SIRUPの歌唱はどう変わった? 旋律を減らした転機から「まだ出していない歌」まで

白いジャケットを着たSIRUPの2019年インタビュー写真 SIRUP
2019年のインタビュー写真。撮影:永峰拓也/出典:音楽ナタリー

2019年、SIRUPは歌のうまさを目立たせないようにしていると話した。曲と声が一緒に生むリズムを大切にしたいからだ。それから6年後、本人は「歌がめっちゃうまくなった」と自分の現在を語っている。うまさを見せない選択と、歌への自信は、どうつながるのだろう。

二つの発言は、声を抑える時期から大きく歌う時期へ、単純に切り替わったことを意味しない。KYOtaro時代からSIRUPへの転機、意味の強い言葉をリズムに乗せた『cure』、仲間との制作で自然に出てきた声。本人の話をたどると、歌える技を捨てたのでなく、曲ごとに何を出すかを選ぶようになったことが見えてくる。

KYOtaroの終盤、歌を中心にした曲に旋律を詰めていた

SIRUPになる前、彼はKYOtaro名義で約10年歌っていた。その終盤の作品『ROOM』では、クラブ向けの音から、歌そのものを中心にした作りへ進んでいたという。後に本人は、その頃の自分について、フェイクをどこに入れるか、どの曲で高いキーを使うかを細かく考えていたと振り返った。歌をどう聞かせるかが、曲作りの中心にあった。

それは歌への自信がなかったからではない。むしろ旋律を作ると次々に詰め込む癖があり、息を継ぐ余地が少ない曲になりがちだった。ラップも取り入れたい気持ちは以前からあったが、歌の旋律で埋まった曲には、その言葉を置く場所がなかった。

2016年の『ROOM』を作り終え、次に何をしようかと考えながら曲を作るうちに、ラップとも歌とも言い切れないフロウが現れた。本人はヒップホップをより深く聴くようになった影響も挙げている。KYOtaroの作品を否定して別人になったのではない。歌の作り方を変える兆しが、名義を変える前の制作で生まれていた。

2017年の「Synapse」で、歌とラップの境を曲の中に置いた

新しい曲の原型の一つが「Synapse」だった。SIRUPは自分のデモをTokyo Recordingsへ渡す際、元の案を使わなくてもよいほど自由に作り直してほしいと伝えた。完成した曲には自身が考えたコーラスも残ったが、作曲の表記からは自分の名を外してもよいと判断したという。声も曲も一人で完成させるのではなく、相手とのやり取りで形にする方法が、最初の作品から始まっていた。

一方で、歌詞に日本語と英語を混ぜる作業は本人が担った。語感や韻を保ちながら、曲の中に物語も作ろうとしたと話している。新しいトラックの上にラップを足しただけではない。言葉をどの長さで置くか、旋律をどこまで歌うかも変えた。

KYOtaro時代にはゆったりしたリズムの歌やフェイク、高い音の使いどころを考えていた。それに対してSIRUPの「Do Well」では、本人の表現でいえば言葉を続けて細かく歌う感覚が強い。歌とラップを行き来する現在の形にするため、以前のように旋律を詰め込むのをやめた。活動名の「Sing & Rap」は、名付ける前から起きていた歌の変化を指している。

「LOOP」では、うまく歌った印象より曲全体のリズムを選んだ

2018年の「LOOP」は、SIRUPを知る大きなきっかけとなった曲だ。この頃に本人がはっきり言葉にしたのは、歌と伴奏が合わさったときの気持ちよさを優先する姿勢だった。2019年には、極端に言えば歌がうまく聞こえないようにする、その工夫に気付かれなければ成功だと説明している。

「歌がうまくない」という自己評価ではない。高い音や長いフェイクを見せ場にできても、毎回そこへ聴き手の注意を集めるとは限らない、という選択である。旋律を減らした結果、短い言葉やラップが入る余地ができた。その分、声は伴奏のリズムと関わりながら進むようになった。

