堀込高樹の歌声の変遷|KIRINJIの歌い手が、もっと歌いたくなるまで

2026年の取材記事に掲載された堀込高樹(写真:山口康仁) シンガー
2026年の取材記事に掲載された堀込高樹(写真:山口康仁)

堀込高樹の歌声をたどると、歌う役割が増えた人が、自分の声を育て、やがて歌うことを楽しむようになる過程が見えてきます。
その変化は、兄弟ユニットからバンド、ソロプロジェクトへというKIRINJIの体制の変化とも重なります。
ただ、名前や人数が変わっただけで声が変わったわけではありません。
曲を作る人が、目の前の客席へ自分で届ける人になる。
そこに、練習や録音、舞台で重ねた経験がありました。

兄弟時代にもあった、自分の声で歌う場所

1998年、弟の堀込泰行とともにキリンジでメジャーデビューします。
二人はそれぞれ曲を書いて持ち寄っており、高樹も作家であると同時に歌い手でした。
後のKIRINJIだけを、その声の出発点とすることはできません。

2005年には、本人名義のソロアルバム『Home Ground』を発表しています。
「絶交」「冬来たりなば」「クレゾールの魔法」などを収めた作品で、原田郁子や真城めぐみらも参加しました。
兄弟の作品とは別に、自分の音楽を一枚にまとめた場所が、すでにあったのです。

後年の歌を考えるうえでも、ここは大切です。
2013年以降に起きたのは、歌ったことのない人が突然マイクを握るという変化ではありません。
それまで以上に歌を担い、その声が作品や舞台をどう支えるか、向き合う時間が増えていく変化でした。

2013年、歌の比重が増えた新しいバンド

泰行の脱退後、高樹はバンド編成のKIRINJIを始めます。
本人はこの転換を、声の響き方や聴き手への届き方まで考え始めた転機として振り返っています。
それまで大切にしていた旋律や歌詞、サウンドに加え、歌そのものへ意識が向いたのでした。

2013年12月のオーチャードホール公演でも、その役割の変化が表れています。
「僕の心のありったけ」では、歌の比重が増えた高樹のギターパートを弓木英梨乃が担いました。
一方、コトリンゴや弓木が主役になる歌もあり、すべてを高樹一人に集める形ではありません。
新曲「進水式」は、この新しい編成の船出に合わせて披露された曲でした。

自分が歌う量を増やすことと、他の人へ声を任せること。
その両方を含んだバンドの中で、高樹は歌い手としての役割を広げていきます。
声だけを取り出すと分かりにくい変化が、誰と何を分担しているかを見ると、具体的になってきます。

2018年の取材記事に掲載されたKIRINJI(中央が堀込高樹)
2018年の取材記事に掲載されたKIRINJI(中央が堀込高樹)。
画像出典:画像掲載元

2015〜2018年、声の人数も曲に合わせて選び直す

2015年の『EXTRA 11』は、ライブ録音をもとに仕上げた作品です。
「進水式」も、前半をギターと歌に絞り、歌声は最後まで高樹一人にする形へ変わりました。
同じ曲でも、合唱を伴うときとは受け取り方が変わる。
編成を通して歌の見え方を試す時期でもありました。

2015年『EXTRA 11』収録版。

2018年の『愛をあるだけ、すべて』では、声を重ねる方法にも変化があります。
バンドだから全員で歌うという考えから離れ、密にまとまった響きが欲しい箇所では、自分を中心にコーラスを作りました。
逆に「明日こそは/It’s not over yet」の追いかけるコーラスには、メンバーの声によるにぎやかさを求めています。

歌声の変遷は、主旋律をどう歌うかだけに現れるものではありません。
声を一つにするのか、別の人の声を迎えるのか。
そこまで曲に合わせて選ぶことで、歌の輪郭も、聴き手との距離も変わっていきます。

2019〜2021年、強く張らなくても芯を残せる声へ

『cherish』の制作では、以前ほど声を張らないことを意識しました。
KIRINJIを始めた頃は、歌をしっかり成立させるために張って歌っていたものの、続けるうち、柔らかく歌っても芯を残せるようになったと本人は説明しています。
弱い印象にならずに力を抑えられることが、新しい選択肢になったのです。

