて伴奏の勢いが増していきました。
歌手が声を大きくすることだけに頼らず、周りの楽器も、感情の高まりを作っていたわけです。

こうした歌では、原曲を知っていることが楽しみになります。
同じメロディーなのに、なぜ今回は違う場面を思い浮かべるのか。
歌声だけでなく、声の後ろに聞こえる楽器や、演奏が強くなる場所にも、その理由があります。

織田が歌えば、相川の録音と違う声になるのは当然です。
さらに伴奏まで変えることで、原曲とは声が違う、というだけでなく、曲全体の盛り上がり方も変わります。
織田はメロディーを保ちながら、歌う自分を支える演奏を組み替えているのです。

同じシリーズでも、曲ごとに声と楽器の関係は異なります。
2021年の横浜公演を伝えたレポートでは、「CAFE BROKEN HEART」の甘い歌声と、「恋心」で伴奏に乗せた緩急のある歌声が、それぞれ印象的な場面として取り上げられています。
弦楽器と歌うから、どの曲も同じ穏やかな表現になる、というわけではありません。

その日の「世界が終るまでは…」では、最後のサビで弦がビブラートを響かせるアレンジも紹介されています。
歌を聴いていて感情が大きく動くとき、声のすぐ後ろで楽器も響きを変えている。
歌手がどこを強めるのかと、伴奏がどこで広がるのかを一緒に追うと、織田のセルフカバーをより細かく楽しめます。

自分の声を重ねて、伴奏から作る

弦楽器の奏者と歌う一方で、織田は一人で音を重ねる演奏にも取り組んでいます。
2021年の「天上天下唯我独奏」は、その試みです。
リズムや楽器の音を録音して繰り返し鳴らし、そこへ別の演奏を足していく。
自分のコーラスも重ね、一人で伴奏を組み立てながら歌います。

これは、あらかじめ出来上がった伴奏に、最後に歌だけを乗せるやり方とは違います。
自分の声を前もって重ねれば、伴奏の中にも自分が歌った音が残る。
その上で主旋律を歌うので、一人の声が、目立つ歌と、歌を支えるコーラスの両方を担います。

織田の歌い方には、この「周りの音も自分で考えられる」という特徴があります。
声だけを取り出して、太い、かすれている、高い、と言うだけでは見えてこない部分です。
同じ声でも、弦楽器の中で歌うのか、自分のコーラスと重ねるのかによって、歌の聞こえ方は変わります。

曲の作者が、歌い手として選び直す

織田のセルフカバーを、作曲家による答え合わせとして聴くと、原曲とどちらが正しいのかを比べたくなるかもしれません。
でも、相川との制作の話が示すのは、むしろ、歌う人が変われば作り方も考え直すという姿勢です。

織田の声に似合った演奏が、相川の声にも似合うとは限らない。
織田が自分で歌うときも、他の歌手の成功した形をそのまま借りる必要はありません。
「恋心」の弦や、「天上天下唯我独奏」の重ねた声は、自分が歌うために選んだ方法です。

自分で作った曲でも、自分の声に合うとは限らない。
だからこそ、織田が歌い直した曲には、メロディーを知っている人にも新しく楽しめる余地があるのです。
声そのものの変化と、歌への向き合い方を時代順に追った記事は、織田哲郎の歌声の変遷にまとめています。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました