片寄涼太の歌声の変遷|ささやく近さから、自分で選ぶソロの表現へ

2017年の記事に掲載された片寄涼太 シンガー
2017年の記事に掲載された片寄涼太

片寄涼太の歌声は、ソロ活動を始めてから急に柔らかくなったわけではありません。
2013年の「Love You More」でも、耳元でささやくような歌を意識していました。
そこから変わってきたのは、声の近さを、どんな曲で、誰に向けて使うかという選択です。

2013〜2017年、声の近さと歌う役割を考える

「Love You More」は、GENERATIONSのそれまでの二枚のシングルで示した、男らしく格好いい方向とは違うラブソングでした。
片寄はAメロの歌い出しやサビの一節について、聴く人の耳元で歌うように意識したと説明しています。
大きな舞台で踊りながら歌うグループでも、声を向ける相手は一人に近づけられる。
その感覚は、活動の早い時期からあったのです。

同年の「BURNING UP」では、三代目J Soul Brothersの今市隆二、登坂広臣と録音する経験をしました。
先輩二人がグループ全体を引っ張る姿を見て、自分たちボーカルも成長したいと語っています。
歌う役割を担うだけでなく、歌手としてどうチームを導くか。
自分の声の魅力と同時に、グループでの立ち位置も考え始めていました。

俳優としての仕事が増える中では、歌と芝居の表現を近づけたいという目標も持っていました。
2017年の取材では、歌に芝居の感覚を入れ、芝居には歌うときの息づかいを生かしたいと話しています。
歌と演技を別々の技術として伸ばすだけでなく、互いに持ち込めるものを探していたのです。

この頃の声には、曲ごとの対照もあります。
音楽評論家の森朋之は、電子音を軸にした「PIERROT」の鋭さ、バラード「空」の柔らかさ、ギターが前へ出る「太陽も月も」の感情的な歌を、それぞれの特徴として挙げています。
2017年の時点で、甘い声の印象だけに収まらない歌い分けが評価されていたのです。
後のソロ活動は、柔らかさを初めて手に入れる機会というより、既にある声を自分の選曲や制作で使う機会になっていきました。

2019年、上手に整える習慣を外す難しさ

映画『きみと、波にのれたら』について語った片寄涼太(2019年の取材)
映画『きみと、波にのれたら』について語った片寄涼太(2019年の取材)。
画像出典:画像掲載元

アニメ映画『きみと、波にのれたら』では、歌手として身につけた習慣が、役を演じる難しさにもなりました。
川栄李奈と歌う劇中の「Brand New Story」で、湯浅政明監督から求められたのは、もっと上手さを崩した歌。
本人は崩したつもりでも、さらに自然な歌い方を求められたと振り返っています。
歌手としてきっちり歌うことと、登場人物がその場で歌っているように聞かせることは、同じではありませんでした。

当初は別々に収録する予定でしたが、片寄が提案して、二人で同じブースへ入りました。
相手の空気を感じ、笑わせることもできる録音です。
一人で完成度を高める練習とは違う、相手がいるから生まれる歌を経験しました。
この劇中のデュエットは、GENERATIONSによる主題歌の録音とは別のものです。

Brand New Story(2019年・劇中デュエットの抜粋)

2020〜2022年、一人の声で曲を届ける

2020年、初のソロオリジナル曲「Possible」を発表します。
本人は当時、俳優としての経験や年齢を重ねることによって、一つの言葉から思い浮かべる場面が増えたと話していました。
歌詞を自分の経験に重ねられるようになることが、感情の表し方にもつながっていたのです。
「Possible」も、その後の年齢によって受け取り方が変わりそうな曲だと捉えていました。

この曲を手がけた☆Taku Takahashiからは、一人で歌うなら曲の中にさまざまな場面が必要だという話も受けています。
二人の声が交代するグループとは違い、ソロでは自分の声だけで展開を作る必要がある。
片寄はこの助言を、五年後のアルバム制作でも思い出すことになります。

2022年の「運命」は、Tani Yuukiが提供した曲です。
片寄が意識したのは、韻の心地よさだけで言葉を聞き流されないようにすることでした。
優しく歌おうと狙ったというより、文学的に感じた日本語を、語るように伝える。
柔らかな印象を、言葉への向き合い方から作った歌唱でした。

