蛇石マリナ(Mardelas)の歌声の変遷|強い声から、曲ごとの響きとリズムを選ぶ歌へ

2015年の取材に掲載されたMardelas/右から2人目が蛇石マリナ シンガー
2015年の取材に掲載されたMardelas/右から2人目が蛇石マリナ

蛇石マリナの歌は、高く強い声を手に入れたところで完成したわけではありません。
Mardelasで過去の曲を歌い直し、感情を声へ結びつけ、曲に合わせて響きやリズムを選ぶ。
その積み重ねが、同じ歌手の声に違う表情を与えてきました。

変化を知る手がかりになるのは、初期の録音と、後年の再録をめぐる本人の言葉です。
新しい録音なら、何もかも良くなるとは限らない。
以前の歌にしかないものとも向き合いながら、今の自分にできる歌を探してきた歩みをたどります。

高音への憧れから、Mardelasで自分の歌を作るまで

大学でメタルに出会うまで、マリナは高い声で歌える人を、特別な存在だと考えていました。
ところが、身近な先輩たちが実際に歌っている姿を見て、距離が縮まります。
同じ大学で出会った及川樹京にも声を買われ、浜田麻里や陰陽座の曲を歌う機会を得ました。

及川との最初のバンドは、作品を世に出す前に終わっています。
その後、DESTROSEで活動したマリナは、再び彼と曲を作り始めました。
2014年に動き出したMardelasへつながる再会です。

2015年の『Mardelas I』では、すでに力強い歌がバンドの中心にあります。
発表当時の評者、新垣信哉も、声量と表情の豊かさを評価していました。
つまり、その後の変化を、弱かった声がようやく強くなった過程として捉えるのは適切ではありません。
最初からあった存在感を、どう使い分けていくかが次の課題になります。

2016年――同じ曲でも、周囲の演奏が歌を動かす

『Snake to Revive』では、DESTROSE時代の自作曲をMardelasで録り直しました。
マリナは録音時、自分のモニターではクリックを聴かず、ドラムやベースの演奏から気持ちを受け取っていたと話しています。
自分が以前に歌った曲だからこそ、どこまで元の形を保ち、どこを変えるかが難しかったのです。

クリックは、演奏の拍を示す基準音です。
この話で大切なのは、録音全体にクリックがなかったということではなく、歌い手が何を聴いていたかです。
拍の位置だけを頼りにする時と、伴奏の演奏の動きを受け取る時では、歌う際の意識の向き先が違う。
マリナにとって再録は、自分の声だけを取り替える作業ではありませんでした。

2018〜2019年――物語を歌い、感情を声へ近づける

2018年の『Mardelas III』は、新宿歌舞伎町を舞台にした人間ドラマを描きます。
マリナが歌いたかったのは、誰が正しく誰が悪いかで割り切れない、登場人物たちの葛藤でした。
「World vs Honor -仁義なき世界-」も、強さを誇るだけの歌には収まりません。

この作品の歌を評した羽田幸一は、幅広い音域を堂々と扱うところを魅力として挙げています。
高音の迫力を残しながら、物語の感情も担う。
歌が引き受ける内容は、声の強さだけでは説明できないものになっていました。

翌2019年の『Ground ZERO』に入った「Coma」では、その課題が録音の内側へ進みます。
マリナは、クライマックスを本当に泣きながら歌ったと明かしています。
感情だけでも技術だけでも届かないと考えていた彼女にとって、自分の感覚に寄り添えたこの録音は、表現の限界を一つ越えた実感のあるものでした。

物語の中の人を歌うことと、自分の中から湧く感情を声へつなぐこと。
この時期の二作品には、その両方があります。
歌詞の題材が変わっただけでなく、歌い手が曲に向き合う時の距離も、考える手がかりになります。

2023年2月25日、池袋Club Mixa/メガホン型マイクを使う蛇石マリナ
2023年2月25日、池袋Club Mixa/メガホン型マイクを使う蛇石マリナ。
画像出典:画像掲載元

