鈴村健一の歌い方|力強さと親しみやすさを支える、声と言葉の選び方

鈴村健一/2018年『Going my rail』取材の掲載写真 シンガー
鈴村健一/2018年『Going my rail』取材の掲載写真

鈴村健一の歌には、人を呼び込む親しみやすさと、言葉を前へ押し出す力があります。
その力をずっと同じ強さで使うわけではありません。
音を細かく刻む時、長く伸ばす時、役の声を保つ時で、歌に必要な働きを選び直しています。

力強い声にも、柔らかな手触りを残す

2022年の「ぶらいと」豊洲PIT公演では、力強く伸びる歌声と、芯を包むまろやかさが公演の記録に残っています。
強さがありながら、聴き手へ厳しく迫る印象だけにならない。
鈴村の歌の親しみやすさを考えるとき、この響きの両面は大切です。

たとえば、2012年の「シロイカラス」は、強いギターの響きに高い歌声を合わせるロック曲です。
発売時の作品評でも、ストイックな高音のボーカルが特徴として挙げられています。
穏やかな曲での印象とは違う、緊張感を持った声を知る一曲です。

2019年1月の「WARAUTA」でも、「シロイカラス」の芯のある歌声が印象に残る場面として記されています。
同じ公演で、思い出のメールに応えるメドレーは、言葉をじっくり届ける時間になりました。
声を前へ押す曲と、聴き手の記憶に寄り添う曲を、一つの舞台で行き来するのです。

鈴村は、声を長く使うことについて、響きをどこへ当てるかを狙い、コントロールする感覚を重視しています。
2022年に芝居の声をめぐって語った話ですが、ただ強く出せばよいと考えていない点は、歌い方を理解する手掛かりにもなります。
出したい声に合わせて、自分の体の使い方を選べることが、表現の土台にあるのです。

鈴村健一/2022年4月2日「ぶらいと」豊洲PIT公演
鈴村健一/2022年4月2日「ぶらいと」豊洲PIT公演。
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長く伸ばせる声を、細かなリズムへ置き直す

鈴村自身が、歌の難しさを具体的に説明したのが、結城千春役で歌った「恋のクロスオーバー」です。
Bメロは細かくリズムを刻み、サビは長く声を伸ばせる作りで、苦労したのは前者でした。
同じ声でも、音を保つことと、短い単位で区切って拍へ置くことでは、必要な操作が違います。

対になる「Hereafter〜ほんとのきもち〜」では、AメロとBメロにためを作り、サビで大きく展開する構成を、本人も気持ちよく歌えたと話しています。
速い曲だから軽く、バラードだから弱く、という単純な分け方ではありません。
どこで細かく動き、どこで伸びやかに歌えるかが、曲の中にもあるのです。

ソロの「My Life Summer Life」では、夏らしいリズムに軽やかな歌声が重なります。
ただ賑やかなサンバへ振り切らず、ロックの要素や、なめらかな旋律も残した曲です。
この曲では、勢いに乗る楽しさと、旋律を歌として届ける感触が共存しています。

歌い出しの強さは、浮かべる景色から生まれる

「救急戦隊ゴーゴーファイブ」のカバーでは、歌い始めに力が入る感覚を大事にしました。
鈴村が思い描いたのは、誰かを助けようとするヒーローです。
石原慎一の原曲を技術ごと写すより、長年聴いてきた記憶と、自分にできる歌い方を重ねたと説明しています。

自作詞の歌でも、視覚的なイメージを浮かべて歌うという鈴村。
どこへ力を置くのかは、その言葉を誰が、どんな思いで言うのかと結びついています。
声量を一律に上げることと、歌い出しに意志を込めることを分けて考えると、このカバーの狙いが見えてきます。

イヤミの声でも、旋律と音程は手放さない

「SIX SAME FACES 〜今夜は最高!!!!!!〜」では、イヤミらしい声を保ちながら、台詞のような言葉を旋律へ乗せています。
本人が重視したのは、少し崩して遊びつつ、音程を守り、ファンクの音楽として成立させることでした。
役の面白さだけを押し出せば、曲の流れが崩れる可能性がある。
声の個性と、音楽の骨組みを両方残す選択です。

普段なら歌わなそうな人物を、その声のまま歌わせるほうが難しいとも語っています。
イヤミは、いかにも歌いそうな人物だったから想像しやすかった。
歌う人の姿が浮かぶことは、どれほど崩してもその人物でいられるかを考える助けにもなっています。

別の役では、声に求められる温度も変わります。
「Secret Dreams」で共演した宮崎遊は、鈴村がアヴィらしさを保ちつつ、曲の洒落た雰囲気や、少し物憂い感じも出していることに感心していました。
イヤミのように弾ける方向だけでなく、人物の声を残して気分の陰影を加える。
キャラクターを演じることと、楽曲を歌うことの両立が、共演者にも伝わっていたのです。
このデュエットには、二人のハスキーな声の掛け合いを聴きどころに挙げる作品評もあります。
声にざらつきを感じさせる質感は、人物の存在感と、物憂い曲の空気を一緒に味わう手掛かりになります。

静かな歌では、声を届かせる方法が変わる

ソロの静かな表現を知るには、「フタリジカン」や「月とストーブ」も外せません。
2011年のアコースティック公演では、前者の優しく伸びる歌唱と、後者のしっとりした歌が対になっていました。
柔らかく歌う場面にも、声を十分に伸ばして届ける余地があります。

「月とストーブ」の2018年のLive Arrange Versionは、宇田隆志のピアノと一緒に一発で録音。
大サビまではピアノだけで進む、ライブでの形を残しました。

2017年の豊洲PIT公演を見たRoti Susuは、「夕暮れタイムトラベル」の裏声と、「月のうた」のビブラートを聴きどころに挙げています。
張りのある声で押し通す以外にも、声の質感を切り替えたり、伸ばした音に揺れを加えたりする表現がある。
同じバラードの時間でも、曲によって異なる声の動きへ耳を向けられます。

バンドと歌う鈴村健一/2023年10月8日「ROOTS」パシフィコ横浜公演(撮影:草刈雅之)
バンドと歌う鈴村健一/2023年10月8日「ROOTS」パシフィコ横浜公演(撮影:草刈雅之)。
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一方、「brand new」や「フランケンシュタイナー」では、開放的な曲や踊れる曲の中に、親しみを感じさせる歌いぶりがあります。
穏やかな曲だけが、鈴村らしい近さを生むわけではありません。
聴き手へ声を投げかけ、一緒に動ける明るさも、その近さの一部なのです。

鈴村健一の歌い方を聴き分ける手掛かりは、声の強弱に加え、長くつなぐか、細かく刻むか、どの言葉に力を置くかという選択です。
ロックの張り、バラードの伸び、役の声で遊びながら旋律を守る感覚を並べると、親しみやすさを支える具体的な仕事が見えてきます。
その歌がライブを通じてどう育ったかは、鈴村健一の歌声の変遷へつながります。

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