2024年、録音の場で歌を一緒に作る

「tenkiame」では、eillとスタジオで表現を組み立てる経験をしました。
GENERATIONSでは、整ったアレンジを受け取ってどう表現するかを考えることが多かったのに対し、この曲はコーラスを含めた完成形が録音の途中まで決まっていませんでした。
片寄にとっても、最後まで仕上がりが分からないまま作る新鮮な機会だったといいます。

ソロで誰かを励ますときも、グループと同じ調子にする必要はないと考えていました。
勢いよく元気づけるより、同じ目線からそっと背中を押す。
声の柔らかさは、その距離感を選ぶこととも結びついていきます。

同時期の「今夜はブギー・バック」は、片寄が以前から温めていたカバーでした。
自分は歌い上げるタイプではないという認識もあり、Shin Sakiuraのアレンジ、eillのラップと組み合わせています。
台詞のように言う部分は、遊びで試したものがそのまま採用されました。
声をきれいにまとめることに加え、録音の場で起きた楽しさも、作品へ残すようになったのです。

2025年、張り切らずに歌うことも新しい挑戦になる

初のソロアルバム『Bouquet』は、2025年8月に発売されました。
「Stay or Go」では、「Possible」の頃に教わった場面の変化を意識し、声の調子を変えながら歌っています。
速い曲の勢いに身を任せるだけでなく、一人の歌にも展開を持たせる。
最初のソロで得た課題を、次の録音へ持ち込んだ例です。

一方、「Smoky Town Rain」で新しかったのは、さらに頑張って歌う方向ではありませんでした。
最初にふわりと歌ったテイクを土岐麻子に褒められ、片寄は、張り切り過ぎないほうが合うのだろうと受け取ります。
慣れた歌い方ではなく、難しさもあったといいます。
初期からささやく表現を使っていた人でも、別の曲で力を控える感覚は、新しく学ぶものだったのです。

この曲の背景には、母親の影響で聴いた松任谷由実など、日本語の響きや言葉と言葉の間を楽しむ音楽がありました。
言葉を詰め込み過ぎない曲を土岐と相談し、録音前には何度も練習しています。
静かな仕上がりは、簡単に歌えたことを意味しません。
幼い頃の音楽の記憶へ戻りながら、今の自分の声で新しい歌い方を探した曲でした。

一人で歌う経験と、誰かに声を預ける経験

『Bouquet』の「Pray -for Bouquet- feat. Shinya Kiyozuka」では、清塚信也のピアノと歌を同時に録音しました。
一曲を通して二、三回歌い、その中から選び、途中をつなぎ合わせなかったといいます。
ピアノに導かれたり、後ろから支えられたりする感覚の中で、一曲の流れを作りました。

2025年の「気づいたことは」では、数原龍友とずっと一緒に歌う印象を目指し、歌い分けやコーラスを細かく組みました。
ソロと並行して、二人で歌う方法も探しています。

この曲では、片寄自身も歌詞作りに参加していたため、歌う前から曲の情景を思い描けていました。
それでも、蔦谷好位置の指導で複数の歌い方を録り、言葉の中の出来事を実際の歌として表す過程では、芝居のような表現力を求められたといいます。
2017年に語っていた、歌と芝居を近づけたいという関心は、グループの新曲でも具体的な課題になっていました。

「Xmas Bouquet」で歌う片寄涼太(2025年12月)
「Xmas Bouquet」で歌う片寄涼太(2025年12月)。
画像出典:画像掲載元

同年12月の初ソロライブ「Xmas Bouquet」では、フルバンドとともに歌いました。
「Smoky Town Rain」は鍵盤に乗せた繊細な声、「Possible」は長く伸ばす声やファルセットが引き立つ場面となり、「tenkiame」では客席とも声を重ねています。
録音ごとに試してきた歌い方を、一晩の舞台でつなぐ公演になりました。

片寄涼太の歩みには、近くへ語りかける感覚が残っています。
その感覚を、一人で場面を変えるソロ、人物として歌う映画、相手と応じ合う録音へ広げてきました。
声の調子や言葉の置き方を曲ごとに知るには、片寄涼太の歌い方もあわせて読むと、その選択がよりはっきりします。

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