BONNIE PINKの歌い方|日本語も英語も、言葉のリズムで曲を動かす

BONNIE PINK・公式プロフィール写真 BONNIE PINK

BONNIE PINKの歌を「洋楽っぽい」と呼ぶだけでは、本人が何を大切にしているかが見えない。
彼女は、日本語でも英語でも、単語がもともと持つアクセントを守ってメロディーに乗せたいと話している。
そして、アップテンポの曲では言葉のリズムでグルーヴを止めず、バラードでは言葉を置くことも選ぶ。
高音の出し方より先に、その言葉の動きを考えると、彼女の歌い方への入口が開く。

1995年にデビューしたBONNIE PINKは、自ら詞と曲を作り、「Last Kiss」のようなバラードも「A Perfect Sky」のようなポップソングも歌う。
明るさと暗さの両方を持つ彼女にとって、声を一つの調子へ固定することより、歌の言葉と場面をどう動かすかが大切なのだろう。

アクセントを守るのは、発音の上手さを誇るためではない

2015年の取材で本人は、日本語・英語を問わず、言葉そのもののアクセントを崩さずに旋律へ乗せたいと説明した。
英語なら英語らしく、日本語なら日本語らしく発音するという、表面的な器用さの話ではない。
言葉に不自然な力点を置けば、旋律は整っても、歌の人物が急に借り物の言葉を話しているようになる。

BONNIE PINKは、若いころから英語で歌うことに関心があり、洋楽を聴いてきた。
一方、自作曲は日本語を含む歌として日本の聴き手へ渡してきた。
1998年以降のニューヨーク滞在についても、海外に出たからこそ日本で自分を伝える必要に気づいたと語る。
二つの言語を同じ声で扱うときの要点は、「英語風に寄せる」より、どちらの言葉にも固有のリズムを残すことではないか。

「A Perfect Sky」では、サビから曲が生まれた

「A Perfect Sky」は、初めからアルバムのために作った夏の歌ではない。
日焼け止めのCM用に、まずサビを考え、その後で一曲へ広げた。
BONNIE PINKは、冬の室内を暖かくして夏を想像し、既にあった映像を見ながら、メロディーを口ずさむように繰り返したと話す。
歌声で情景を伝える準備が、作曲の最初から始まっていた。

BONNIE PINK『A Perfect Sky』公式画像
2006年『A Perfect Sky』。
画像:公式掲載元。

本人は、アップテンポの歌では言葉のリズムが曲のグルーヴを止めないことを重視する。
「A Perfect Sky」を歌うとき、長く伸ばす音だけを主役にするより、次の言葉へ気持ちが動いていくかを確かめる方が、曲の明るさを捉えやすい。
アクセントを大事にしながらも、一語で立ち止まりすぎず、次の言葉へ渡していく。
本人の作詞観は、音程の正しさだけでは捉えられない歌の流れにも目を向けさせる。

夏の曲のイメージに声を合わせたのは、声を張り上げて別人になるためではない。
歌の人物がどこにいて、何を待っているのかを想像し、言葉の勢いを曲の中へ置くためだ。
そう考えると、歌いやすいメロディーに見えても、単語をただ音符へ割り振るだけでは足りない理由が分かる。

バラードは、言葉を「置く」余地を作る

本人は同じ取材で、バラードでは言葉を置きにいく歌い方もあると区別した。
「Last Kiss」のような曲を「A Perfect Sky」と同じ勢いだけで通せば、言葉が持つ後味を見失う。
反対に、一語一語を過剰に飾れば、歌詞の流れが止まってしまう。
速い曲で前へ進める判断と、遅い曲で立ち止まる判断は、同じ人の歌の二つの使い分けである。

ここでいう「置く」は、常に小さな声にするという技術指示ではない。
フレーズの終わりまで意味が続くように、どこへ重みを置くかを考えることだ。
言葉のアクセントと曲の流れを保ちながら、最後の音のあとに残る意味まで聴く。
速い曲とは違う楽しみ方が、ここにはある。

「Little Bit Better」で、歌い手に合わせて音を選ぶ

発音と節回しの魅力を、共に作った音楽家が説明した例もある。
2020年にZEUS名義で「Little Bit Better with BONNIE PINK」を発表した奥田健介は、作曲・編曲を担い、BONNIE PINKが詞と歌を担当した。
奥田はMikikiの取材で、彼女の声だからこそ、曲の中の二、三カ所をブルーノートで歌ってもらったと明かしている。

ブルーノートは、明るい長調の音づかいに陰りや揺れをもたらす、ブルースに特徴的な音だ。
奥田は、別の歌い手だったら同じ指定はしなかったと話す。
借り物のブルースらしさに聞こえず、自然な表現として成立する声だと見込んでいたのである。
言葉の発音だけでなく、どの高さへ声を運ぶかにも、作り手が信頼を寄せる個性があった。

この曲では、ポップな音に、何かへ反抗する気持ちを含んだ詞を重ねたいという依頼もあった。
彼女が書いたのは、過去の恋人を振り切って、もっと幸せになろうとする人物の歌だったと奥田は説明する。
明るく歌える曲にも、悔しさや意地が入り込む。
冒頭で触れた明暗の両面は、音の選び方と、言葉を口にする人物の両方から作られているのだ。

ステージでは、編成に合わせて声の距離を測る

小編成の「Tiny Kitchen Tour」をBONNIE PINKは、声がより前に出る分、緊張感が増した公演として振り返る。
三人で一曲ずつ紡いだという言い方からは、録音の歌をそのまま再生するのではなく、その日の演奏に声を合わせる姿勢がうかがえる。
大きなバンドでの30周年公演では、コーラスを含む厚い編成が別の役割を担った。
どちらが「本当の歌い方」かという二択ではない。

録音では楽器に混ざり、ライブでは言葉を前へ出す

声をどれほど前に置くかについても、本人ははっきりした考えを持っている。
2012年の『PILOT』の取材では、CDでは声を楽器の一つと捉え、伴奏の中へ溶け込ませたいと語った。
スタッフから声の音量を上げてはどうかと言われても、自分では下げることがあったという。
録音なら、小さな声でも大きく聞こえるよう調整できるため、力で押し切る歌い方はあまりしないとも説明している。

一方、ライブでは、観客やバンドに刺激されて大きな声を出すこともある。
初めて聴く人にも歌詞が伝わるよう、声を最も届きやすい位置に置くと話した。
CDは繰り返し聴いて細部を発見できるが、ライブではその場で言葉を受け取ってもらう必要がある。
声量の違いには、そうした聴かれ方の違いも関わっていた。

音源と舞台で印象が違うとき、どちらかだけを基準にしては、この選択を見落とす。
本人は、その日のアドリブや、その顔ぶれのバンドだけが作れる音も大切にすると語っている。
言葉をリズムに乗せるだけでなく、周囲の音と聴き手の間にどう置くかまで考えて、歌は完成するのだ。

BONNIE PINKの歌い方の芯は、決まった高音技術の名前ではなく、言葉を曲から切り離さないことにある。
英語も日本語も自然なアクセントを残し、速い曲では流れをつなぎ、バラードでは意味が届く場所へ言葉を置く。
その選択がどう変わってきたか、声を一度失いかけた時期と「A Perfect Sky」以後を含む歩みは、BONNIE PINKの歌声の変遷で読める。

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