ボン・スコットの歌い方を考える時、ざらついた声を強く出すことだけに注目すると、いちばん面白いところを取りこぼします。
威勢よく言い切る声もあれば、気取って笑わせる口調もあり、弱音をこぼす柔らかさもある。
その違いを作るのが、声の質感に加え、言葉の運び、息の使い方、音の強弱です。
同じAC/DCの曲でも、「Highway to Hell」「Big Balls」「Ride On」では、歌の中に立っている人物が違います。
ボンがどう声を使い、その人物を伝えているのか。
録音の場で受けた指導も含めて見ていきます。
荒い声にも、うなりと叫びの表情がある
「Highway to Hell」のボンは、声の粗さを隠して歌う人ではありません。
スティーヴ・ヒューイは、この歌にうなり、鋭い叫び、ひっかくような声があり、その使い方に遊び心があると評しています。
荒い音色を一種類のまま押し続けるというより、いくつもの表情が曲の勢いを作るという見方です。
サミー・ヘイガーが感じた魅力も、声が割れそうな際どさでした。
きれいに余裕を見せる歌とは違う緊張感が、歌う側の耳にも届いていたのです。
ただし、声が割れそうに感じることと、実際に喉を傷めながら歌っていることは同じではありません。
音源から受ける印象だけで、声帯の動かし方や安全な再現方法までは決められません。
ここで捉えたいのは、その際どい質感を、威勢やユーモアのある歌として聴かせている点です。

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言葉の言い方を変えると、同じ声が別の人物になる
マルコム・ヤングは、ボンのフレーズに、アレックス・ハーヴェイから学んだのではないかと思わせる語り口を感じていました。
言葉を巧みに扱い、話すように歌う。
音程とともに、言葉の運びも歌の個性になっています。
「Big Balls」では、気取った上流階級風の発音が笑いを生みます。
口調を変えると、芝居がかった人物が現れる。
言葉の言い方も、曲の性格を決めています。
歌い方のうち、言葉を区切り、つなぎ、どこを強調するかという運び方をフレージングと呼びます。
発音を変えることも、人物の印象を変える要素です。
ボンの歌を追う時は、長く伸ばした高音だけでなく、短い言葉の言い切り方にも注目すると、声色とは別の工夫が見えてきます。
「Ride On」では、強弱と間が弱音を伝える
「Ride On」の声には、柔らかくしなる感触があります。
批評家マイケル・H・リトルが挙げるのは、声の強弱を扱う巧みさと、歌の中にのぞく苦笑です。
生き方を変えようとする言葉の後に少し笑うような響きがあり、同じ思いを繰り返すところでは間が生まれる。
大声で決意を宣言するだけでは出てこない、人間らしいためらいが残ります。
声を小さくすることと、弱々しい歌になることも別です。
音量を抑えた言葉の後に間があれば、聴き手は言い終えた気持ちを受け取る時間を持てます。
強さの変化と、次の言葉までの時間を一緒に考えると、静かな歌の表情を捉えやすくなります。
一方、「What’s Next to the Moon」の歌を愛するジョー・エリオットは、ボンの声の荒さと情感、そしてユーモアを結びつけて語っています。
滑らかな声へ全面的に替えなくても、感情は伝わる。
ざらつきが残ったまま、人物の可笑しさや切実さが見えるところが、この歌手の強みです。
強く歌うためにも、息と声の釣り合いを整える
1979年の『Highway to Hell』を手がけたプロデューサー、マット・ラングは、ボンの呼吸にも助言しています。
「If You Want Blood(You’ve Got It)」の録音で、声よりも息が多く出ていると感じられる場面がありました。
立ち会ったイアン・ジェフリーによれば、ボンが実際にやってみせてほしいと返すと、ラングは椅子に座ったまま歌ってみせました。
声を強く響かせたい時に、息の量だけを増やしても、狙った声になるとは限りません。
この録音で課題になったのは、勢いを足すことより、呼吸と歌をうまく組み合わせることでした。
具体的な吸気位置や喉の操作までは分かりませんが、激しい歌にも息と声を整える作業があることを示す場面です。
同じアルバムの「Touch Too Much」では、サビで重なるバック・ボーカルも、曲の大きさを作っています。
ラングと作った録音の厚みを、すべてボン一人の声量や発声へ置き換えないことも大切です。
前に立つ声と、その後ろで重なる声の両方が、サビを押し出しています。
旋律を伸ばす歌にも、ボンの声は生きている
AC/DC以前のFraternityには、ビブラートを使ったボンの歌も残っています。
批評家バート・ビールミアは、その揺れを、簡潔なAC/DCの歌との違いとして挙げています。
音を長く保ち、その先を揺らして表情を付ける声も、ボンが持っていた選択肢でした。

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「Seasons of Change」は、そうした時代の歌を知る一曲です。
一緒に演奏していたジョン・ビセットも、ボンの歌がよく、編曲がバンドの持ち味に合った録音として挙げています。
後の叫ぶ声だけから、旋律を歌う力まで狭く考えないでいたいところです。
「Seasons of Change」/1971年のテレビ番組「GTK」出演。
カントリーも演奏していたMount Lofty Rangers時代の録音では、高い音を一度外して本人が笑い、二度目には決めた場面を、ピーター・ヘッドが覚えています。
短時間のデモ制作でも、曲を覚えて歌い、うまくいかなかった箇所をやり直す。
大胆な印象の背後に、歌を実際のテイクへ仕上げる仕事がありました。
ボンらしさを作るのは、荒い声だけではありません。
「Big Balls」の気取った発音、「Ride On」の柔らかさと間、そして激しい歌を支える息の使い方。
その一つ一つが、同じ声の中に違う人物を立たせています。
「Highway to Hell」の勢いに引かれた人ほど、静かな歌と言葉の細かな表情まで追うと、この声の奥行きを感じられるはずです。
AC/DC以前からの歩みは、ボン・スコット(AC/DC)の歌唱変遷でたどっています。

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