黒いシャツを着たSIRUPの2018年インタビュー写真
2018年のインタビュー写真。撮影:森好弘/出典:SPICE

ただし、SIRUPが歌い上げる声を封印したわけでもない。同じ2018年の「One Day」は、しっかり歌いながら踊れる曲を目指したと本人が話す。抑えるか、声を伸ばすかという一曲ごとの選択は、SIRUPの歌い方で「LOOP」や「One Day」を並べて詳しく見られる。変わったのは歌えることの量より、歌の見せ方を決める基準だった。

心斎橋Music Club JANUSのステージで歌うSIRUP
2018年11月11日、心斎橋Music Club JANUSで歌うSIRUP。撮影:木村華子/出典:SPICE

『cure』では、意味の強い言葉もリズムから離さなかった

2020年を過ごしたSIRUPは、翌2021年のアルバム『cure』に、その年に感じたことを注ぎ込んだと話した。以前より強い意味を持つ言葉が増え、発信する先にいる人のことも意識するようになった。ただ、その言葉だけを前へ突き出して曲を壊したくはなかったという。

たとえば「Overnight」には、自分を支える音楽についての言葉がリズムに合わせて入った。本人は当時の気持ちからその表現が出たと語り、曲の音と歌詞の意味が一緒に変わったと捉えている。2017年には旋律を減らしてラップの場所を作り、今度は、強い思いを語ってもその言葉を一つのリズムとして歌う。言葉の内容は重くなっても、曲としての流れを手放さなかった。

2022年の「BE THE GROOVE」でも、本人は以前ならあまり使わなかった強い言葉が出てきたと話す。この曲は2023年のEP『BLUE BLUR』にも収められた。『cure』以後に経験した社会との関わりを受け、内側の気持ちを歌うところから、周囲に向けて考えを示す歌へと話題が広がった。ただ、歌詞の題材が変わった事実だけで声質まで変わったとは言えない。ここで確認できるのは、リズムの中へ載せる言葉と、歌の向く先が変わったことだ。

2025年、共同制作から以前より多くの声が出てきた

2025年のアルバム『OWARI DIARY』では、プロデューサーのTaka Perryと仮のメロディを口ずさみながら曲を作ることが多かった。二人の取材で、聞き手は以前の作品よりファルセットが目立つと指摘した。SIRUP自身はその理由を決めつけず、構えて歌うのではなく直感的に作ったセッションが影響したかもしれないと話している。Taka Perryも、二人で歌いながら曲を組み立てるため、ファルセットやフェイクが出やすかった可能性を挙げた。

「KIRA KIRA」などの曲で使われる高い声を、身体の変化や新たに身につけた発声法と断定することはできない。それでも、KYOtaro時代に高音やフェイクの置き場を先に細かく考え、SIRUP初期には技を目立たせないようにした人が、今は共同制作の流れから生まれた声も作品に残している。その選び方の変化は、本人と制作相手の話からたどれる。

同じアルバムの「PARADISE」では、Taka Perryが作った新しいビートによって曲のサビが変わり、日本語の本来の音節に従わない歌い回しも生まれた。SIRUPは、その歌い方だから曲の勢いが出ると感じたという。外国語らしく歌うための癖ではなく、相手の発想を受け取って一曲の熱に合う声を決めた出来事だ。

2025年の取材でSIRUPは、歌がうまくなったと自分で感じる一方、できてもまだ出していない歌の引き出しがあるとも話した。これは2019年の「うまく聞こえないようにする」という言葉を撤回したわけではない。使える表現が増えても、一度に全部を見せるとは言っていないからだ。ラップやダンスも続けながら、ライブでいちばん大切なのは歌だと、本人は結んでいる。

旋律を詰め込んでいたKYOtaroは、歌とラップが通る空間を作るために、あえて音を減らした。『cure』では強い思いを曲のリズムへ収め、Taka Perryとの制作では新しい言葉の刻み方や高い声も自然に取り込んだ。「うまさを目立たせない」と「歌がうまくなった」は、矛盾する評価ではない。 曲に必要な声を選ぶという目標を持ち続けたまま、その選択肢が広がってきたのである。

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