「LOOP」のSIRUPを知っていると、歌はいつも軽やかに、力を抜いて歌う人だと思うかもしれない。
だが本人は「One Day」を、しっかり歌いながら踊れる曲として作ったと話す。
歌を前へ出すかどうかは、曲ごとに変わる。
その使い分けを知る手掛かりは、声量や音域だけではない。
先に物語を書くのか、口から出た音に言葉を当てるのか。
誰と曲を作り、どんなリズムに歌を置くのか。
SIRUPの歌い方は、声を出す前の言葉と曲の作り方から見ると、ぐっと分かりやすくなる。
「LOOP」は物語から言葉とメロディを作った
「LOOP」では、先に物語があった。
SIRUPはその流れの中で韻を踏み、メロディを作ったと説明している。
英語と日本語が交じる響きだけを狙った曲ではない。
何を伝えたいかが先にあり、そこへ声に出したときの気持ちよさを重ねた。
「この言葉は意味が通るか」と「歌にしたときに音が収まるか」は、必ずしも同じ答えにならない。
SIRUPは、物語から曲を始めても、韻とメロディの両方を調整する。
聴き手が言葉を追えることと、リズムに乗れることを一曲の中で両立させようとする作り方だ。
2019年の取材で本人が大切だと話したのも、歌と伴奏を合わせたグルーヴだった。
極端に言えば歌がうまく聞こえないようにしたい、という発言は、歌唱力を低く見せたいという意味ではない。
声だけが突出するより、曲全体のリズムに注意を向けてほしいという考えである。
「LOOP」の一曲を見ても、軽やかさはただ力を抜けば手に入るものではない。
意味と響きの両方を選びながら、声が曲から浮かない場所を探している。
声の使い方を考えるうえでは、音域を広く使うことだけが技術の見せ場ではない。
ボイストレーナーのMinnie P.は2021年の取材で、SIRUPらの歌について、声質に合う音域を効果的に使っていると評した。
狭い音域に収める歌にも、それを成立させる技術と余裕が要るという指摘である。
これは本人が高音を出せないという話ではない。
高さの変化を大きくしない部分では、一つの音の入り方や長さ、次の言葉へ移るタイミングに耳を向けてみたい。
大きな起伏で押し切らずに曲を動かす、という聴き方ができる。

撮影:森好弘/出典:SPICE
「Do Well」は声に出した音から言葉を選んだ
同じように体が動くSIRUPの曲でも、「Do Well」は出発点が違う。
本人によれば、まずメロディに乗せて口にしていた音があり、その音に後から言葉を当てた部分がある。
最初に言いたい一文を決め、それを旋律へ押し込んだわけではない。
この方法では、言葉が意味だけで選ばれることはない。
その長さや母音、声にしたときの勢いも、曲の一部になる。
「LOOP」のように物語から始める場合とは順序が逆だ。
それでも、言葉と曲を最後まで別々にしない点は共通している。
SIRUPは韻の感覚について、関西で仲間と続けていたダジャレの遊びにも触れている。
ひねった意味を伝えるためだけでなく、声に出して面白い組み合わせを探す。
その遊び心が、歌のリズムを作る作業にもつながっている。
「One Day」は歌い上げても踊れる曲にした
声を曲になじませると聞くと、強く歌うことを避けているようにも思える。
しかし「One Day」について本人が挙げた目標は、しっかり歌いながら踊れることだった。
歌を抑えるかどうかだけで、SIRUPのスタイルは決まらない。
曲の土台にヒップホップの感覚を加えるため、SIRUPはA.G.Oにアレンジを頼んだ。
普段から好みが通じる相手なので、まず任せてから細かく調整したという。
ここで大事なのは、声を弱めてリズムに合わせたのではなく、歌い上げる声があっても踊れる曲を作ったという順番だ。
2018年の大阪公演では「One Day」が本編の最後に歌われた。
SIRUPは、細かく言葉を運ぶ歌だけでなく、ステージの締めに強く歌う曲も置いている。
「LOOP」だけから歌い方を一つに決めると、こうした選択が見えなくなる。

撮影:木村華子/出典:SPICE
「永遠に」では、一つの音の大きさに向き合った
細かく言葉を動かせる歌手だからこそ、難しさを感じた曲もある。
ゴスペラーズの「永遠に」をカバーしたSIRUPは、黒沢薫との対談で、普段の自由な歌い回しやラップと違い、この曲は音節が大きく、ごまかしがきかないと話した。
高校生の頃から親しんでいた歌でも、自分の作品として歌うには別の難しさがあった。
細かい言葉を次々と置く歌なら、その連なりが表情になる。
一つずつの音を大きく扱う曲では、言葉を増やして先へ進むことができない。
ここでは、伸ばしている間にも歌の表情が続いているか、次の言葉へどうつなぐかが聴きどころになる。
音の数が少ないほど簡単だとは言えない、という具体例である。
黒沢は同じ対談で、SIRUPの日本語と英語のなじませ方も評価していた。
英語のように響かせることと、日本語を歌として届けることを両立させる。
SIRUP自身も以前から試行錯誤してきた点だと応じている。
発音を一律に変えるのではなく、言葉ごとに音楽への収まりを探す姿勢が見えてくる。
「Keep Dancing」は、共同制作の場でメロディが生まれた
Full Crateを迎えた「Keep Dancing」では、オンラインでやり取りしながら、メロディを二人で半分ずつ考えたという。
SIRUPは2021年の取材で、その場で録ってすぐに音を送り合った制作を振り返っている。
完成した伴奏に一人で歌を載せる場合とは違い、相手の返す音を受けて、歌の形が決まっていく。
この制作過程を踏まえると、SIRUPの歌を本人だけの決まった節回しとして聴かずに済む。
曲ごとに組む相手が変わり、メロディの発想も変わる。
声の個性を保ちながら、その曲で生まれた動きに応じることも、歌い方の幅を作っている。
「PARADISE」は、言葉の区切り方まで曲に合わせた
「PARADISE」では、制作相手のTaka Perryがビートを変えたことで、サビの形も変わった。
日本語の普通の区切りとは異なる歌い回しについて、SIRUPは、その形だからこそ曲の勢いが出ると受け止めた。
新奇な発音を見せるための歌ではなく、一曲の熱に合う言葉の置き方を選んだのだ。
「LOOP」では物語、「Do Well」では先に声に出した音、「One Day」では歌い上げる声と踊れるトラック、「PARADISE」では共同制作者が持ち込んだリズム。
それぞれの曲で何を出発点にするかが違う。
SIRUPの歌い方を、いつも抑える、いつも細かく刻む、と一つの技だけで説明できない理由がここにある。
SIRUPは曲に合わせて、言葉の作り方から声の使い方まで選んでいる。
軽やかに聴こえる「LOOP」にも準備があり、大きく歌う「One Day」にもリズムへの配慮がある。
歌の上手さを毎回見せるかどうかより、その曲で聴き手をどう動かしたいかが、選択の軸になっている。
この選び方がKYOtaro時代から2025年までにどう広がったかは、SIRUPの歌唱の変遷でたどれる。







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