この頃は、中村佳穂やSIRUPの言葉の乗せ方にも刺激を受けていました。
先に旋律を決めるだけでなく、言葉からリズムを作る方法へ。
「『あの娘は誰?』とか言わせたい」では、あえて言葉を密に置いてビートを強調しています。

ここは、歌い手としての経験が、曲の方向と結びついた転機です。
強く歌えることを土台に、いつも同じ力で歌わなくてもよくなる。
歌を支えるための張りが、少しずつ表情を選ぶ余裕につながっていったと捉えられます。

2021年にソロプロジェクトとなって発表した『crepuscular』では、音数の少ない曲も増えました。
高樹は、そのため歌の表情や残響の違いが伝わりやすくなったと話しています。
「再会」と「爆ぜる心臓」という性格の異なる曲を収め、その間をつなぐ作品を配置したアルバムでした。

周囲の音が空くほど、声の小さな変化も作品の一部になる。
歌を厚い演奏へ押し出す方法に加え、空間の中でどう聞かせるかを選ぶ場面が増えていきます。

2022年、「Rainy Runway」で見つけた低めの音域

「Rainy Runway」では、それまで高めのほうがよく声が出ると思っていた本人が、全体の音域を少し下げました。
サビの高い部分を気持ちよく歌うために、導入は低めに置いています。
何度も歌いながら、一番と二番のサビでも表情を変える作りにしました。

この曲で目指していたのは、穏やかな曲であっても、聴き終えたときに身体が動く感触が残ることでした。
生演奏を中心にしつつ、昔の音へそのまま戻るのではなく、今のKIRINJIのリズムとして届けようとしています。

低めに歌うことは、勢いをなくすことと同じではありません。
導入に余裕を持たせ、サビへ上がる場所を作る。
響かせたい部分を選ぶことで、無理を重ねずに曲の高まりを作ろうとしていました。
声の強さを一方向に増やすだけではない、経験を重ねた歌い手の工夫です。

2021〜2023年、弾き語りが歌うことへの抵抗を変えた

弾き語りを始めたきっかけは、2021年5月の公演延期に伴う生配信でした。
2022年からはツアーも行い、2023年には、歌うことへの抵抗がなくなってきたと明かします。
間違えないようにすることばかり考えていた時期を経て、失敗もライブの面白さになり得ると感じ、もっと歌いたくなったのでした。

その成果は、『Steppin’ Out』の「Runner’s High」にも表れています。
本人は、地声で高いところを張るこの曲のような歌い方は、以前はできなかったと説明しました。
弾き語りで歌とギターの両方に向き合い、新しくできることが増えた。
自分でも驚くような手応えを得ていたのです。

曲を正しく再現できるかという不安と、客席と同じ時間を過ごす楽しさは、同じ舞台にあります。
弾き語りでは、歌と演奏を一人で引き受けるぶん、その場の反応も直接返ってくる。
そうした経験が、作った曲を披露するだけでなく、自分で歌いたいという気持ちを育てていったのです。

2026年の取材に応じる堀込高樹(写真:山口康仁)
2026年の取材に応じる堀込高樹(写真:山口康仁)。
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2025〜2026年、舞台の経験が次の作品へ戻ってくる

2025年の「歌とギター」は、弾き語りツアーを終えた気持ちが題材になった曲です。
2026年のアルバム『TOWN BEAT』にも収められましたが、シングルの音像をそのまま使うのではなく、他の収録曲に合う、より自然なミックスへ整えています。
歌の経験を曲にし、その声がアルバムの中でどう響くかまで、あらためて考えたのでした。

『TOWN BEAT』の制作中は、ライブと録音を行き来していました。
本人は、ステージに立ったときの高揚した気持ちを保ったまま制作したことで、リズムの立つ曲が集まったと振り返っています。
部屋にこもって作品を完成させるだけでなく、外で歌った経験が次の音楽へ戻ってくる循環が生まれていました。

堀込高樹の歌声は、年齢とともに一律に柔らかくなった、という変化には収まりません。
張る力を身につけ、そこから力を抑える方法を選び、音域や声の重ね方を変えながら、歌えることを増やしてきました。
そして、自分が歌うこと自体を次の曲の題材にする。
その歩みには、作る人と歌う人の距離が、少しずつ近くなっていく面白さがあります。

曲ごとの音域や言葉の動き、声の重ね方は、堀込高樹(KIRINJI)の歌い方で掘り下げています。

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