2022年――発声の土台を保ち、曲ごとの選択を増やす

『Mardelas IV』の制作で、マリナは発声そのものは従来どおりだったと説明しています。
一方、「Expendable」では加工した声や台詞も試し、歌の見せ方を広げました。

「String of Life」では、R&Bの感触を取り入れるため、作詞の時点で言葉を詰め込みすぎないようにしています。
歌う直前に声色を替えるだけでなく、間合いを取れる曲を自分で用意する。
表現の選択が、曲作りとつながっています。

この変化は、以前の声を捨てて別人のように歌い始めた、というものではありません。
強い声を軸にしたまま、言葉の量や声の加工まで使えるようにする。
歌手としての個性を固定するより、曲の違いが伝わることを大切にした広がりです。

2023〜2024年――振り幅を、ステージの中でつなぐ

2023年11月の「Snake to the Fire Tour」最終公演では、「ICE-PICK」の速く畳みかける歌から、「蛇に牡丹 -snake & peony-」の歌謡曲的な情緒までが、一つの舞台に並びました。
「String of Life」の重みのあるバラードも含め、歌い方の違う曲を連続して届ける姿がありました。

「ICE-PICK」/2023年のスタジオ録音。

2024年の「RE-IGNITE」では、初期の曲と近年の曲を二日間に分けて披露しています。
本人が目指したのは懐古ではなく、今の音で古い曲を届け直すことでした。
及川はシンセの編曲も見直しており、昔の曲の印象が変わった理由を、すべて歌声の変化に帰すことはできません。

歌は、伴奏との関係の中で聴こえます。
初期曲の声が以前より大きく感じられたとしても、音の重なりや編曲が変われば、受け取る印象は変わる。
そこで次に確かめたいのが、歌い手自身は何を変えたと考えているかです。

2025年の再録――リズムを磨いても、初録音は消えない

『Brand New Best 2025』は、過去曲をそのまま並べたベスト盤ではありません。
全22曲に再録やリミックスなどが施され、曲名には「2025 RELOADED」と付いています。
同じ題名でも、最初に発表された録音とは分けて聴きたい作品です。

「Bullseye」は、2018年の原曲から、Aメロにラップに近いリズム、サビにまっすぐな旋律を組み合わせた曲でした。
2025年に突然リズムのある歌へ作り替えたのではなく、もともとの曲の狙いを、経験を重ねた声で歌い直しています。

「Bullseye」/2018年の原録音。

「Bullseye」の再録について、マリナはラップにも取り組んできた十年間で、リズム感が鍛えられたと話しています。
今回は自由に歌うだけでなく、リズムを強調することを意識しました。
一方、「Coma」では、原曲を超えられなかったかもしれないと感じた彼女に、及川はそうではないと伝えています。

「Bullseye」/2025年の再録。

「Coma」/2025年の再録。

「Bullseye」では、経験を重ねたことで選べる歌い方が変わる。
「Coma」では、初めに歌った時の感情が、後年の自分にとっても高い基準になる。
再録にあるのは一方向の進歩だけではなく、違う時期の自分同士を比べる難しさです。
歌の技術が増えたことと、その一回が心に残ることは、同じ物差しでは測れません。

2026年10月3日、横浜ReNY beta公演の蛇石マリナ
2026年10月3日、横浜ReNY beta公演の蛇石マリナ。
画像出典:画像掲載元

2026年10月の横浜公演でも、高音の勢いを押し出す「G-Metal」、低音域を生かした「Force & Justice」、ファルセットを交える「Symbiosis」が並んでいます。
声の高さも質感も、一つの型へ狭まってはいません。

演奏に反応して歌い直し、感情と技術の関係を探り、曲に合わせてリズムや響きを選ぶ。
蛇石マリナの変遷は、高い音の到達点だけを更新する歩みではありません。
強い声の持ち主が、その声で何をどう伝えるかを、作品ごとに問い直してきた歩みです。

曲ごとの声の選択は、蛇石マリナ(Mardelas)の歌い方で掘り下げています。

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