蛇石マリナの歌には、バンドの音を突き抜ける迫力があります。
ただ、高い声を大きく響かせることだけが、Mardelasの歌い方ではありません。
サビの明るさ、伸ばす音の揺れ、短い言葉の輪郭、次の言葉までの間。
曲によって何を前へ出すかが、声の表情を作っています。
「Burn Out!」と「String of Life」では、同じ歌手の持ち味の使い道が違います。
その違いを、本人が語った歌の選択と、具体的な曲の場面から見ていきます。
高音の強さだけでなく、中低音と柔らかな声も使う
2026年10月3日の横浜公演では、「Force & Justice」で低音域の力強さが前へ出ています。
「Symbiosis」ではファルセットも交わり、高い音を張り上げる時とは違う質感を見せました。
同じ日のステージに、低い声の迫力と、柔らかな高い声の両方があるのです。
ファルセットは、一般に裏声と呼ばれる声の出し方です。
音の高さと、声の質感は別々に考えることができます。
高い音でも強く張った印象になる場合と、軽く柔らかく聴こえる場合がある。
マリナの歌を追う時にも、最高音だけでなく、曲の中でどんな声へ移るかが聴きどころになります。
「Spider Thread」のデモを聴いた時、本人は自分の中音域を生かす旋律だと感じました。
高い声で頂点を作ることに加え、無理に上へ向かわなくても感情を伝えられる場所を持っています。
「Burn Out!」のサビは、明るさで気持ちを開く
「Burn Out!」では、AメロやBメロに苦しさ、サビにそこから先へ進もうとする意志を感じ取っています。
そのためサビでは、聴き手の耳に届く明るい声を選びました。
曲中の気持ちの変化が、声の明るさを決めています。
明るい声は、単に音量を上げた声と同じではありません。
同じ強さでも、響きの印象が変われば、歌う人が前を向いたように感じられる。
この曲のサビを捉える時には、音の高さだけでなく、言葉をどんな表情で届けているかにも耳を向けたいところです。
音程と音色を分けて考えると、力強さの中にある変化が見えやすくなります。

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得意なビブラートも、使う場所と深さを選ぶ
マリナは得意なビブラートを、サビの最後に置いたり、控えたいところでは浅くしたりすると説明しています。
ずっと同じ揺れを付けるのではなく、曲の性格に合わせて加減する考え方です。
ビブラートは、伸ばした音に周期的な揺れを付ける表現です。
揺れの大きさや始める位置によって、同じ長い音にも違う表情が生まれます。
最初から豊かに揺らすのか、言葉を置いてから揺れを加えるのか。
その選択は、声そのものの強さとは別に、フレーズの終わり方を変えます。
2023年2月25日の池袋公演でも、冒頭の「Burn Out!」でビブラートの美しさが際立っていました。
一方、同じ日の「G-Metal」では、メガホン型のマイクによる加工と、ラップ的な歌い回しが登場します。
伸ばす声の揺れと、短く刻む言葉を、一つの舞台で使い分けています。
言葉をはっきりさせながら、歌の流れを保つ
録音では言葉が聞き取れるかを確かめ、ライブでも子音を立てることを意識しています。
及川も、歌の良さを損なわずに明瞭に歌うことの難しさを語っています。
日本語の歌で長く伸びるのは、主に「あ・い・う・え・お」の母音です。
その前にある子音が弱くなると、旋律は届いても、言葉の始まりが曖昧になりやすい。
反対に一音ずつ区切りすぎれば、歌の滑らかな流れが切れてしまいます。
何を言ったかが分かることと、旋律として自然につながることを、同時に扱う必要があります。
マリナの歌で言葉が前へ出てくる時も、声量だけで説明しないほうが、工夫を捉えられます。
伸びている音の華やかさに加えて、その音に入る直前の短い発音にも役割がある。
迫力と明瞭さは、同じものではありません。
「String of Life」は、言葉の少なさが歌の間を作る
「String of Life」では、R&Bの感触を出すため、意図して言葉を詰めずに作詞しています。
その余白が、歌う時の間合いにつながりました。
あとから歌い回しで隙間を作るだけでなく、旋律に載せる言葉の量から考えているのです。
言葉が密集している曲では、次の発音へ進むことが大きな仕事になります。
言葉を減らせば、一つの母音を保つ時間や、歌い終えて次へ入るまでの時間を扱える。
そこで声を伸ばすのか、余韻を残すのかによって、聴き手が受け取る距離感も変わります。
この曲で注目したいのは、声の強さに加えて、声を置く時間そのものです。
2025年の十周年公演でも、「String of Life」はゆったりした曲調の中で、歌と楽器が重なる場面を作っていました。
速い曲と同じ密度で言葉を押し込むのではなく、一音ずつの関係を感じられるところにも、この曲の魅力があります。

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ラップ的な言葉と加工した声も、曲のために選ぶ
「G-Metal」のAメロはラップ寄り、サビは自分の旋律の作り方を生かした形です。
英語詞には、海外で育った背景も重ねています。
ラップ的な箇所では、音を長く伸ばすことより、言葉がリズムのどこへ収まるかが目立ちます。
一方、サビでは旋律の動きが前へ出る。
同じ声でも、言葉の速さと音の長さを変えることで、曲の中に異なる手触りを作れます。
メガホンを使った場面では、機材によって変わった音も含めて、歌の印象が出来上がっています。
そこで聴こえる加工された響きを、すべて本人の喉だけが作ったものとして捉えると、歌い方を取り違えてしまう。
声の選択と音の加工を、一緒に使った表現として聴きたい部分です。
感情を出す時も、バンドの音を受け取っている
「Coma」の録音で、マリナは感情だけでも技術だけでも歌は届かないと考えていました。
実際に涙を流して歌った場面があるからといって、泣くこと自体がこの歌の方法なのではありません。
自分の感覚を、歌として伝わる声へ結びつけることが課題でした。
彼女は再録の際、ドラムやベースの動きを聴くことで、自分の歌にも気持ちが入ると話しています。
一人で声を作り込むことに加え、周囲の演奏を受け取ることも、表現を動かします。
及川も、マリナの歌の後に続くギターは、正確に音を並べるだけでは足りないと考えています。
歌に表情があるからこそ、楽器もそれに応える。
Mardelasの迫力は、強い歌手と強い演奏が並ぶだけでなく、互いに働きかけるところにあります。
明るいサビを選ぶ「Burn Out!」、間合いを作る「String of Life」、言葉を刻む「G-Metal」。
その違いを知ると、蛇石マリナの声は、高音の迫力だけでは捉えきれなくなります。
声をどれだけ出せるかに加え、どこを揺らし、どの言葉を立て、どれだけ間を残すか。
曲ごとの細かな選択が、力強さを単調にしない歌を支えています。
初期から再録へ至る歩みは、蛇石マリナ(Mardelas)の歌唱変遷でたどっています。

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